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コミュニケーションがうまくいかないのは、「聞こえ」のせいかもしれない
社会人にとってコミュニケーション能力は必須です。だからこそ、「コミュニケーションスキル」「会話術・雑談術」「プレゼンテクニック」など、セミナーや書籍等で学んでいる方も多いのではないでしょうか。
一方、コミュニケーションが苦手な人の中には、それらの努力だけではカバーしきれない、「とある問題」を抱えている人がいる可能性もあります。
しっかり聞いているつもりなのに、人の話が理解できない。聞き漏らしや勘違いが多発する。
わかりやすく話しているつもりなのに、うまく相手に伝わっていない。誤解を生んでしまう――
こんな問題が頻発しているとしたら、そもそも「相手の話がちゃんと聞こえていない」あるいは、「相手が聞こえるように話せていない」ことが原因かもしれません。
これらの問題は、年代や遺伝、健康状態などに関係なく、だれにでも起こりえるものです。「耳(聞こえ)」の問題は、現代生活による影響、たとえばストレスや睡眠不足、姿勢の悪さなどが引き金となって起こることも多いからです。
まず、「相手の話がちゃんと聞こえていない」問題について。すごくわかりやすい例を挙げると、「家族が認知症になったと思ったら、実は『聞こえ』が悪くなっているのが原因だった」という事例があります。
「年とともに頑固になって、話を聞いてくれなくなった」「こちらが真剣に話をしているのに、話を被せてきたり、全然関係ない話をしてきたりする」「離れて暮らしている親と久しぶりに電話をしたら、一方的にワーッと話されてガチャンと切られてしまった」
……こんな事例でよく相談を受けますが、実はこれらすべて、難聴の傾向があります。「こっちが話しているのに被せてくる」っていうのは、聞こえにくくて、うまくリアクションできないのが怖いからそうしてくるんです。聞こえていないのを気づかれたくない、あるいは自分でごまかそうとしているからやっているので、こんな傾向が出てきたら聴覚機能の低下の可能性が考えられます。
こういった難聴が認知症の危険因子の一つと報告されています。うまく聞こえないことで、会話がむずかしくなる。人と会わなくなる、外に出るのが億劫になる。大好きだったテレビすら見なくなる。
同時に周りの人が大きな声で対応をすることになります。大きな声を出している際の表情は、怒っているように見えます。こうなることで、これまで関係してきた人の対応も大きく変わってしまう。ご本人の尊厳も軽視され、日常生活のQOLもどんどん低下し、認知症につながるということも十分考えられます。
難聴や認知症などの話題を出すと、「自分にはまだ関係ない」と思われる方も多いのですが……こうした聴覚機能の低下って、実はいま年代に関係なく増えつつあるんですよ。
たとえば「突発性難聴」。突然、耳の聞こえが悪くなり、耳鳴りやめまいなどを伴うこともある症状です。アーティストや芸能人などで公表している人も多いので、聞いたことがある人も多いかもしれません。働き盛り世代に多いですが、学生など若い人も含め、どんな年代でも起こりえます。
突発性難聴は、音を感じ取って脳に伝える役割をしている有毛細胞が、何らかの原因で傷つき損傷している状態をいいます。血流による障害や、ストレスや過労、睡眠不足などが原因で起こりやすいと言われており、いつでもみんななりうる。これまで耳に問題がなかった人でもです。もちろん、「ある日突然」でなく、じわじわ聴力が落ちることもある。
こんなに重要な「聴覚機能」なんですが、ほとんどの方は、あまり興味がないんですよね。
毎年健康診断や定期検診で聴力の検査はしていると思います、あの「ピー、ピー」と音が鳴ったらボタンを押すというものですね。
でも、検診の医師や看護師は1日で大量の人をみないといけないので、短時間での簡易検査となります。さらに、耳は大切な感覚器の一つなのに、「所見あり」となっても「耳鼻科に行った方がいいですね」と言われても、大きな問題と思わず病院に行かない方も多いと聞きます。ほとんどの方は自覚がないので、「今は忙しいから、そのうち行けばいい」と放置してしまう。
