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人事やビジネスにおける「エンゲージメント」とは、従業員が企業に対して抱く愛着や愛社精神を意味します。単に在籍しているだけでなく、精神的・感情的な面で企業に深い思い入れを持ち、自身の働きで企業に貢献する姿勢を持っている状態です。仕事に対する熱意や誇り、職場環境への愛着もエンゲージメントの一部と捉えられます。
エンゲージメント率の高い組織では、企業や株主が得る利益の増加率が高い傾向も明らかにされており、近年ではエンゲージメントを高めることは組織の成長のための喫緊の課題です。
エンゲージメントを高めるには、企業側からの従業員への意識的な働きかけが有効とされています。まずは自社の現状を把握し、エンゲージメントを高める施策を制度や企業カルチャーとして定着させていくことが肝要です。
従業員のエンゲージメントに関して、アメリカの人事コンサルティング会社KeneXa High Performance Institute(KHPI)が2012年に発表した有名な調査報告「エンゲージメントレベルの世界的な低下:競争優位性を失う組織」があります(※1)。
同調査の結果、トップ3のインド、デンマーク、メキシコの企業のエンゲージメントが77〜63%であったのに対し、日本企業は31%と28カ国中で最下位でした。
この調査はアメリカや日本を含む28カ国、3万1,000人以上を対象に行われた、管理職やリーダーの有能さ、上司の振る舞い、ダイバーシティの実践、仕事の満足度、離職理由などの質問項目への回答をもとに、企業に対する従業員の愛着度を計ったものです。報告書のタイトルからわかる通り、エンゲージメントの低下が企業の競争力にマイナスな影響を与えることに警鐘を鳴らし、エンゲージメントを高めるための示唆を提示しています。
エンゲージメントは従業員のモチベーションとも密接に関係するため、近年は日本でも「エンゲージメントをいかに高めるか」をマテリアリティのひとつに掲げる企業が少なくありません。このことから、エンゲージメントを高める施策は急務であり、継続的なアクションによるエンゲージメント維持の必要性がうかがえます。
※1:Engagement Levels in Global Decline: Organizations Losing a Competitive Advantage
エンゲージメントを高めることの意義と同時に、エンゲージメントの低下で企業に何が起こるかを理解しておくことはリスクの回避に寄与します。エンゲージメントの低下によって発生する2つの深刻なデメリットとして、「優秀な人材の流出」と「生産性や利益率の低下」の可能性があることがわかっています。
アメリカの調査・コンサルティング会社ギャラップ(Gallup)が2017年に実施した調査でも、日本企業のエンゲージメントは139カ国中132位と、世界の中で極めて低い結果が導き出されました。日本企業における「熱意あふれる従業員(engaged employees)」の割合はわずか6%と、トップクラスのアメリカの33%や、世界平均の15%から大きく乖離しています(※2)。
熱意のない従業員はその企業で長く積極的に働く理由に乏しく、エンゲージメントの低さは人材定着率の低さにも繋がり得ます。また、どれほど優秀な人材を採用・育成しても、エンゲージメントを高める施策なしでは人材流出の恐れがあり、離職率に課題を持つ企業にとっては特にシビアなリスクです。
※2:State of the Global Workplace
上述の調査結果によると、日本企業の94%の従業員は仕事に熱意を持っていない状態です。このうち24%は「周囲に不満をまき散らしている無気力」な従業員、70%は「やる気のない」従業員と明らかにされています(※3)。
熱意のない人材が、企業にネガティブな影響を与えることは想像に難くありません。もしこの94%の人材のエンゲージメントを高めることができれば、企業の生産性や利益率を高めることに寄与する可能性があります。
同調査の報告書では、エンゲージメントの高さが職種・業種によっても異なることに言及し、「人よりも作業プロセスを重視する業界は、エンゲージメントを高めることに苦労している」と分析。エンゲージメントを高めるには、従業員の意見表明やスキルセット拡大のチャンスがあり、個人の強みを生かせる職場が重要だとしています。
※3:「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査(日経新聞)
