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内閣府が今年3月29日に、ひきこもりについて衝撃的な内容を発表した。満40歳~満64歳の中高年ひきこもりの数が推計61万3000人だというのである。この年代での調査は初めて。以前おこなわれた15歳~39歳の若年世帯を対象にした調査での推計が54万1000人だったので、中高年の数はそれを上回るものとなった。
■ひきこもりってどんな人たち?
私はこの1年半以上、ひきこもり当事者、元当事者、親たちを取材してきた。もちろんそれで「ひきこもり」についてすべてがわかったわけではない。ただ、ひきこもりというのは、一般的にイメージされる「自室から一歩も出てこない人たち」ばかりではない。
内閣府の調査でも、広義での「ひきこもり」を対象としている。ポイントは4つ。「自室から出てこない」「自室からは出るが家から出ない」「近所のコンビニなどには行く」「趣味の用事のときは出かける」だ。こういった状態が半年以上続いていると、広義のひきこもりに当てはまるということになる。
また、同調査では4分の3が男性であると発表されているが、この数字には違和感がある。実際、当事者には若い女性もいるし、主婦もいる。女性はどうしても「家事手伝い」「主婦」という肩書きや役割を担いやすいので、ひきこもりという概念が家族にさえ正しく認識されていないのかもしれない。若い女性が仕事をせずに家にいても、「家事手伝い」で家族も近所も了解してしまうところがあるからだ。そうなると本人のつらさや苦しさは誰にも届かない。また、圧倒的に男性が多いとすることで、「男のほうが生きづらい社会なのだ」と偏向的に考えてしまう怖れもある。
同調査によれば、ひきこもるようになった原因は退職、人間関係の順。就職氷河期を経験した40~44歳のうち3人に1人が20~24歳でひきこもりになったということもわかった。就職での躓きがひきこもりの一因となっている可能性は高い。
もちろん、この中には学校でいじめにあってそのまま数十年という単位でひきこもっている人もいるだろう。ときおりアルバイトをしてまたひきこもるという断続的ひきこもりの話もよく聞く。
実家で親とともに住んでいるケースもあるが、アパート等でひとりで暮らし、親から援助を受けていたり生活保護を受けていたりする人たちも少なくない。
■4割以上が「誰にも相談していない」
調査によると、ひきこもっている人たちの4割以上が「誰にも相談していない」という。つまり、ひきこもりは、状態そのものであると同時に、社会からの孤立でもある。
私が取材したケースで、7年間、同居している親と一度も顔を合わせなかったという男性がいる。両親が仕事をしていたので、彼は昼間、自室から出て風呂に入ったり何か食べたりするのだが、夕方には自室にこもる。部屋ではひたすら本を読んだり物思いにふけっていたという。ひきこもりは自室にこもってゲームなどをやっているイメージがあるだろうが、実際にはテレビも観ずネットもやらず、情報を遮断した状態に陥っている人も少なくないのだ。
そして外へ出られるようになるきっかけは、人それぞれである。7年こもっていた彼は、ある日突然、親が帰ってくる時間なのに自室に戻らずリビングにいた。帰宅した母親は、あわてず騒がず淡々と彼に話しかけたという。
ひきこもった原因は、人の数だけある。さまざまな思いを抱えて、彼らはひきこもってしまったのだ。だが一方で、親たちの思いはひとつだ。
「普通に働いてくれればいいだけ。そんなに高望みはしていないのに」
そういう親の言葉に、子どもたちはふと思う。
「普通ってなに?」
親の言う「普通」は、学校を出て会社員になることが大半。安定した仕事について安定した人生を送ってほしいのが親心かもしれない。だが、「普通に働く」ことができない、あるいはしたくない、あるいは向かない、そういう人間も少なからずいるのである。