■サイバネットシステム<4312>の中期経営計画

2. 成長戦略
長期の企業価値向上に向けた取り組みとして、「トップラインの成長」「高水準の利益率」「積極的な株主還元」の3点に取り組んでいく。今後、人財投資やM&A等により5年間で売上高を30%伸ばし、また、高付加価値事業の強化と成長投資のバランスを取りながら、EBITDAマージンで12.7%(2021年12月期実績13.5%)と高水準を維持することで収益成長を目指す。また、株主還元策についてもDOE(純資産配当率)で6.0%を目安として安定的かつ継続的な増配を行い、株価水準によっては自己株式の取得等も積極的に行うことにしている。なお、「トップラインの成長」については以下の4点を重点戦略として掲げている。

(1) 自社開発製品の強化
同社では販売代理店ビジネスのリスクが顕在化したこともあり、今後は自社開発製品・サービスの売上構成比を高めていくことで、販売代理店ビジネスの喪失リスクへの対応と、収益性向上を図っていく戦略だ。自社開発製品については海外のソフトウェア製品開発会社への投資を拡大していくほか、国内での開発体制を強化していくことで、製品ラインアップの拡充を図り、売上規模の拡大を目指していく。自社開発製品の売上目標として2026年12月期に60億円と2021年12月期実績に対して約2倍増を計画している。

なかでも、AIを搭載した医療用画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®」シリーズは、国内での保険適用や欧米での薬事承認が得られれば売上高も一段と伸びる可能性がある。また、Maplesoftでは2021年に、教育市場向けにオンライン環境下で利用可能な高等数学の教育支援ソフトウェア「Maple Learn」や数学学習支援モバイルアプリ「Maple Calculator」、エンジニア向け設計計算支援ソフトウェア「Maple Flow」を相次いでリリースしており、欧米アジアだけでなく国内での拡販も進めていく。SigmetrixやNoesisについても既存製品の機能拡充や新製品の開発により、売上成長を目指していく計画となっている。

(2) アジア事業の拡大
日本の大手製造業向けにシミュレーション技術を提供してきた経験を活かして、アジア事業の拡大を進めていく。アジア向け売上高はSynopsys製品の売上がなくなることで2022年12月期に20億円と前期の31億円から一旦落ち込むが、2026年12月期には2倍増の40億円を目標としている。Ansys製品の拡販に加えて、DX事業の展開や現在は国内のみにとどまっているITセキュリティ事業を開始する予定にしている。

アジア圏では今後も製造業が発展し、製品の設計・開発に関わるCAEソリューションに対する需要も拡大していくことが見込まれている。同社では中国、台湾、マレーシアの販売拠点を中心にして、高度なソリューションサービスを強みにローカル企業の顧客開拓を推進していく方針だ。また、2021年11月にはインドのDHIO RESEARCH & ENGINEERING PVT LTD.(CAEソフトの開発販売会社)と、同社が開発したマルチスケール解析※ツール「Multiscale.Sim」に関する販売代理店契約を締結している。現地顧客企業からのニーズがあったためで、今後は南アジアでの販売拡大も期待される。

※マルチスケール解析:スケールの異なる構造体双方の物性、もしくは挙動を連成させる解析を行う。「Multiscale.Sim」は繰り返しの物理試験や仮想シミュレーション、最適化に費やされる時間を短縮し、材料の研究開発効率化を支援するツール。マルチフィジックス解析ツール「Ansys®」のアドインツールとして利用される。


(3) モノづくりのDX推進など
同社のコア技術であるシミュレーションと最新の開発手法であるMBSE※や、AIやAR/VRなどの先進技術を用いてモノづくりのDX促進を支援していく。同社ではシミュレーションと親和性の高いAIやデジタルツイン、ビッグデータ分析等の技術を有しており、これらを組み合わせた付加価値の高いソリューションを提供していく考えだ。MBSEについては、2018年に専門組織を立ち上げ(2020年に子会社、サイバネットMBSEを新設)、自社開発したMBSEツール「MapleMBSE」「MapleDOE」を大手メーカーに導入支援するなど国内のリーディングカンパニーとなっている。これまで、電気自動車の開発の効率化やバッテリ冷却システムの最適化、自動運転やADASの検証評価システムの構築等に貢献しており、今後も需要の裾野を拡大していきながら成長を目指していく。

※MBSE(Model Based Systems Engineering):システムズエンジニアリングを、モデルを用いて進めるアプローチ及び手段。開発対象となるシステムを様々な観点で表現したモデルを用いて、システムの要求分析、設計、検証を効率的に行うアプローチ手法。モデルには、視覚的に理解しやすい図表で表現したシステムモデルや、定量的に妥当性/成立性を検証するシミュレーションモデルなどがある。


また、新製品としてはビッグデータ可視化ツール「BIGDAT@Analysis(ビッグデータアナリシス)」の販売を2022年1月より開始した。工場での生産設備の保全や生産ラインの稼働状況をIoTセンサで監視し、予兆保全を可視化するツールである。工場での生産トラブルを未然に防ぎ、保全業務を効率化するツールとして需要が見込まれる。そのほか、ITセキュリティ対策製品についてもラインナップの拡充を図るとともに海外展開を進め、導入から保守サポートまでワンストップで提供できることを強みに売上成長を目指していく。

(4) SDGs分野などでのシミュレーション技術の活用
同社はSDGsへの取り組みとして、事業活動を通じた貢献に取り組んでいる。健康をテーマとした取り組みでは、AIを搭載した大腸内視鏡画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®」シリーズの拡販を進めていく。今後の取り組みとしては、製品のさらなる機能強化に向けた開発を進めていくほか、販売認可取得国を増やしていくことで、海外売上を拡大していく戦略となっている。現在、販売認可取得済みの国・地域は、インド、タイ、ベトナム、香港となり、今後は台湾、韓国、ヨーロッパでも認可を取得する予定となっている。

また、脱炭素社会の実現や環境問題の解決等に対応するソリューションを開発し、顧客並びに社会の課題解決に貢献していく考えだ。具体的な導入事例としては、水素エネルギーの効率的な貯蔵・運搬に関する課題を解決するためのシミュレーションや、VRの活用によって実寸模型を作成することなくデザインレビューを可能とするソリューション(廃棄物の削減)、UV殺菌装置の性能向上を支援するソリューションなどが挙げられる。そのほかにもビッグデータ分析とシミュレーション技術を用いて、都市インフラの効率運営支援や金融のコンプライアンス支援などを行っていく考えだ。

製造業以外の分野でも同社が強みを持つシミュレーション技術を活かせる領域は膨大にあると考えられ、こうした需要を今後は積極的に掘り起こしていくことで成長を実現していく戦略となっている。将来的には売上高(単体)の50%を非製造業分野にすることを目標としている(2021年12月期28.6%)。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

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情報提供元: FISCO
記事名:「 サイバネット Research Memo(8):アジア事業の拡大等で2023年12月期以降の業績V字回復を目指す(2)