従業員の満足度を高めることは、エンゲージメントを高めることと完全に同義ではありません。エンゲージメントを高めるには、従業員を中心に置いて満足度を高める施策を取りつつ、愛社精神の醸成も促す企業側のアクションが必須です。以下の10の施策で、企業と従業員の双方にプラスとなる環境を創出しましょう。
企業の経営方針や価値観は、消費者や投資家だけではなく、従業員に向けても掲げるべきものです。経営学者ピーター・ドラッカーは、企業の存在の正当性を示すミッション、ビジョン、バリュー(MVV)の3つの重要性を説きました。
明確なMVVを持つ企業には、それに共感した従業員が集まり、従業員個人が持つ目標や展望とMVVを関連付けながら成長していくことができます。MVVが存在するだけでなく、確実に伝わる方法で発信されていることもポイントです。
同じ方向へ進むための旗印として、エンゲージメントを高める上で第一にMVVの浸透を図りましょう。
従業員同士だけでなく、従業員と上司や経営層といった関係においてもコミュニケーションが活発で、「問題や悩みを相談しやすい」「自分の話を聞いてくれる会社だ」「上層部の考えが理解できる」と感じられる職場では、エンゲージメントが醸成されやすくなります。
そのためには、活発なコミュニケーションが生まれやすい仕組みを持つことが重要です。例えば、利用しているビジネスチャットや社内SNSで、横にも縦にも繋がるチャンネルを設ける、社内報や社長通信で従業員の声を取りあげるなど、一方通行でなく双方向のコミュニケーションの量と質を高める仕組みを作りましょう。
従業員の頑張りが給与や待遇に反映される企業と、頑張っても納得のいく評価体系がない企業とを比較すれば、どちらでより長く働きたいかは一目瞭然です。「努力が適正に報われ、評価される会社だ」という従業員の体験的な理解は、エンゲージメントを高めることに繋がります。
人事評価制度の決め手となるのは、公平性の高さです。経歴、勤務時間、ジェンダー、国籍などにかかわらず、成し遂げた仕事自体が公正に評価される制度があれば、従業員は企業への貢献意識をますます高めると考えられます。
まずは現行の評価制度をレビューして評価体系の穴を探し、優れた結果を出しているにもかかわらず評価対象から漏れている人材がいないか、従業員の目線で考えてみましょう。アンケートなどのコミュニケーションにより、評価制度の改善点について意見を募ることも有効です。
エンゲージメントを高めることは、企業の経営層レベルのみならず、現場レベルでも同じ意識を共有していることで実現可能になります。そのためには、部下が会社に愛着を持ちながら成長できるよう、部署やプロジェクト単位の現場のリーダー人材の教育が欠かせません。
いきなりリーダーのポジションを与え、教育なしでリーダー職を務めさせるのはあまり効率的ではありません。業務スキル、人材マネジメント、コミュニケーションなど、リーダー人材に必要な能力を高める研修機会を、初期だけでなく定期的に提供すると効果的です。
チームメンバーとコミュニケーションを図りながらチームの力を最大化できる、優秀なリーダーの育成が、企業のエンゲージメントを高めるうえでの鍵といえます。
「仕事を通じた成長」を就業条件に挙げる人も多い現代では、企業による成長機会の提供もエンゲージメントを高めるために有効です。成長機会の提供の方法としては、セミナーへの参加や資格取得の支援の他、社内勉強会の開催、段階的に成長できるプロジェクト方式などが求められます。
ただ教育制度や機会を提供して終わりではなく、自分を磨くことに積極的になれる雰囲気作りも欠かせません。例えば、上司も自ら学び続ける姿勢を部下に見せる、学びがすぐに仕事に生きるチャンスを設ける、スキルアップが賞与や昇進に影響するなど、全社的な方針を打ち立てて成長のための環境を整えましょう。
何より、従業員本人が成長に喜びを感じられることが最大のモチベーションです。「成長することが楽しい」「この会社にいれば成長を続けられる」と実感してもらうことで、仕事への意欲と企業への愛着を同時に高めることができます。
業務の進め方や働き方におけるストレスの少なさは、従業員の活躍度やエンゲージメントを高めることにも影響します。働きやすい環境を用意することで仕事の能率や精度が物理的に上がるだけでなく、エンゲージメントを高めることが生産性や利益率の向上に繋がり、人材が定着しやすくもなれば、関わる全員にとって価値ある環境整備です。
