特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。




(画像=株式会社アソインターナショナル)






阿曽 敏正(あそ としまさ)――株式会社アソインターナショナル代表取締役


1960年7月25日東京都品川区生まれ。歯科医師である叔父の勧めから日本歯科大学付属歯科技工士学校へ進み、同校のインストラクターとなる。米国の巨大な歯科矯正マーケットに魅了され、一念発起して1982年4月歯科技工所ASO DENTALを起業、88年5月アソデンタル(現アソインターナショナル)を設立し代表取締役就任、矯正専門技工物のパイオニアとして歩み続け、日本国内では圧倒的シェアを誇る。2022年12月業界初となる東証スタンダード市場へ上場、矯正一筋42年。







株式会社アソインターナショナル


審美・未病を目的とした歯科矯正装置の製造販売を展開。強みは創業来蓄積の豊富な症例から得られたノウハウにあり、高付加価値製品や保定装置等国内市場において圧倒的なシェアを誇る。顧客は矯正診療を行う歯科医療機関で全国約2万5,000件を数える。CAD/CAM、3Dプリンターや口腔内スキャナ等、矯正装置製造工程のデジタル化に注力し、米国~アジア・オセアニアを中心としたグローバルマーケットでの売上拡大を目指す。







創業から上場までの事業変遷





(画像=株式会社アソインターナショナル)



――創業から上場までの変遷について教えていただけますか?


株式会社アソインターナショナル代表取締役・阿曽 敏正氏(以下、社名・氏名略)


創業は1982年で、42年前に矯正専門の技工所としてスタートしました。当時は歯医者さんに行くのは虫歯で歯が痛いからで、矯正専門の歯医者はほとんどいませんでした。私は日本歯科大学付属の技工士学校を卒業し、2年間インストラクターを務めていましたが、矯正専門の技工学校では入れ歯などを作ることがメインでした。


その頃アメリカには、大きな矯正専門の装置を作っている会社があったんですが、あるときに雑誌を開いたらその会社の大きな広告が載っているのが目に入りました。
マクドナルドやスターバックスが日本でブームになったように、矯正もいつかブームが日本に来ると思い、周りの反対を押し切って業界に入りました。27歳の時にはアメリカに渡り、矯正技術を勉強し、日本に持ち帰りました。


当時は、日本とアメリカで、医療業界における矯正の温度差が大きく、日本ではまだ流行っていなかったのですが、アメリカから帰ってきて3、4年後にやっと矯正がクローズアップされてきましが、現在は日本にある29の歯科大学のほとんどで矯正の仕事をやらせてもらっています。実績で言いますと、矯正専門の先生が日本には約25,000件いるんですが、そのうちの3割程度のシェアを弊社が持たせてもらっています。


2018年頃には会社経営が安定し、上場を進めることになりました。そのきっかけの一つは、海外市場において8000億円の歯科技工市場が存在し、そこにチャレンジすることです。またもう1つが、日本の歯科技工士会は離職率が高いため、当社が上場することで歯科技工士に対する注目が高まり、業界が活性化し、技工士を目指す人も増えると考えたからです。そして無事、2022年12月23日に東京証券取引所スタンダード市場に上場しました。


上場後の戦略


――上場後の今後の戦略についてですが、特に海外市場に注力されるとのことですが、どのような展開を予定されていますか?


阿曽:現在、売り上げの4.1%が海外市場からのものですが、今後はその比重を徐々に増やしていく予定です。すでに65カ国とのパイプがありますし、技術の進歩により、口腔内スキャナーを使ってデータを瞬時に海外に送信し、どこでも同時に製造やチェックができるようになりました。これにより、今後は海外売り上げを10%、20%と伸ばし、最終的には半分ぐらいまで拡大したいと考えています。


――労働人口の確保、特に歯科技工士さんの確保が重要なテーマだと思いますが、貴社はどのような方向性で考えていますか?


