化石燃料の燃焼や生物活動では、CO2排出に伴いO2が消費されます。セメント工場でも、セメントの原料となるクリンカ(主成分:CaO)を生成するために石灰石が焼成されます。その熱源として化石燃料の燃焼によるCO2排出とO2消費が生じます。しかし、クリンカを得るための石灰石の反(CaCO3→CaO+CO2)そのものでは、CO2が排出されますが、O2が消費されません。本稿では、このようにO2消費を伴わない過程で放出されたCO2を、「セメント生産に由来するCO2」と定義します。この特徴から、大気のCO2濃度とO2濃度を高精度で同時に観測し両者を組み合わせることで、セメント生産に由来したCO2濃度の変動を抽出できます。抽出した変動は、統計値に基づく工場のセメント生産CO2排出量を大気輸送モデルに入力し、気象庁観測所における濃度変動をシミュレーションした結果によって説明できました。このことから、大気観測の結果と大気輸送モデルを使うことで、工場のセメント生産に由来するCO2排出量を概算できたことになります。本手法は、工場からのCO2排出・吸収にO2の反応を伴わないプロセスに広く適用できます。そのため「セメント生産」を、CO2を大気から除去するDAC(Direct Air Capture)などの「ネガティブエミッション技術」に読み換えることが可能であり、当該技術の導入時にCO2削減量の実態をモニタリングするために有望な手段です。
なお、この技術の詳細は、2024年1月24日に「Atmospheric Chemistry and Physics」誌に掲載されました。
論文情報 掲載誌:Atmospheric Chemistry and Physics 論文タイトル:Measurement report: Method for evaluating CO2 emissions from a cement plant using atmospheric d(O2/N2) and CO2 measurements and its implication for future detection of CO2 capture signals 著者: Ishidoya, S., Tsuboi, K., Kondo, H., Ishijima, K., Aoki, N., Matsueda, H., and Saito, K. DOI:doi.org/10.5194/acp-24-1059-2024