◆空前の人手不足だといわれる。有効求人倍率は5カ月連続で上昇して1.52倍と1974年以来、43年ぶりの高水準にある。しかし労働市場はタイトなのに賃金上昇は鈍い。これは世界的な状況でこの「パズル」の解を巡って様々な分析がなされている。グローバル化が進み、企業が安い労働力を容易に利用できるようになったこと。AIやロボットなど機械にひとの仕事が奪われていること。いずれも合点がいく説明だ。

◆少子高齢化で生産年齢人口が減っている我が国はさすがに事情が異なるようだ。正社員の賃金は上がっていないが、パートやアルバイトの賃金は大きく上昇している。トリクルダウンの反対で、非正規雇用のコストアップから正社員の賃金にも上昇圧力が波及していくかもしれない。先週、金融政策決定会合後の記者会見で黒田・日銀総裁も、「最近はパート賃上げや非正規社員の正規化、正社員の賃上げなどの動きが出ている」と述べた。

◆だが、そう簡単にいくだろうか。最近、近所のスーパーマーケットがセルフレジを導入し、レジ係がいなくなった。ガソリンスタンドはずっと前から「セルフ」だし、GUやツタヤなど小売店舗の多くでセルフの導入が広がっている。 先日のニュースでは、ひとがたこ焼きをひっくり返すのではなく、たこ焼き器のほうが回転する機械とか、10秒で5本も焼き鳥のくし打ちをする機械などが紹介されていた。なにも「グローバル化」とか、AIだのロボットだのといった「最先端」のテクノロジーなど要らないのだ。ちょっとした設備投資で人手不足に対応できるとすれば、せっかくの賃上げの流れも止まってしまうかもしれない。

◆企業の内部留保は積み上がり、その大半がキャッシュのままである。企業はいまこそ、設備投資か賃上げかにおカネを使うべきだろう。従業員の目線からは、企業のキャッシュを機械と奪い合うということになる。機械に投じるより人間に資本投下してもらうためには何が必要か。難しく言えば人的資本の生産性の高さを示すこと、易しく言えば機械に負けない働き方をしようということだ。 え?じゃあ機械よりも速くたこ焼きをひっくり返せばいいのかって?10秒で10本焼き鳥のくし打ちができるようになるぞ!って、そういうことでは、ないでしょう。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:9/25配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【新潮流2.0】:機械に負けない働き方(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)