阿曽:技工士の高齢化と離職率が高い問題がありますが、弊社が上場したことで北海道から九州まで日本全国の技工士の学校の先生から電話があり、面接や試験を受けたいと依頼が来ている状況です。ただ、弊社だけ良くても意味がないので、先ほど申し上げたように、業界の活性化を狙って、他の企業とのパートナー協力を拡大しています。具体的に言いますと、全国56カ所に協力パートナーがおり、弊社から技術を学んで独立していただき、そのパートナーに製造をお願いしています。そこが安定した供給を実現し、お互いに固定費も抑制でき、安定しています。


あとは海外ですね。日本は国家資格がありますが、海外では国家試験がなく、学校はあるものの資格制度が異なります。現在、マニラに300名近くの技術者がおり、そこから歯科医院にデータが送られてきて、日本の優秀な技工士が同時にチェックし、加工してDHLで送るというパターンが構築できています。今後は業務提携するか、現地法人を作るかということを検討しています。





(画像=株式会社アソインターナショナル)



――国内の市場規模は約90億円と言われていますが、潜在的な層も含めると今後さらに増えていくというイメージでしょうか?


阿曽:はい、そうですね。今後も市場規模は拡大していくと考えています。
現在、日本で矯正を受けている人は10人に1人以下と言われています。アメリカでは人生のうちに3回、ヨーロッパでは2回歯科治療を受けることが一般的です。日本もそのような文化になっていくのではないかと思います。まずは国民全員が矯正を受けることがファーストフェイズで、次に人生のうちに数回矯正を受けることが一般的になるでしょう。そうなれば、まだまだ需要は伸びていくと考えています。


今後の貴社における事業戦略や展望


――貴社は、審美や未病のオーダーメイドといった、付加価値の高い分野でポジショニングされていると思いますが、今後の成長戦略についてどのようにお考えですか?


阿曽:付加価値を高めて、歯科技工士1人あたりの売上を上げていくことが成長戦略の一つです。
学校で習う技術というのは、汎用的で誰でも作れるようなもので、3年ぐらい勉強すればできるのです。ただ、教科書に出ていない、または先生方も知らないようなものを私達は世界から技術導入しています。そういった技術は、日本でもまだまだ導入されておりませんので、海外から材料と技術を輸入して、実際に海外のドクターを日本に招いてセミナーを開催するなどを既に実施しております。そうすることで、治療期間も短くなり、更に治療効果も高くなります。それが、医院の売上向上に繋がりますし、結果的に弊社にも還元される、という好循環が生まれます。そういう形で付加価値のあるものを今、世界から探しているという状況です。


――お客さんの数も今後増やしていくというイメージですか?


阿曽:そうですね。今はセミナーを開催しています。コロナの時は対面式のセミナーができなかったのですが、去年あたりから新潟で日本矯正歯科学会という国内歯科矯正業界で最大規模の学会が開催され、私たちも大きなブースを出展しました。そこにはたくさんの人が集まり、お客さんもどんどん増えています。今、営業活動にはかなり力を入れています。


――なるほど。紹介やホームページからのインバウンドが比重を占めていると思いますが、今後アウトバウンドの営業活動も増やされていく方針なのですか?


阿曽:そうですね。技術講師も増やしますが、優秀な営業人材も採用しています。あとは、そういった人材の教育にも注力していくつもりです。


投資計画について


――今後どういったところに投資していく予定ですか?


