■窪田製薬ホールディングス<4596>の会社概要

(1)会社沿革

眼科領域に特化した医薬品の開発を行うことを目的に、研究者であり眼科臨床医であった窪田良(くぼたりょう)博士が2002年に米国シアトルにて旧アキュセラ・インクを設立。2014年2月に東証マザーズに上場したのちに、2016年12月に三角合併方式により、日本法人を窪田製薬ホールディングスとして持株会社化し(旧アキュセラ・インクは11月末で上場廃止)、東証マザーズ内国株式として再上場を果たしている。

創業来「眼疾患に革新的な治療薬・医療技術をもたらし、社会に貢献する」という経営理念を掲げ、事業活動を行っている。2006年に視覚サイクルモジュレーション技術を用いた治療薬「エミクススタト」の開発を開始、2008年には大塚製薬(株)(大塚ホールディングス<4578>グループ会社)と地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性を治療対象とした「エミクススタト」の共同開発及び販売契約を締結したが、2016年5月に発表された臨床第2b/3相試験の結果を受けて、同契約は解消されている。現在は「エミクススタト」について、増殖糖尿病網膜症に対する臨床第2相試験、スターガルト病及び中期加齢黄斑変性に関する研究を独自で行っているほか、2016年に入って技術導入した白内障・老眼(老視)治療薬候補となる「ラノステロール」、網膜色素変性を適応対象とした遺伝子治療技術「オプトジェネティクス」の非臨床での開発を進めている段階にある。

(2)三角合併による日本法人の持株会社化と内国株式としての上場の狙い

今回の三角合併のスキームを簡単に説明すると、旧アキュセラ・インクの本社機能を日本法人である窪田製薬ホールディングスに移管し、旧アキュセラ・インクを消滅会社にすると同時に、新たに事業活動を行う米国子会社アキュセラ・インクを存続会社とするというもの。なお、旧アキュセラ・インクの株主に対しては1:1の割合で同社の株式が付与されている。

東証マザーズ市場の内国株式として再上場した狙いは、認知度の向上と潜在的な株式価値の増加にある。内国株式となることで、「会社四季報」や「日経会社情報」等において同社の情報量が増加し、投資家への認知度が向上するだけでなく、従来は外国株扱いで投資ができなかった機関投資家も同社の株式を投資対象とすることが可能となるため、株式価値が向上する可能性がある。また、本社機能が日本に移転するため、今後は株主総会も日本で開催することになるほか、2017年2月には東証主催のIRフェスタにも出展を予定するなど、国内投資家とのコミュニケーション機会も増加する見通しだ。さらには、認知度の向上に伴い、国内製薬会社及び学術研究機関との提携を通じた研究体制の強化や、研究開発及び薬剤開発におけるパートナーシップの確立等の機会を得られる可能性も高まることになる。

(3)経営陣

研究開発の拠点となる米アキュセラ・インクについての経営体制は従来と変わりなく、眼科領域のグローバル企業で活躍してきた人材が結集した体制となっている。例えば、2015年8月に研究開発担当上級副社長として任命されたルーカス・シャイブラー氏は眼科領域の医薬品大手ノバルティス(NYSE)の元医薬品開発の責任者で、アルコン(NYSE)(2011年にノバルティスが買収)でも引き続き眼科部門を指揮してきた経歴を持ち、業界では著名な人物である。また、同年5月に最高事業責任者として任命されたテッド・ダンス氏は眼科医薬品大手のアラガン(NYSE)のアジアパシフィック法人のプレジデントを歴任する(東京在住7年)など眼科領域で30年以上の経験を持ち、最高財務責任者として任命されたジョン・ゲブハート氏を含め、現在4名の経験豊富な経営陣によって、事業が進められている。

(4)眼疾患領域の市場動向と同社の研究開発戦略について

世界の眼科医薬品の市場規模は2011年の約1兆8,000億円から2023年には3兆5,000億円と年率6%の成長が予測されている※1。同期間の医薬品全体の成長率は3%程度と予測されており、眼科医薬品は業界の中でも成長性の高い領域と位置付けられている。世界の人口が増加していることに加えて、高齢化の進展に伴い加齢黄斑変性や白内障、その他網膜疾患などの患者数が増加の一途をたどっていることが背景にある。このため、ここ数年はメガファーマの眼科専門企業に対するM&Aが活発化しているほか、新規参入を図るベンチャー企業も増加する傾向にあり、医薬品業界の中でも注目される領域となってきている。

※Visiongain, Ophthalmic Drugs: World Market Prospects 2013-2023, p45

こうした市場環境下において、同社は少額投資で収益性の高い研究開発プロジェクトを優先的に選択し、非臨床・探索的薬剤開発段階における自社開発の機会創出を目指すことに事業フォーカスを充て、眼科領域に特化した研究開発活動を行っている。米国における医薬品の開発にかかる費用を、創薬ターゲットの探索から商業化に至るまでの段階で分けてみると、創薬ターゲットの探索からリード化合物の最適化/非臨床プロファイルの確立までの基礎研究段階で300億米ドル、また、後期臨床試験から上市に至るまでの間で650億米ドルの研究開発費が年間で投入されているのに対して、非臨床薬剤開発から探索的薬剤開発(POC※取得まで)までの研究開発費は50億米ドルと圧倒的に規模が小さくなっている。

※POC(Proof of Concept)基礎的な研究で予想された薬の効果が、実際に動物またはヒトへの投与試験により証明されること。

このため、同社のような薬剤開発のベンチャー企業が成長していくうえでは、同領域で研究開発を進めていくことが最も理に適っていると言える。

同社の現在の開発ポートフォリオは、失明の主要原因となる疾患を対象としたものとなっている。従来から開発を進めている加齢黄斑変性や糖尿病網膜症に加えて、2016年からは白内障や網膜色素変性の治療薬候補についても新たな開発パイプラインに加わり、現状では失明原因とされる大半の疾病を対象とした開発を進めていることになる。これらの眼疾患に関しては未だ革新的な治療法が確立されていないのが現状であり、開発に成功すれば同社は眼科領域において世界でも有数の企業となる可能性もある。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 窪田製薬HD Research Memo(2):窪田製薬ホールディングスを内国株式として再上場