フラックス法で育成したLCO単結晶を搭載したセルの放電試験結果とサイクル試験後の電極表面のFE-SEM像。10Cという高速放電試験後でも,信大クリスタルはほとんど劣化しません。


二峰性分散型LiNi0.9Co0.05Mn0.05O2 (NCM91)正極の充放電曲線とFE-SEM像。2.8-4.3 V(vs. Li/Li+)のカットオフ電圧範囲で 約210mAh/gの比容量が得られます。


低弾性カーボンナノチューブバインダーの模式図と高濃度NCM電極のFE-SEM像(NCM:CNT = 99.5:0.5 (wt%))。入出力特性と高エネルギー密度,サイクル特性を共立する電極を提供します。

平素より、本学の運営について多大なるご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。

信州大学が推進する「革新的無機結晶材料技術の産業実装による信州型地域イノベーション・エコシステム」では、信州大学先鋭材料研究所(所長:手嶋 勝弥教授)が開発を進める高機能結晶「信大クリスタル(※)」の社会実装に向けて活動してきました。是津 信行教授(信州大学工学部/先鋭領域融合研究群次代クラスター研究センター ELab2 センター長)が中心研究者として推進するリチウムイオン電池材料開発で創出された研究成果の一部を株式会社名城ナノカーボンにライセンシングし、2021年5月に高性能電池開発ベンチャー「信州ボルタ株式会社」(代表:橋本 剛氏 株主:株式会社名城ナノカーボン 100%)を設立いたしました(本年7月に「信州大学発ベンチャー」認定)。
今般、信州ボルタ社は急速充放電特性と高容量を両立するリチウムイオン電池の開発に取り組んでおり、単結晶LiCoO2(LCO)正極および二峰性分散型LiNi0.9Co0.05Mn0.05O2(NCM91)正極、さらにカーボンナノチューブ(CNT)バインダーの製品化を完了し、2021年11月から富士フイルム和光純薬株式会社にて研究用試薬として販売開始する事となりました。
下記に製品概要をまとめました。是非広報協力のほどよろしくお願いいたします。

(※)「信大クリスタル」は、信州大学が誇る無機結晶育成技術「フラックス法」(フラックス=溶媒の使用が特徴)を用いることで、物質の融点よりもはるかに低い温度にて投入エネルギー量を押さえて単結晶を育成できる技術から生まれた高品質・高機能の結晶の総称で、商標登録されています。


【製品概要】
リチウムイオン電池に対する市場ニーズとして、長時間連続使用できること(エネルギー密度)、短時間で充放電できること(パワー密度)、繰り返し充放電できて長期間使用できること(サイクル寿命)が挙げられる。信州大学では、正極や負極に用いる活物質材料の表面加工の視点から、上記ニーズに応える新しい蓄電池材料技術に取り組んできた。

(1) 単結晶LiCoO2(LCO)正極:特願2020-511113
「フラックス法で育成した電池材料を世界で初めて製品化」
小型民生用電子機器やドローンに搭載するリチウムイオン電池の正極に広く用いられるLCO単結晶粒子をフラックス法(溶融塩を溶媒とする無機材料結晶を再結晶する結晶育成方法)により育成することで、既存品よりも小さな平均サイズ(<1μm、従来品>5μm)、高い10Cレート特性(6分間でフル放電)、および10C充放電サイクル時の容量低下を従来品よりも大幅に改善することができた。信州大学の強みであるフラックス法により育成したLCO単結晶粒子がもたらしたこれらの特性は、従来品のLCO粒子が不定形かつ多結晶であったのに対して、フラックス法を用いることでLCO粒子を単結晶化するとともに、リチウムイオン拡散に優位な{104}面で広く覆われた結晶外形が得られたことによる。
製造プロセスの改良により、プロジェクト開始時と比較して200倍以上の生産効率の向上を達成した。信州ボルタ株式会社の開発する超高入出力電池への搭載に向けた技術開発に加え、研究用試薬として販売し、研究開発レベルで幅広いユーザーに評価いただくことで、LCO単結晶粒子固有の課題抽出や次世代材料ターゲットの選定を目的とするマーケティング調査を進めていく。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/284952/LL_img_284952_1.png
フラックス法で育成したLCO単結晶を搭載したセルの放電試験結果とサイクル試験後の電極表面のFE-SEM像。10Cという高速放電試験後でも,信大クリスタルはほとんど劣化しません。

