既に2個の銀メダルを持っていた渡部暁にとって、5度目の五輪の目標は一つだった。「金を取りたい気持ちはこれまでのどの大会より強い」。目指した頂点には届かなかったが、胸を張れる戦いぶりで銅。「望んでいた色ではないが、形があるものを残すことができてよかった」。激戦を終え、穏やかな表情だった。 前半飛躍は135メートルの大ジャンプ。今季はなかなか不調から抜け出せなかったが、9日の個人ノーマルヒルの後、トレーナーからの指摘で太もも裏の筋肉の使い方を意識して変えてみると、調子が上向いた。「ここにきて一番いいジャンプが出せた」 2.5キロのコースを4周する後半距離は、氷点下20度に迫る気温。延期や中止目前の厳しい条件のレースで好走した。トップのリーベルから54秒差でスタート。2周目に入る前にコースを間違えてタイムロスしたリーベルとの差が10秒弱に縮まると、好機を逃さず捕まえ、積極的に前に出て集団を引っ張った。 先頭集団のメンバーが入れ替わっても力走。残り1.5キロの時点ではファイスト(ドイツ)、ランパルター(オーストリア)と3人でメダルの色を争う展開かと思われたが、最終盤に猛追してきたノルウェー勢の2人にかわされ、0.6秒の僅差で金メダルを逃した。「力が残っていなかった。ベストを尽くしていいレースはできた」と納得した。 今季はW杯個人戦で一度も表彰台に立っていないことを考えれば、大舞台での勝負強さはさすが。大先輩の金メダリスト荻原健司さんや、いつも一緒に転戦する代表の河野孝典コーチを超えて日本勢初の3大会連続メダル。誇れる勲章が加わった。(時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕ノルディック複合個人ラージヒルで銅メダルを獲得した渡部暁斗(右)=15日、張家口 〔写真説明〕ノルディック複合個人ラージヒル、後半距離で力走する渡部暁斗(手前)=15日、張家口