「クルマが変われば人間関係もリセットされる…かもしれない」という話
旧車王ヒストリア 2024年09月27日 20:39:52
新しいクルマへと乗り換える。新車であればボディカラーやオプションなども、予算が許す限り自分好みに仕立てることが可能だ。 いざ納車されたら、安全装備やハードウェアの進化など、最新モデルならではの劇的なアップデートに驚き、戸惑うかもしれない。 これに加えて、新型車のメーターパネルを占める面積の多くが液晶パネルになった。スピードメーターやタコメーターの針もデジタル表示だ。さらに、ステアリングにあるボタンひとつで表示パターンが切り替えられるという。10年後、あるいは20年後、液晶モニターが壊れて部品が製廃だとしたらどうなるんだろうと懸念しているのは筆者だけだろうか…。 また中古車であれば、探しに探して、ついに理想の1台が見つかったときの高揚感は何ものにも代えがたい。たまたま見つけたのが深夜で、当然ながら掲載店は営業時間外。「朝イチで連絡するにしても、その前に他の人に買われてしまわないか」と、浮き足だって夜も寝られないほどだ。 ■長年一緒に暮らした愛車から乗り換えるとなれば話は違ってくる 翻って、10年または20年、あるいはそれ以上、一緒に暮らした愛車から乗り換えるとなれば話は違ってくる。すっかり馴染んだ「愛車」だけに、多くの場合、できるなら手元に置いておきたいというのが本音ではないだろうか。 もし、いま現在「一大決心をして長年一緒に暮らした愛車を手放そうか迷っている段階」だとしたら…よくよく考えてからの方がいいかもしれない。これまで積み上げてきたありとあらゆることがリセットされる可能性があるからだ。これが趣味車であればなおさらだ。 ■愛車に関するノウハウが(ほぼ)リセットされる 例えば、スカイラインGT-R(R32)からスカイラインGT-R(R34)に乗り換えたとしよう。この2台のエンジンの形式は同じだし、それぞれ「第2世代GT-R」というカテゴリーに属している以上、ある程度はこれまでのノウハウが活かせる可能性がある。しかし、仮にR32GT-Rからポルシェ911GT3(991型)に乗り換えたとしたら…。これはもうまったく別枠のクルマだ。 クルマそのものの乗り方や、想定されるトラブルのウィークポイントなど、これまで積み上げてきたありとあらゆるノウハウがいったん「リセット」される。 もしも、911GT3が人生初の左ハンドル仕様だとしたら、左ハンドルの運転から覚える必要がある。たいていはすぐに慣れるとはいえ、若葉マークの頃を思い出すほど緊張しても不思議ではない。 これに加えてMT車だった場合、右手でシフトチェンジする必要がある。さらに交差点で右折するときも思いのほか苦労するかもしれない。この経験を新鮮と感じられるか否か…。慣れるまで時間が掛かったり、いつまで経っても違和感が消えず、せっかく手に入れた愛車を運転すること自体がストレスになりかねない。 ■人間関係もリセットされる(かもしれない) クルマが変われば人間関係も変わる。スカイラインGT-Rをこよなく愛する仲間と、ポルシェ911にシンパシーを抱く人たち。それぞれに好みのクルマが異なる分、話題がかみ合わない。これに加えてクルマ+周辺の話題も異なる。そして何より、オーナー像も変わってくるに違いない。 かといって、もともとのグループに戻ろうとしても、すでに「見えない壁」がある。スカイラインGT-Rのツーリングに911GT3で参加したとして、1度くらいなら大目に見てくれるだろうが、2回、3回と続くうちにお互いに気まずい雰囲気になる可能性がある。 このように、まったくの別カテゴリーのクルマに乗り換えるとなれば、これまで積み上げてきた人間関係をもう1度再構築する可能性が高いことを認識しておいた方がいいかもしれない。 ■そして、主治医との関係もリセットされる クルマが変われば当然ながら主治医も変わる。困ったときは夜遅くでもLINEで連絡できたり、出先で故障したときはわざわざキャリアカーで迎えに来てくれたり。たまに主治医の工場に足を運んで、コーヒーを飲みながら他愛ない話をしたり…。そんな「ざっくばらんな関係」はゆっくりと時間を掛けて醸成させるものだ。 新たに知り合った主治医は、その界隈ではよく知られた「名医」だけれど、どうもソリが合わない。話していて気を遣う…。そういった微妙な距離感は相手にも伝わる。お客だからひとまず愛車の面倒を見てくれるが、できれば他に行ってくれないかな…と密かに思われているかもしれない。もしそうなってしまっては悲劇だ。もっと気の合う主治医がいないものかと密かに動いてみたりするが、主治医同士の横(水面下)のつながりで筒抜けということもありえるので、慎重に行動すべきだと思う。 ■まとめ:すべてをいちから再構築する気力があるかが問われる これまで積み上げてきたノウハウや人間関係をすべて断ち切るくらいの覚悟で、新たなコミュニティを創りあげる。40代よりは50代、50代よりは60代、60代よりは70代と、年齢を重ねるごとにそのハードルが高くなっていく。首尾良く継続できたら、それはラッキーくらいに思っておいた方がいいかもしれない。 新たなコミュニティで、自分の子どもか、下手をすると孫くらいの年齢のクルマ好きから「そんなことも知らないんスか?」と突っ込まれ、屈辱を味わう可能性だってある。 とはいえ、そこで相手に噛みついた時点でアウトだ。結果として新たなコミュニティに馴染めず、孤立していくようになるとさすがに辛い。そしてはたと気づくのだ。「やっぱり売らなきゃよかった」と。しかし、長い年月をともにしてきた愛車は戻ってこない。昔の仲間とも疎遠になってしまった。気がつくと帰る場所がない。そのときに気づいても遅いのだ。 学生時代の友人のように気の置けない仲間との関係、頼れる主治医、そしてガレージにあるだけで気持ちが満たされる愛車の存在…。いずれも長い年月を掛けて少しずつ積み上げてきた歴史そのものだ。もし、いま、愛車を手放してでも乗り換えたいクルマあるとしたら…。 そして「新たな愛車を迎えることで得られるもの < 愛車を手放すことで失うもの」の公式が成り立つとしたら、よくよく考えた方がいいかもしれない。リセットボタンを押してしまってからでは遅いのだ。 [画像:日産,PORSCHE,Adobe Stock・ライター/松村透] ...続きを読む
情報提供元: 旧車王ヒストリア