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毎日仕事に追われ、仕事に集中していると、どうしても食事は疎かになりがちです。
片手で食べられるおにぎりやプロテインバー、温かいものが食べたいなと思ったときはハンバーガーや丼、ササッと済ませたいときにはお蕎麦やラーメンなど、ともかく時間がかからず、しっかりお腹を満たせるものを選びがちです。
毎日のそんな食事に慣れてくると、上品で繊細な味付けをした日本料理や、素材の味を生かしたフレンチやイタリアンを食べたとき、そのおいしさが感じられなくなってしまったりします。
普段食べている手軽な料理は、比較的濃いめの味付けになっているものが多く、それに慣れてしまうと繊細な味わいのものがわからなくなってしまうからです。
食材が本来持っている香りや食感、噛み締めたときに出てくる味わいを感じることが出来ないと、食事のおいしさは半減してしまいます。
生まれてから命が尽きるまで、常について回る食事は、いつまでも楽しいものであって欲しいものですよね。
繊細な味覚の持ち主に育つためには、3歳までの食体験が物を言う、という説があります。
そのため、味覚が鋭敏な幼いうちに、自然に育った良い食材を吟味し、化学調味料や添加物などを使わずに作った料理のみを与えるようにしている親御さんがいたりします。
中には市販のお菓子や冷凍食品・中食などは一切与えないなんていう極端な人も。
しかし、それで味覚が敏感な大人に育つかといえば、そうではないのが実際のところです。場所を変えて、美食の国と言われるフランスではどうでしょうか。
フランスでは「味覚の一週間」®という食育活動が子どもたちに向けて1990年から行われています。
「ゆたかな心は、ゆたかな味覚から」をモットーとし、子どもたちに食べることに対する興味を持ってもらい、食事は味わうものだと感じてもらい、食はいろいろな物事とつながっていることを知ってもらう試みです。
「食べることに興味を持つ」という最初のステップですら、私達大人は意識していないかもしれないこの食育プログラム、どんなものなのか中身が気になりますね。
さて、「味覚の一週間」®で、子どもたちはどんなことをどうやって教わるのでしょうか。
味覚について教えるのはいわゆる「食のプロ」と言われる人たち。
もともと、このプロジェクト自体がフランスの有名フードジャーナリストであるジャン=リュック・ブティルノー氏や、ジョエル・ロブションなどの著名なシェフが起こしたムーブメントでした。
1990年から始まって32年、フランスでは「味覚の一週間」®は、ボランティアで参加するシェフが5000人、参加する子どもたちは15万人という巨大なプロジェクトに成長しています。
その中でも柱となっているのは、意外にも9~12歳の小学生を対象にしたもの。学校にシェフたちが出向いて「出張授業」を行い、味覚について説いていきます。
そこで語られるのは好き嫌いではなく、「五味」を感じることです。
好き嫌いではなく「味」ってなんだろう?
そんなことを子どもたちに体験してもらうための授業です。
味と一口にいっても、さまざまなものがあります。
どんな食材を食べても、五味のいくつかが混ざり合っており、さらには食感や香りが味そのものに肉付けをしているからです。
「味覚の一週間」®では、自分が食べたものはどんな味がするのか、自分の言葉で語ることができるようになるのが目標ですが、それがどんな言葉であっても不正解はないのです。
味は多様なものであり、それがゆたかな感受性を育み、さまざまな物事に波及していきます。
味覚に「五味」という「種類」があることを意識することから始めて、さらには味覚には視覚や嗅覚が大きく影響をすることを考え、集中して食材を味わうようになると、それぞれの食材がどういう要素を持っているのかがわかるようになります。
普段食べているハンバーガーや丼、コンビニのお弁当も、意識して食べるようにすると、これまでと違って感じるはずです。
これはしょっぱいけどかすかに酸味もあるな、とか、酸っぱいだけじゃなくスパイシーな香りがするな、といった「味わう」ことにも繋がります。
自分が食べたものに集中することで自分の味覚が作られ、味覚を意識することが食べることを豊かにするのです。
子どもと同じように「五味」を意識して判別し、食材ごとにそれが混じり合っていることを意識することは、食を豊かなものへと変えていきます。
でも、子どものようにピュアな状態ではないから、新鮮な食材の良いところを理解できないのでは?と思う人も多いでしょう。
いいえ、答えはノーです。
大人でも味覚を鍛えることは十分可能なんです。
例えば、断食やファスティングを経験したことのある人ならわかるかもしれませんが、食事を抜いたりすることで味覚が鋭敏になり、これまで食べたことのあった何の変哲もない七分粥が、お米の甘みや軽い塩気の豊かさを実感することを可能にさせてくれます。
一度リセットしてそこから大切に育んでいけば、味覚は鋭く豊かなものへと変化していきます。
年をとると味覚は衰えていくといいます。確かにそうなのかもしれません。しかし、食べることは死ぬまで一生続くことです。だからこそ味覚をフレッシュな状態にしておくことは重要なことだと言えるのです。
さて、この「味覚の一週間」®ですが、フランスの子どもたちだけでなく、日本にも実行委員会があり、2011年から日本でも実施されています。日本でもフランスと同じスタイルで子供たちに「味覚の授業」が行われています。
この活動に賛同した料理人の三國清三氏や藤野真紀子氏、柳沢尚之氏をはじめとした著名なシェフやパティシエの協力を得ながら、全国の子どもたちに味覚の体験をしてもらっているのだそうです。
現在、この活動を支援する クラウドファンディング が行われています。
しっかりと物心ついた頃に体験する味覚にまつわるさまざまな経験は、子どもの中にひとつの柱を作り、揺らぐことのない味覚への意識を持つきっかけになるといえるでしょう。
そんな経験を、もっとたくさんの子ども達にさせてあげられたら素敵ですね。
「五味」を意識することで、初めて実感することになる、食材が本来持っている味わい。
大人はいろいろなものを食べて味覚を作ってきたといえます。
どんなものを食べて育ってきたかどうかはさておき、そうした経験を一旦リセットして「味覚の原点回帰」をしましょう。
原点に帰って、ひとつずつの食材を意識した食事が出来るようになれば、食事そのものへの意識が高まるのではないでしょうか。
そしてまだ多くのものを経験していない、ピュアな味覚を持つ子どもの頃から、味覚を意識することが、予想もしていなかった人生を拓いていく可能性もあるのです。
フランス生まれの「味覚の一週間」®、ぜひ応援していきたいですね。
クラウドファンディングの詳細は こちら
https://www.zenes.jp/projects/mikaku?utm_source=veltra&utm_medium=yokka
余暇プランナー
ライター、編集者、フードコーディネーター。東京都出身。 ワインの楽しさに惹かれ、派遣OLから飲食業へジョブチェンジ。JSA認定ソムリエを取得後、ワインメイキングに関するコンサルティング会社に入社、国内のワイナリーの立ち上げに参加する。30代に入り、ライター、編集者、フードコディネーターとしてフリーランスに。食やライフスタイルに関する記事を執筆・編集しながら、料理教室やワークショップを行う。音楽鑑賞と観葉植物の栽培、熱帯魚の飼育が日々の癒やし。
あなたの味覚、鈍ってませんか?味覚を鍛えると毎日の食事が変わる!「味覚の一週間」®とは