(2) 二峰性分散型LiNi0.9Co0.05Mn0.05O2(NCM91)正極:
「ハイニッケルNCM91正極材料を世界で初めて製品化」
電気自動車に搭載する高容量型リチウムイオン電池の次世代正極として、LiNixCoyMn1-x-yO2を基本組成とするハイニッケル系層状三元系正極材料が注目されている。ニッケル成分を増やすことにより正極材料の比容量が増加する。一方で、その製造方法は格段に難しくなる。月島機械株式会社の前駆体製造技術と信州大学の合成技術を融合することにより、平均粒子径が二峰性分散したNCM91正極を開発した。平均粒子径を二峰性分散することにより、電極内のNCM91粒子充填密度を高める効果や電極内に形成される電位分布を均一化する効果がもたらされ、電池の長寿命化につながる。比容量は210mAh/gに到達し、従来の電気自動車に搭載されている正極材料よりも10%程度高い値が得られている。
信州ボルタ株式会社の開発する高容量型電池への搭載に向けた技術開発に加え、研究用試薬として販売し、研究開発レベルで幅広いユーザーに評価いただくことで、NCM91単結晶粒子固有の課題抽出や次世代材料ターゲットの選定を目的とするマーケティング調査を進めていく。

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/284952/LL_img_284952_2.png
二峰性分散型LiNi0.9Co0.05Mn0.05O2 (NCM91)正極の充放電曲線とFE-SEM像。2.8-4.3 V(vs. Li/Li+)のカットオフ電圧範囲で 約210mAh/gの比容量が得られます。

(3) カーボンナノチューブ(CNT)バインダー:PCT/JP2019/045732
単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブのハイブリッド化による世界初の導電性バインダー
電池の電極は、活物質、導電助剤、バインダーから構成されている。電池容量に寄与しない導電助剤やバインダーの使用量を大幅に削減することに成功し、活物質濃度を高めた高エネルギー密度型電極を実現した。導電助剤には、カーボンナノチューブを用いている。量産レベルでは世界で最高の電子伝導性能を示す名城ナノカーボン社製の長尺単層カーボンナノチューブと短尺多層カーボンナノチューブをハイブリッド化することで、活物質:導電助剤:バインダー=99.5:0.5:0の混合比からなる高エネルギー密度型電極を実現した。カーボンナノチューブが電極内で三次元的に均一に広がった電子伝導網を形成することにより、従来の電極抵抗の圧倒的な低抵抗化を達成した。
さらに、網目状に広がった電子伝導網は電極内部に存在する隣接する活物質粒子間を繋ぎとめるバインダー機能をもたらすことを明らかにした。実用レベル相当の電池を試作し、ハイブリッド車や無人搬送用ロボットに搭載された量産電池と比較すると、特に低温(-10℃)における急速充放電特性において、圧倒的に高性能であることを明らかにした。信州ボルタ株式会社の開発する高入出力型電池への搭載に向けた技術開発に加え、研究用試薬として販売し、研究開発レベルで幅広いユーザーに評価いただくことで、カーボンナノチューブバインダー固有の課題抽出や次世代材料ターゲットの選定を目的とするマーケティング調査を進めていく。

画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/284952/LL_img_284952_3.png
低弾性カーボンナノチューブバインダーの模式図と高濃度NCM電極のFE-SEM像(NCM:CNT = 99.5:0.5 (wt%))。入出力特性と高エネルギー密度,サイクル特性を共立する電極を提供します。



製造元 :信州ボルタ株式会社
長野県長野市若里4-17-1
TEL 090-8473-2294
販売 :富士フイルム和光純薬株式会社
東京都中央区日本橋本町2-4-1
TEL 03-3270-8123
技術協力 :信州大学
販売開始日:令和3年11月15日

(参考情報)
(1) 信州大学先鋭材料研究所 https://www.shinshu-u.ac.jp/institution/rism/
(2) 未来を変える信大クリスタル(動画) https://www.shinshu-u.ac.jp/guidance/media/movie/2020/01/post-13.html
情報提供元: @Press