a) Wnt-signal(TNIK)阻害薬 がん幹細胞を標的としたWnt-signal阻害薬について、「NCB-0846」「NCB-0594」の2種類の化合物を国立研究開発法人国立がん研究センターと共同で研究開発している。
特に、本創薬プログラムにおいて国立がん研究センターが注力している大腸がんの90%以上の症例では、Wnt-signal遺伝子に変異が認められ、この遺伝子変異がWnt-signal伝達経路を恒常的に活性化させることによってがん幹細胞を発生させ、がんの再発を引き起こす原因と考えられている。このWnt-signal経路の活性化に深く関与している物質がTNIKキナーゼであり、同キナーゼの働きを抑制することで大腸がん幹細胞の発現を抑止することを証明した論文を同社と国立がん研究センター等で共著し、その論文が2016年8月に世界的な学術科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。論文では同社の化合物である「NCB-0846」を用いて論証しており、本研究成果の報告は、世界でも初めてのこととなる。このため、大腸がんの根治につながる治療薬として今後、さらに注目度が高まるものと予想される。「NCB-0846」については、現在、国立がん研究センター東病院における医師主導の臨床試験に向けた検討が進んでいる段階にある。今後は、医薬品基準に基づく前臨床試験の実施ならびに臨床試験用の化合物製造体制の構築などの準備を進め、早ければ2018年内にも臨床試験が開始される見込みで、ヒトでのPOC(Proof of concept)を取得し付加価値を高めた上で、導出活動を進めていく予定となっている。
b) TGFβ signaling阻害薬 慢性骨髄性白血病のがん幹細胞を標的としたTGFβ signaling阻害薬について、2015年より広島大学と共同研究を進めている。現在は化合物の最適化を行っており、早ければ2017年内に候補化合物を選択し、2018年から前臨床試験に進みたいとしている。白血病の治療法としては、抗がん剤を用いた化学療法や造血幹細胞移植などがあるが、いずれも副作用が強く、患者負担が大きいのが課題となっている。それに対し、分子標的薬としてはキナーゼ阻害薬であるイマチニブ(商品名Glivec®)やイブルチニブ(商品名Imbruvica®)があり、それぞれ数千億円の売上規模となっている。ただ、いずれも白血病細胞の増殖を抑えるための薬剤で、白血病の幹細胞を死滅させるものではなく対症療法となる。同社が開発を進めているTGFβ signaling阻害薬は、白血病幹細胞を死滅させる根治療法を目的としたものであり、研究開発が進めば市場価値も大きなものになることが期待される。このため、同社では同治療薬の研究開発方針として、臨床試験段階に進め患者での有効性・安全性の確認を自社で行い、市場価値を高めてから導出することが考えられるとしている。
c) 神経変性疾患治療薬 神経変性疾患を対象としたキナーゼ阻害薬では、現在、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬として、化合物の最適化を行い、今後、前臨床候補化合物の選定を進めていく予定となっている。細胞レベルでは標的となるキナーゼに対して強い阻害作用を得られる化合物はできているようで、今後は同化合物が生体内(脳内)で同様に作用するかどうかを確認しながら、化合物の選択を進めていくことになる。ただ、アルツハイマー型の動物を育て、効果を確認するのに時間とコストが掛かるため、今後は製薬企業との共同研究から始め導出契約につなげるスキームも視野に入れているとしている。