特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。




(画像=株式会社フーディソン)








山本 徹(やまもと とおる)――株式会社フーディソン代表取締役CEO


2001年4月不動産ディベロッパー入社。2003年4月に株式会社エス・エム・エスへ創業メンバーとして参画し、ゼロからIPO後の成長フェーズまで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わる。2013年4月に株式会社フーディソンを創業し、代表取締役CEOに就任。北海道大学工学部卒業。









株式会社フーディソン


創業メンバーとして上場まで果たした医療介護系の会社を辞めた山本徹が、ある三陸のサンマ漁師から「船のガソリン代も稼げない」「息子には漁師を継がせたくない」という話を聞いたのをきっかけに水産業に問題意識をもち、2013年4月に当社を設立しました。現在は「生鮮流通に新しい循環を」というビジョンを掲げ、飲食店向け生鮮品EC『魚ポチ』、いつも新しい発見のある街の魚屋『sakana bacca』、フード業界に特化した人材紹介サービス『フード人材バンク』を展開しています。







創業から現在に至るまでの事業変遷


――
それではまず、創業から現在に至るまでの事業変遷について教えていただけますでしょうか。


株式会社フーディソン 代表取締役CEO・山本 徹氏(以下、社名・氏名略)
私たちは、水産を軸にした生鮮流通分野の構造改革を進めるために必要なプロダクトを開発することで成長してきました。現在は、生鮮流通分野の構造改革を進めるために3つのサービスを展開しています。




(画像=株式会社フーディソン)




まず最初に、業界を変えるためには多くの買い手と売り手を集め、マッチングするシステムと物流のシステムが必要だと考え、『魚ポチ(うおぽち)』というサービスを始めました。
これは、現在のプラットフォーム事業の基盤となるサービスで、多くの売り手・サプライヤーのネットワークや産地側のネットワーク、そして多くの買い手である飲食店を獲得することができました。そして事業拡大に伴い、大田市場内や大田市場近郊に出荷拠点も確保し、魚を流通させるためのECサイトの成長を伸ばしてきました。




(画像=株式会社フーディソン)



次に取り組んだのが、小売事業におけるBtoCのサービス『sakana bacca(サカナバッカ)』です。
顧客ネットワークを獲得する上で、業界にとって重要なのが魚に適正価値をつけて売る機能です。安くて大量に売るというビジネスは、国内の魚の水揚げ量が最盛期の3分の1になっている中で、維持できないと私たちは考えています。そのため、魚に適正価値をつけて、世の中に伝えていく機能がなければ立ち行かなくなると思い、『sakana bacca』というBtoCのサービスを立ち上げました。




(画像=株式会社フーディソン)



3つ目に『フード人材バンク』という流通業界における労働条件のマッチングと流動性を改善することを目的としたサービスを立ち上げました。例えば、おいしい魚を刺身にする技術者がいなければ、その魚の価値は十分に発揮されません。しかし、現状ではこのような技術者が不足しており、労働条件の情報もオープンになっていません。そこで『フード人材バンク』を通じて、労働条件の改善やキャリアアップが見込めるような環境を整え、流通業界を支援しようとしています。


上場に至った背景や思い




(画像=株式会社フーディソン)



――
次に、貴社の上場に至った背景や思いについて教えていただけますでしょうか。


山本
私たちが上場を目指した理由は大きく2つあります。
1番大きな理由は、前職のエス・エム・エスという会社の創業から上場までの過程を間近で見ていて、起業したら上場まで持っていくのは当然のことだと認識していたことです。


一方で、エス・エム・エスを辞めて再びチャレンジすると決めた際に、エス・エム・エスでは素晴らしいポジションに居て、居心地も良かったのに、なぜ辞めるのか、何を目指すのかを真剣に自分に問い直しました。エス・エム・エスでは実現できない、自分の寿命を超えて伸ばし続けられる余地がある産業に挑戦したいと思いました。それが食の分野でした。