働く環境には、オフィスのレイアウトや機器といったハード面、そして情報伝達の仕組みや勤務体系などのソフト面も含まれます。何を、どのように、いつまでに整備したいのか、従業員と積極的にコミュニケーションを図り、意見を取り入れて改善を図るとよいでしょう。
従業員の活躍を下支えする充実した研修は、企業と従業員のコミュニケーションの場でもあります。
現場の声を採りいれた実践的な研修プログラムを構築し、上述の①のMVVの浸透の機会としても活用しましょう。既存の研修プログラムも、時代やトレンド、対象者の世代などに合わせて見直し、適切なアレンジを加えると研修効果を高めることができます。
また、新しい業務やスキルを学ぶことには不安がつきものです。そんなときこそ、従業員に寄り添った研修制度で実力をつけさせると同時に、仕事への自信や誇りを培うサポートをしましょう。手厚い研修を受け、自身の成長を実感することで、「この会社にいるから自分を高めることができている」と考え、従業員のエンゲージメント意識への刺激となります。
従業員同士が互いのよい点を認め合ってリスペクトできることは、快適な職場の空気感のベースになります。啓蒙活動によって認め合うことを促すだけでなく、「仕組み化」するのがおすすめです。
例えば、従業員の優れた顧客対応や課題解決の事例を気軽に共有するチャットを導入する、プロジェクトのミーティング時にチーム間で必ずポジティブなフィードバックを行うなどの仕組みが考えられます。コミュニケーションの仕組みによって互いを認め合う行動を促進し、エンゲージメントを高めることに繋げていきましょう。
仕組みづくりの施策の一環として、「サンクスカード」の活用もおすすめです。サンクスカードとは、従業員同士が感謝の気持ちを手紙にして伝えあう社内制度の一種。従業員同士が互いのよい点を認め合い、それを手紙として相手に伝えることで、社内に称賛の文化を醸成することができます。
サンクスカードについては、下記の記事で詳しく紹介しているので、気になる方はぜひご参考ください。
同期や同じ専門性を持つ従業員がいることは、働きやすさを高めるために役立ちます。人と働く楽しさを感じ、仕事の悩みや蹉跌(さてつ)を共有し、共に乗り越えた経験は、従業員と仕事、ひいては企業との結びつきを強くします。
そうした人間同士の横の繋がりを強化する機会を、チームメンバーのローテーションや社内イベントなどの形で企業側が提供するといいでしょう。新人研修に限らず、社内での研修の機会をこうした横の繋がりの強化に役立てるという方法もあります。
多様性への柔軟さが求められる現代では、従業員のワークライフバランスへの対応も不可欠です。育児や介護に対応した時短勤務や在宅勤務、趣味や家族のための有給休暇を取りやすい企業風土などがあれば、従業員は限られた時間でも活躍できたり、メリハリをつけて仕事に取り組めたりと、労使双方にメリットがあります。
厚生労働省が2022年に発表した雇用動向調査結果でも、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」は男女ともに離職理由の中で一定の割合を占めています(※4)。このことからも、ワークライフバランスを高めることが企業と従業員にとって大切であることが理解できます。
個人の生活スタイルに合わせてワークライフバランスを調整できる環境作りで、企業の魅力を高めると同時に、エンゲージメント向上にも役立てましょう。従業員個人や現場の状況をしっかりヒアリングし、現実に即した制度を機能させることがエンゲージメントを高めるうえでポイントです。
エンゲージメントを高める上述の10の施策を取るうえで、要となるのは円滑なコミュニケーションの継続です。従業員の声を聞きやすい土壌の醸成、気軽な相談やフィードバックの常態化、横の繋がりの強化といった課題を解決するために、チャット型のコミュニケーションツールを活用をしてみましょう。
ビジネスチャット「WowTalk(ワウトーク)」は、プライベート用のチャットに近い操作性と法人向けのセキュリティ精度を併せ持つ、国産ビジネスチャットツールです。
1対1やグループでのチャットの他、共有(掲示板)機能で部門を横断するコミュニケーションを図ったり、テンプレートを使った手軽な日報機能で従業員からの提案や意見をキャッチしたりなど、効率化したい業務や抱えている課題に合わせて多様な使い方ができます。
チャット型のコミュニケーションツールは、テレワークなどの新たな働き方でもコミュニケーションの頻度と質を落とすことなく、エンゲージメントを高めることに寄与します。低コストで導入も簡単なWowTalkを、エンゲージメントを高める施策に役立ててみてはいかがでしょうか。