阿曽:実は、まだそれほど投資していないです。ただ、一つ間違えると命取りになるので、内部と海外とのやり取りを慎重に検討しています。例えば、二年前までは金属の粉末で作るメタルプリンターが最先端で、一台5000万円で二台ぐらい買おうかという話もありました。しかし、現在は200万円ぐらいで購入できるようになっています。つまり、あのタイミングで購入する必要はなかったということです。
現在も様々な製品やプロダクトが生み出されていますので、日本では導入できないようなものにターゲットに絞って購入していきたいと考えています。


また、AIを使った取り組みも進めていこうとしております。基幹システムのERPを刷新し、継続的に拡張機能を持たせてAIを取り入れたり、製造プロセスにインパクトのある機能を追加していったりする予定です。 また歯の正しい位置を、AIを用いて並び替えるということも取り組もうと思っています。人間が行う作業をかなり減らすことができます。


――海外投資はいかがでしょうか?


阿曽:そこも検討しております。海外拠点への設備投資などが上げられますし、他にも現地法人を設立するかは決まっておりませんが、いかに海外に弊社の技術を布教していこうかと考えているところでございます。私たちの技術は海外の先生方にも理解されており、展示会などで発表することも多々あります。技術的には問題ないのですが、集客や営業面でどのように進めるかが課題となっています。


――なるほど、ありがとうございます。
日本でも海外でも、審美歯科やインプラントなどは、それなりの金額がかかるものと認識しています。弊社のビジネスモデルもそうですが、どのようにマス層にまで広げていかれるおつもりでしょうか。


阿曽:正直、やはり昔は富裕層が主に矯正歯科を利用していました。しかし、少子化が進んでいる現代では、子供たちにお金をかけようという考えが広まっており、多くの家庭で矯正治療に対する需要も高まっているのが現状です。


ちなみに、マウスピース矯正はご存知ですか?


――はい、もちろんです。


阿曽:アメリカのインビザラインという会社が独自ブランドのマウスピース矯正を展開しておりまして、この企業がかなりマーケティングがうまく多くの人々に波及させたという背景があり、富裕層ではない中間クラスの患者さんが国内で増えていることは間違いありません。
当社では独自のブランドのマウスピース矯正を提供しており、実際に需要もかなり高まっている状況です。


また、患者さんの治療費をリーズナブルにするために、当社ではパッケージプランを提案しています。例えば、最初にマウスピースで治療を始め、その後取り外しの効くネジが入った装置やブラケットを使用することで、患者さんに最適な治療を提供しています。これにより比較的治療期間も短くなり、効果的な治療が可能となっています。


――エンドユーザーの声はどのように拾い上げられているんですか?


阿曽:営業担当が患者さんからの声を、歯科医師を通じて吸い上げています。僕らが納品したものは、患者さんの口の中に入るので、営業マンがヒアリングベースでどうでしたかとブラッシュアップする場所を聞いています。


――なるほど。そのあたりに、貴社商材が高付加価値を生み出し続ける秘訣だったりもするのですね。今後、歯科だけでなく、美容や医療との連携はどのように考えていますか?


阿曽:実際に大手の美容整形外科から問い合わせがあるんですよ。例えば、顔の形を変える手術などがありますね。最近では、シミュレーションソフトがあり、顔の形が変わると鼻が高く見えるなど、そういったことが流行っています。
それに関連して、自社が持っている技術が医療の方でも生かせる部分があると確信しております。シミュレーションやVR・XR技術などがあります。また、CTを解析する技術も我々が所有しています。これらの技術を活用して、さらに広い分野にもトライできる環境が整っていると考えています。実際に、現在計画中のアライアンスもいくつかあります。


ZUU onlineのユーザーに一言


――それでは最後に、弊社のメディアユーザーに対して、社長から一言メッセージをいただけますか?


阿曽:今日はいろいろありがとうございました。上場して一年経ちますが、これからが私の出発だと思っています。今回いろんなお話をさせていただきましたが、今後は海外を中心に、日本国内も売上を上げて頑張っていきますので、皆様の応援のほどよろしくお願いいたします。



氏名

阿曽 敏正(あそ としまさ)

社名

株式会社アソインターナショナル

役職

代表取締役

情報提供元: NET MONEY
記事名:「 矯正専門ラボのパイオニア アソインターナショナル:上場までの事業変遷