上場した2つ目の理由は、100年、200年続く企業になりたいと思ったからです。上場できるほどの会社のガバナンス体制やマネジメント体制を持っていなければ、100年、200年続く企業にはなれないという覚悟を持っていました。私は、立ち上げた会社がプライベートカンパニーで終わるのではなく、自分が亡くなった後も続いていくような会社を作りたいという想いがあり、食の課題に取り組むことで、絶対に無くならない価値を生み出せると確信していました。


思い描く未来構想


――
山本代表が思い描かれている未来構想や事業戦略を教えていただけますでしょうか。


山本
私たちは大きく2つの方針で事業戦略を考えています。


1つ目は3つの既存事業をしっかりと伸ばしていくということです。
まず、当面の3年間の成長に関しては、3つの既存事業がまだマーケット的に十分なポテンシャルがあるため、これらの事業をしっかりと伸ばしていきます。


特に『魚ポチ』サービスは全国にまだ多くのお客様がいるため、伸ばしていける余地があると考えています。既存のサービスを伸ばしていく中で、3年間で売上総利益を40億円まで伸ばしていこうと思っています。


2つ目は、プラットフォーム拡充のために新しいサービスを作っていくことです。
これまで確保してきたお客様やサプライヤーのネットワーク、出荷拠点を活用することや、蓄積してきた情報をマッチングすることで、プラットフォーム内の事業展開で新たなサービスを作っていくことを想定しています。これは、先ほどの40億円の売上総利益に対してプラスアルファになるものと認識しています。


さらに、プラットフォーム事業の中の『フード人材バンク』という支援機能は、全国のスーパーマーケットの40%ほどと取引していますが、流通機能側で言うと、スーパーマーケットに対するサービス提供がまだできていないところがあります。これは成長余地が大きく残っているピースだと捉えています。


水産流通の世界では、権利が非常に重要な要素です。この業界では、仲間と認めてもらわない限り商売が成り立ちません。


そのような業界に、デジタルだけで入ってくる会社や、権利だけで戦おうとしている会社はそれほど怖くはありません。デジタル人材と市場を活用できる人材は全く別物で、それが今、我々の社内にいることは業界的には異例だと思います。デジタル人材と市場を活用できる人材が両方存在する私たちでなければ実現できない戦略を進めているので、それが他社との大きな差別化ポイントになっていると考えます。


ファイナンスにおける課題や重点テーマ


――
金融・経済市場において、貴社または代表ご自身のファイナンスにおける課題や重点テーマを教えていただけますでしょうか。


山本
課題は、魚の流通業界がなかなか認知されていないことです。魚の流通業界は、身近な業界のように見えて、身近ではない業界です。皆さんは魚を食べたことはあると思いますが、流通の仕組みについては知らない方がほとんどだと思います。生鮮品全般に言えることですが、お客様や株主の方に流通の仕組みを感覚的に理解していただくまでに距離感があると感じています。


その結果として、個人投資家を含む株主数はまだまだ少ないです。地道にIR活動を行い、個人投資家や機関投資家の方に弊社のことを理解していただくことと、計画している業績を達成していくことで認知を広げていくことが重要だと考えています。


読者へのメッセージ


――
最後に、ZUU onlineの読者に向けたメッセージをお願いいたします。


山本
世の中は驚くべき速さで変化しています。例えば、本がEC化しないと言われていたのに、今ではEC化されていて、医療品も同様にプラットフォームができていることが証明されています。私は、いずれ誰かの手で、生鮮食品や魚の流通の分野でもプラットフォームが作り上げられる時代が来ると考えています。我々は、その分野で圧倒的な存在感を持つプラットフォームを目指しており、長期的な経営を展開していく予定です。皆様には、ぜひ期待してご覧いただければと思っています。



氏名

山本 徹(やまもと とおる)

社名

株式会社フーディソン

役職

代表取締役CEO

情報提供元: NET MONEY
記事名:「 水産業界のデジタル革命:新たな流通システムへの挑戦