低温でスピンが量子学的にゆらいだ状態。結晶構造の幾何学性などの影響でスピン間の相互作用にフラストレーションが働くときに実現するものと期待されています。1973年のアメリカの理論物理学者P. W. Andersonによる理論的予測に端を発し、実験・理論の両面から磁性体研究の中心テーマのひとつとして精力的に研究されています。本研究対象のTb2Ti2O7では結晶構造の幾何学的フラストレーションに加えて、どうやらテルビウムイオンが持つ電気四極子の自由度がその実現に大きな役割を果たすことが、今回の研究の結果、浮き彫りとなりました。
*3.スピンアイス
スピンアイスは、三角格子の三次元版であるパイロクロア格子上の強磁性イジングモデルとして知られ、その基底状態は氷(アイス)と同様のフラストレーション、すなわちアイスルールによって特徴づけられます。実験的には、パイロクロア格子酸化物のR2T2O7 (R = Dy, Ho, T = Ti, Sn)がスピンアイスの性質を示す興味深い例として知られており、統計学的な理論と実験とを比較できる理想的な物質系のひとつです。