すると、聴覚の低下は片側から悪くなることが多いんですが、今度は悪くなかった方の耳もバランスを合わせることで悪くなってきてしまう方がおられます。人間の脳って聞こえている状態で左右のバランスが崩れているのを嫌がる傾向があるので、聴力が低下した方に合わせちゃうんだと思うんですね。で、いよいよ会議などで聞き取り辛くなってきてやっと「耳鼻咽喉科」を受診しようかなとなる。
私がお伝えしたいのは、みんな、耳など自分の体にもっと興味を持ってください、ということ。「少し耳が悪くなっただけですぐに命に関わる」ということはあまりなくても、「聴力低下の発見が遅れて進行してしまってからでは遅い」ということがよくあります。耳以外の部位もそうですよね。自分の体だから、自分で関心を持ってほしいんです。
私がおすすめしたいのは、かかりつけ医をもって定期的に通っておくことですね。日頃から蓄積してきたデータがあれば、「ここの数値がちょっと気になってきましたね」というのもわかるし、相談も気楽にできると思います。もちろん私もいます(笑)
次に、話し方の問題についてです。お仕事によっては、高齢化により聴覚機能が低下した方や補聴器を装用した方とコミュニケーションをとる場合もあると思います。
「相手に私の声がきちんと届いているかな?」
これは、そういった聞こえに問題を抱えている方との会話ではもちろん、家族との会話やビジネスにおけるプレゼンなど日常的な場面でも重要な問題になります。
たとえばプレゼンやセミナーで、「この人の声、なんか聞こえづらい」と思った瞬間から相手の話に興味を失ってしまった、という経験はありませんか?
でも、「自分の話し声は聞こえにくいのでは?」など、アナウンサーや司会、声優、歌手、声楽家など声を使うお仕事をされていない限り考えてもいないと思います。
では大きな声を出せばいいのか?というと、そうではないんです。友人の声楽家や舞台俳優や女優さんも「遠鳴り」と「近鳴り」という言葉を使われています。遠くまで届く声なのか? 近くまでしか届かない声なのか? これは音の大きさだけではなく「周波数特性」が大きく関係しています。
また、声の問題だけでなく表情も影響します。試しに大きな声で話している自分の顔を映像で撮ってみてください。表情が硬く冷たい、もしくは怒っている顔に見えてしまうんですよ。これでは、たとえ聞こえたとしても円滑なコミュニケーションがとれるとは言い難いですよね。
そもそも、大きい声を出せば聞こえるわけじゃない、というのが大前提としてあるんです。繰り返しますが、音や声が聞こえにくいというのは、周波数特性の影響も大きいんですよ。「こもって聞こえるから認識しづらい」という場合がほとんど。こもった音を大きくしても、聞こえにくさは変わらないですよね。
私が発明した、聞こえに悩む方との対話支援機器「comuoon(コミューン)」は、まさにこの「周波数特性」を改善させるものです。マイクから入力された音を精細に分解し、さらに聞き取りやすい「高精細な音」へと変換。マイクやアンプスピーカーから発生する「歪み(ひずみ)」も大幅に軽減します。筐体も卵型の形状にすることで音の拡散を防ぎ、正面の指向性を高めることで、聞こえやすさと正面の音圧を向上させます。
学校や病院、介護施設、薬局、企業など高齢者との対話を行う窓口などで使ってもらっているんですが、いままで聞こえに問題を抱えていた方が、「同じ音量でも、すごくクリアに聞こえる」「コミュニケーションが楽しい」と仰ってくださるんです。
有効性については、九州大学耳鼻咽喉科の先生が2015年に学会誌にて報告いただいています。
またブータンのろう学校へ寄贈を行いましたが、「外耳道閉鎖」といって耳の穴が閉じている状態の子供でも聞こえたので、先生方がびっくりしてしまって。そのくらい、人体には「音が高精細かどうか」「低歪みかどうか」、つまり音質が重要なんですよ。聞こえ方が全然変わってくる。
これまでみなさん、自分の「声の質」には興味がなかったと思いますが、これから重要になると思うんです。
