トランプ米大統領弾劾ならリスク回避の円買い——市場関係者のその見立てに異論はないでしょう。しかし、女性スキャンダルで訴追されながら罷免は免れたビル・クリントン元大統領のケースもあります。仮にトランプ氏がこの窮地を脱することができたら、今の向かい風は追い風に変わり、政権基盤が安定に向かうかもしれません。


5月に入りトランプ氏による連邦捜査局(FBI)長官の解任やロシアへの機密情報漏えいを受け、「ロシア疑惑」が一気に高まりました。ロシアの米大統領選への干渉やトランプ陣営との関係をめぐる疑惑は昨年の選挙期間中からくすぶっていましたが、今回この問題の捜査に司法省が特別検察官を任命する事態に進展したことで、現職大統領の弾劾に現実味が増したとの見方が出ています。


当面の焦点は、解任されたコミー前FBI長官の出席が予定される上院公聴会です。コミー氏の証言内容がトランプ氏の司法妨害やロシア側との共謀関係を明確に裏付けるようなものであれば、議会で多数を握る共和党も弾劾要求を退けにくくなるでしょう。外為市場では、一連の疑惑報道で警戒感が広がっており、このままトランプ氏失脚の方向となればドル売り圧力がさらに強まるのは必至です。


仮に現職の大統領が弾劾裁判で訴追されれば、1998年12月のビル・クリントン氏の、実習生との「不適切な関係」以来となります。この時は「有罪」に必要な3分の2には達せず、罷免は免れました。クリントン氏はこの当時アフガニスタンやイラクに対して空爆を仕掛けており、この問題から国民の目を逸らしたとの見方もできます。トランプ氏が「前例」に倣う可能性は大いにあります。


トランプ弾劾裁判の前哨戦として、オバマケア(医療保険制度改革法)代替法案の審議が注目されそうです。同法案は3月、共和党が票数不足により撤回したものの、下院で5月4日、217対213の僅差で可決されました。困難と目される同法案の上院での可決に成功すれば、トランプ氏が反転攻勢に出る可能性もあります。


直近の世論調査でトランプ氏の支持率は38%となり、今年1月の就任以来、最低水準に落ち込んでいます。確かに就任から100日あまりでこの低支持率は心もとないのですが、2001年に就任したジョージ・W・ブッシュ氏の2006年当時とほぼ同水準でもあり、まだ「危険水域」とまではいえません。オバマケア代替法案の成立を機に減税を柱とした経済政策などが進展し、ドルの買戻しが強まるシナリオも不可能ではないでしょう。


現状では想像しにくいものの、一連のロシア関連捜査が完了した結果、少なくともトランプ氏本人の非は問えないとされた場合はどうなるでしょうか。その場合、安堵による円売りに振れることは想像できますが、アメリカ大統領としての権威を大きく失墜させたトランプ氏の続投がドルにとって好ましいことなのか、現時点では判断しかねます。

(吉池 威)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 【フィスコ・コラム】トランプ逆襲ならばドル買いか