■会社概要

3. 事業概要
サイネックス<2376>の事業は、出版事業、ICTソリューション事業(従来のWeb・ソリューション事業から名称を変更)、ロジスティクス事業、及び不動産事業の4つの事業部門から成っている。2019年3月期の事業別構成比で見ると、外部売上高の56.4%、調整前営業利益の93.3%を出版事業で占めており、同事業が収益の柱となっている。

(1) 出版事業
出版事業は大きく2つの事業に分けることができる。1つは地方自治体と共同発行する行政情報誌『わが街事典』(出版物の名称としては「○○市便利帳」等となることも多い)の事業、並びに『わが街事典』の派生商品となるジャンル別・テーマ別情報誌となる。2つ目は、同社の祖業でもある地域別に発行される50音別電話帳『テレパル50』の事業となり、売上構成比で見るとほぼ二分している。『市民便利帳』(現在は『わが街事典』に名称変更)は2008年3月期にスタートした事業で、2020年3月期第3四半期末で累計922の自治体と共同発行している。一方、『テレパル50』は生活密着型地域メディアとして毎年1,200の地区で1,000万部を無料配布している。

ビジネスモデルはいずれも同じで、情報誌や電話帳に広告出稿する地域事業者(主に中小事業者)からの広告収入が売上高となる。出版物の制作から配送までを一貫して手掛けており、これら費用に営業費用、一定の利益を加えて広告単価を算出して、地域事業者から広告収入を獲得している。このため、利益率は比較的安定している。収益変動という視点で見ると、『わが街事典』のインパクトが大きい。『テレパル50』は収益のベースを形成し、派生商品は隙間を埋めるという役割で、収益変動の前面にはあまり出てこない構図となっている。この違いは事業特性の違いからきている。『わが街事典』は自治体との共同発行物であるため、作業の進行や発行のスケジュール、タイミングは同社がすべて管理しきれない部分がある。このため納入時期が当初計画から遅れるケースもあり、収益計画に対する変動要因となる。一方『テレパル50』は同社独自の出版物であり、発行地域やタイミングはすべて同社で管理できる。同社は年間1,000万部を発行するという大枠を基本方針とし、その中で『わが街事典』の発行スケジュールや工場の稼働状況を見ながら、『テレパル50』の発行作業を進めており、言わば緩衝剤の役割を果たしているとも言える。派生商品は自治体との共同作業ではあるが、全体のプロセスが『わが街事典』に比べて短いため、『テレパル50』と同様の自由度がある。

なお、同社は2019年3月29日付で連結子会社の(株)サンマーク(無料情報誌出版事業)の全株式を譲渡しており、2020年3月期から連結対象より外れている。

(2) ICTソリューション事業
ICTソリューション事業では、出版事業の『わが街事典』同様、地方自治体との協働事業や業務支援を行っている。サービス内容は多岐にわたるが、大きくはICTを活用して自治体のプロモーションや情報発信などをサポートするICT・プロモーション系サービスと、連結子会社の(株)サイネックス・ネットワークが運営するEC系サービスに大別できる。主力サービスとしては、ICT・プロモーション系サービスではふるさと納税事務の一括業務代行サービスや自治体のホームページ・アプリ開発サービス、地域情報ポータルサイト「CityDO!」、デジタルサイネージサービス『わが街NAVI』などがある。また、EC系サービスとしては地方の特産物・名産品を販売する『わが街とくさんネット』、旅行企画商品を販売する『わが街トラベル』などがある。

現在、同事業の収益の大半を占めるのは、EC事業とふるさと納税事務の一括業務代行サービスとなる。このうちEC事業に関しては流通額を売上計上しているため、基本的に利益率は低くなる。また、ふるさと納税事務の一括業務代行サービスとは、ポータルサイト『わが街ふるさと納税』の運営を通じて、自治体がふるさと納税による収入(厳密には納税者からの「寄附金」)を獲得するためのプロモーション活動や、寄附金受付に関する事務業務の代行、寄附金に対する返礼品の管理・配送業務、及び決済業務など、ふるさと納税に関する一連の業務を一括して請け負う内容となっている。2014年7月に茨城県笠間市と契約したのを皮切りに、2020年3月期第3四半期末時点で130の自治体と契約締結している。同種のサービスでは(株)さとふるが業界トップで、同社は市場シェア(契約自治体数ベース)で3番手とみられる。収益モデルは完全成果型報酬制で、自治体側の初期費用はなし、ふるさと納税制度の税収実績に応じて一部が報酬として支払われることになるため、自治体の財政負担は一切ない。

ふるさと納税をめぐっては、2019年に過剰な返礼品が問題となり、総務省から様々な規制が強化されている状況だが、これがふるさと納税市場を縮小させることにはつながらないと弊社では考えている。ふるさと納税制度で経験した“お得感”からリピーター率は高いと考えられ、また、多くの消費者は地場産品を主体とした返礼品でも高い満足度を得ているとみられるためだ。2008年度に81億円だった納税額(「ふるさと納税受入額」)が2018年度に5,127億円になったような成長スピードからは鈍化するのは避けられないにしても、今後も着実に市場規模が拡大すると弊社では見ている。

なお、2018年4月にWeb上のクチコミデータに関する解析サービス等を行う(株)バズグラフを子会社化している。自社のEC事業やふるさと納税支援事業におけるマーケティング、並びにその他ICTソリューション事業への展開に生かしていくことを目的としており、業績への影響は軽微となっている。

(3) ロジスティクス事業
ロジスティクス事業では、2015年10月に子会社化した(株)エルネットにおけるDM(ダイレクトメール)等の郵便発送代行業務と、サイネックス・ネットワークにおける『わが街事典』『テレパル50』等の情報誌の配布業務や外部受託によるチラシ等のポスティング業務が含まれる。売上高の大半はエルネットの郵便発送代行業務で日本郵便(株)から業務受託している。郵便発送代行業務は競争も激しいため、利益率は2%程度と高くはないものの、毎期安定した収益を計上している。

(4) 不動産事業
不動産事業は同社が所有する不動産の賃貸事業となる。同社は現在、大阪の新本社ビルを建設中で、計画では本社ビルをテナントビル化し、不動産事業の収益物件とする予定となっている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 サイネックス Research Memo(3):出版事業を中核に、ICTソリューション事業で次代の成長を狙う