2017年3月1日の日刊工業新聞を読んでいたら、「AI投信」の人気沸騰、運用各社の純資産総額が急拡大という記事が、掲載されておりました。



この記事によると野村アセットマネジメントが、2017年2月に運用を始めた「野村グローバルAI関連株式ファンド」は、2営業日で約1,500億円の資金を集め、あまりの人気ぶりに同社は、一時的に新規買い付けを停止しているようです。



また三井住友アセットマネジメントが、2016年9月に運用を始めた「グローバルAIファンド」も、半年で約2,500億円の資金を集めたようです。



その他にはニッセイアセットマネジメントが、2016年11月に運用を始めた「ニッセイAI関連株式ファンド」があり、こちらも数か月で約500億円の資金を集めております。





さまざまな分野での活躍が話題になっているAI(人工知能)






AI (Artificial Intelligence)とは、日本語に訳すると「人工知能」になり、人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣した、システムやソフトウェアを示すのです。



例えばソフトバンクが開発した人型ロボットの「Pepper」は、AIを活用したものであり、最近は実験的に回転寿司の店頭で、受付や案内業務を行っております。



またAIがチェス、将棋、囲碁などのトッププロに、次々と勝利するなど、何かとAIが話題になっております。





AI投信の購入で得するのは一部の顧客だけになる可能性がある


これだけ話題になれば上記のような運用会社が、AI関連企業の株式を集めた投資信託を開発しようとするのは、当然のことだと思います。



また顧客の側はAIの将来に希望を感じ、投資信託の販売会社(銀行、証券会社、郵便局など)を通じて、こういった投信信託を積極的に購入するため、AI投信が流行になります。



これにより運用会社、販売会社、信託銀行などの、投資信託の開発や販売に係る会社は、販売手数料や信託報酬などの手数料を獲得でき、また顧客は将来に売却益などを獲得できるので、皆が得するように感じます。



しかし同様の流行について調べてみると、すべての顧客が得するのは、難しいように感じるのです。





わずか数年で終わりを迎えたIT関連投信の流行


1990年代の終わり頃から2000年代の初め頃、インターネットに対する期待感が高まり、アメリカを中心にIT関連企業の株価が、急激に上昇しました。



これは一般的に「ITバブル」と呼ばれており、この時にはIT関連企業の株式を集めた投資信託、いわゆる「IT関連投信」が、いくつも開発され、流行になったのです。



例えば「netWIN ゴールドマン・サックス・インターネット戦略ファンドAコース(為替ヘッジあり)」は、ITバブルの真っ最中である、1999年11月に設定されました。



当初は運用成績が良く、1万円だった基準価額(投資信託の一口あたりの値段)は、2000年3月には1万3,745円まで上昇したのですが、ITバブルが崩壊した後の2002年10月には2,104円まで下降し、その過程でIT関連投信の流行は終わりを迎えました





AI投信の流行はIT関連投信の流行とその後の暴落を思い出させる


2017年3月6日現在、基準価額は1万322円まで回復しているので、売却しないで保有していれば、わずかに利益が出ている方もいるはずです。



ただ基準価額が約80%も下降していくのに耐えるには、かなりの精神力が必要になり、途中で怖くなって売却してしまった方もいると思います



また何かの事情で急にお金が必要になり、やむを得ず売却してしまった方もいるはずです。



AI投信の流行を見ていると、このようなIT関連投信の流行とその後の暴落を思い出し、個人的には数年後が心配になってしまうのです





信託報酬が高い投資信託は長期保有に向いていない


IT関連投信は確かにバブルの崩壊で暴落したけれども、基準価額は1万322円まで回復しているのだから、長期保有していれば大丈夫なのではないかという、反論があるかもしれません



しかしこういったIT関連投信は、投資信託を保有している間に徴収される、信託報酬という手数料がとても高く、長期保有に向いているとは思えないのです



例えば日経平均株価に連動した値動きを目指すインデックスファンドの信託報酬は、安いものは年率で約0.2%なのに対して、「netWIN ゴールドマン・サックス・インターネット戦略ファンドAコース(為替ヘッジあり)」の信託報酬は、年率で2.052%になります



これだけ信託報酬が高いものを長期に渡って保有すると、手数料だけでかなりの金額になってしまいます



なお冒頭の記事によると、AI投信の信託報酬は年率で約1.5%とされており、IT関連投信と同様に、長期保有に向いているとは思えません









IT関連投信で儲けたのは「逃げ足の速い人」と「勇気のある人」


IT関連投信の悪い点ばかりを書いてしまいましたが、こういった投資信託を活用して、上手く儲けた方もいると思います。



それは例えば流行が終わる前、つまり基準価額がまだ高いうちに、IT関連投信を素早く売却した、逃げ足の速い人です。



また暴落が落ち着いたタイミングで、勇気を出してIT関連投信を購入し、現在まで保有している人です。



AI投信を活用して上手に儲ける方も、いずれかに属するタイプになると推測しております。





天井と大底の見極めは難しいと教える「頭と尻尾はくれてやれ」


株式相場の有名な格言のひとつに、「頭と尻尾はくれてやれ」というのがあります。



この格言は我々に対して、保有している株式の天井を見極めるのは、とても難しいことなので、あまり欲張らずに、ほどほどに高いところで、利益を確定しておきなさいと教えております



また取引されている株式の大底を見極めるのは、とても難しいことなので、あまり欲張らずに、ほどほどに安いところで、株式を購入しておきなさいと教えております。



この格言が示すように、流行が終わる前に素早く売却する、または暴落が落ち着いたタイミングで購入するというのは、とても難しいことなのです。



ですから投資の初心者の方が流行にのって、AI投信を購入するのは、止めておいた方が良いと思うのです。(執筆者:木村 公司)



情報提供元: マネーの達人
記事名:「 「AI投信」の購入で得するのは一部の顧客だけ 信託報酬にも注意せよ!