■業績動向

富士ソフト<9749>の2020年12月期の連結業績は、売上高が前期比4.3%増の240,953百万円、営業利益が同20.4%増の15,972百万円、経常利益が同18.9%増の16,343百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同9.4%増の8,573百万円と、リーマン・ショック前の過去最高営業利益(2006年3月期12,078百万円)を更新した2019年12月期(売上高については2017年12月期に過去最高を更新済み)に続き、順調に推移している。

この実績を、2020年2月公表の期初会社計画(売上高238,000百万円、営業利益13,600百万円、経常利益13,850百万円、親会社株主に帰属する当期純利益8,000百万円)に対する達成率で見ると、売上高が101.2%、営業利益が117.4%、経常利益が118.0%、親会社株主に帰属する当期純利益が107.2%であった。全項目において5期連続で超過達成を実現しており、とりわけ営業利益と経常利益の達成率は直近5年において最も高い値を示している。

同社は、リーマン・ショック前のピーク売上高(2006年3月期)を2017年12月期に更新、ピーク売上高更新まで実に10年余り要したわけだが、その間にフロー利益の回復だけでなく、財務体質強化と成長ポテンシャル増強を両立したことは高く評価できる。

具体的には、自己資本比率が2006年3月期末47.3%→2015年12月期末60.3%→2017年12月期末59.9%、流動比率が同96.4%→同199.7%→同184.9%、純有利子負債(有利子負債-現金及び預金)が同21,295百万円→同2,426百万円→同6,204百万円のキャッシュ超過など、代表的な財務指標の健全化を実現したうえで、2015年12月期以降の新卒中心の大量採用により、連結従業員数は2006年3月期末9,415人→2017年12月期末13,556人と1.4倍にまで拡大した。単体ベースの認定技術者比率(同社制度に基づく認定スペシャリストと認定プロジェクトマネージャーの合計数が全従業員数に占める比率)も2014年12月期末22.8%→2020年12月期末30.1%と上昇しており、人材面から見た成長ポテンシャルは質・量ともに拡充されていることが読み取れる。

こうした結果、その後2019年12月期にかけては前期比2ケタ増収・増益を継続、2020年12月期もコロナ禍のなかで同4.3%増収を確保、同20.4%営業増益を実現している。2020年12月期の財務指標については、自己資本比率が50.7%(前期末比3.4ポイント低下)、流動比率が153.3%(同29.6%低下)と悪化しているが、コロナ禍の影響を踏まえた財務戦略(短期資金調達による現金及び預金の積み増しと長期借入金の返済)によるところが大きく問題視する必要はない。実際、純有利子負債は6,341百万円と前期末に比べ1,157百万円減少しており、健全な財務体質を維持している。また、人材面では、連結従業員数が前期末比248名増の14,422名、単体ベースの認定技術者比率が同2.5ポイント上昇の32.0%となっている。

加えて、設備投資額は2014年12月期3,028百万円→2018年12月期22,608百万円→2019年12月期8,952百万円→2020年12月期10,203百万円、研究開発費は2013年12月期488百万円→2017年12月期1,011百万円→2019年12月期831百万円→2020年12月期984百万円と先行投資も拡大させており、人材投資ともあいまって「挑戦と創造」に向けて成長ポテンシャルの増強が図られている。

ここで、財務指標と経営戦略の関係を見ると、大量採用と先行投資の拡大に踏み切った2015年12月期は、自己資本比率が60%台乗せを達成、流動比率が200%目前まで改善、純有利子負債は2016年12月期と2017年12月期にキャッシュ超過水準まで削減と、強固な財務体質を実現したタイミングであったことが読み取れる。

創業者を含む強いリーダーシップによる迅速な経営判断・実行力が同社の強みと言えるだろうが、躊躇せず「攻めの経営(先行投資の積極化)」に転じられたのも、業績低迷局面において「守りの経営(財務体質の強化)」を推進したからこそであり、事業環境の変化を的確に捉えた同社の冷静沈着な経営判断を高く評価したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 富士ソフト Research Memo(6):2020年12月期は過去最高業績の完全更新を連続して実現