自分の声は、聞き取りやすい声なのかどうか――伝え方、プレゼンなどのいろいろなテクニックを学ばれている方は多いと思いますが、こういった「声」について意識している方はまだ少ないように思います。それがすごくもったいない。
いま、「きちんと自分の声を出せていない」人が多いんですよ。
声は空気で声帯を振動させて出すので、深く呼吸ができていない人は声が出しづらくなるんですよ。セミナーなどで「お腹から声を出して『あ〜』と続けて言ってください」と言っても、「深く呼吸できない」ので、長く続かないんです。そこで、「まず空気を全部吐いてください。それから吸ってください。吸った空気をゆっくり出す感じで、50メートル先の友達を呼ぶと思って、声を出してみてください」と発声のセミナーを行うんですが、コツを教えると「あー全然違う」って本人も周りも驚きます。声は出し方と意識が大切ということですね。
だから声が小さい人、聞き取りにくい人は、「自分の声はいかに小さく、聞き取りにくいか」とまず自覚してもらうことが必要です。それを知るための良い方法をお伝えします。
スマホの音声認識の機能を立ち上げ、自分の口元から50cm程度離した位置で、自分の話した言葉がきちんと言葉として認識されているかを確認してみてください。スマホが認識しにくい場合は、人体にとっても「聞き取りにくい声」の可能性があります。
ぜひスマホを使って発話トレーニングを行い、認識しやすい声の出し方を自分で見つけていってください。
声が出ない一つの原因になっているのは姿勢の悪さ、スマホネック(ストレートネック)でしょうね。姿勢が悪い人は吸う呼吸が浅くなりますが、吐く息も浅くなるんですよ。
試しに、顎を思い切り前に突き出して鼻から息を吸ってみてください。吸えていないですよね。これがスマホネックの状態の呼吸。逆に、顎を引いて姿勢を正して鼻から吸ってみてください。吸える量が全然違いますよね。
姿勢が悪くなっていると呼吸がきちんとできていないので、声は出しにくくなるんですよ。肩まわりの血流も悪くなるので頭痛や肩こりの原因にもなるし、聴覚機能への血流も悪くなり影響があるかもしれない。姿勢が悪い人はとにかくまず姿勢をよくしたほうがいいですね。
プレゼンやセミナーなどで登壇する機会がある人は、会場の音響やマイクの使い方にも気をつけていただきたいです。
できれば事前にボリュームの確認はしておくべきだと思います。大きな会場の場合は客席側の人に聞いてもらって調整すること。これをやっている人は私以外これまでもほとんどいなかったですね。
声が小さい人はもちろんですが、大きい人、マイクが拾いやすい声質の人がマイクを使うと大きすぎてうるさいんですよ。それだけで聞きたくなくなっちゃう、そんな状態の人が大体2割ぐらいはいます。自分の声に対して最適なマイクの位置を理解していないんです。もちろん毎回会場にPAさんがいればいいんですけどね。。。そんなことは稀です。笑
マイクの持ち方については、離しすぎず近づけすぎない。ここだけは最低限知っておいていただきたいです。そのうえで、自分の声が大きすぎないか? 小さすぎないか? をスタート時に確認するスマートさがあると素敵ですね。
「聞こえ」に起因するコミュニケーションの問題は、まだまだ、生まれつき聞こえにくい方や高齢者の方、そういう方々と関わる方だけの問題のように捉えられがちです。しかし、「相手の話がちゃんと聞こえていない」あるいは、「相手が聞こえるように話せていない」、そういった問題は「聞こえにくいことを言いにくい日本」だからこそどこでも起こる可能性があるし、ビジネスの場面においても大きな影響を及ぼすと思うのです。
また、これからの日本は高齢化がますます進みますから、高齢者の方と関わる機会も必然的に増えますよね。家族、自分自身も高齢化するし、ビジネスにおいても、顧客の高齢化、企業での再雇用なども進みます。これまでの医療・介護・行政など窓口における対応そのものを抜本的に見直す必要も出てきています。
ですから、「だれにでも聞こえやすい環境のあり方や、聞こえを意識したコミュニケーション手法を知っている」というのは、これからの社会においてとても重要なことだと思います。より多くの方が、「聞こえ」と「伝える」に関心をもってくださることを願っています。