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J CASTニュースによると、表示の色が、男性用は赤、女性用は青に塗り替えられたトイレが見つかり、SNS上で話題に。その理由として、さまざまな憶測が飛び交っている……らしい。
問題のトイレは、九州産業大学(福岡市)の芸術学部生らが利用する棟に設置されており、なぜか男女の表示板とピクトグラム(絵文字)の色が通常とは逆になっているとのこと。とあるツイッターユーザーが5月7日、困惑の声とともに写真を投稿すると3700以上(10日現在)拡散され、
「社会実験?」
「『先入観は危険!』の周知キャンペーンかな?」
「まさか、『赤が女性を表すなどという偏見を排除』なんて理由じゃないでしょうね」
「現代アート的なやつ?」
……ほか、“推理合戦”も加熱するいっぽうなのだという。ちなみに、九産大の総合企画部広報課は10日、J CASTニュースの取材に対し、「誰かが無断で塗り替えたものであり目的は不明です」と回答。警察への被害届提出や、大学による調査は考えていない……のだそう。
さすが、芸術学部の棟で成された“いたずら”だけに、なんともコンセプチャルな香りがただよう芸術的“作品”である。前出の「推理」どおり、その「コンセプチャル」な部分に込められたメッセージとは、はたして「先入観への警鐘」なのか、「女性=赤といった偏見へのアンチテーゼ」なのか? おそらく、どっちも正しいのではないか? 私も信号の青がどうしても緑にしか見えなくて、50歳を越えた今でも「あ、信号が緑になったよ!」と、つい口にしてしまう。自分で言うのもなんだが、こういう頑なさや、一般常識に流されず疑念を抱く感性ってえのは、案外大切なのかもしれない。
ところで、九産大側はこの「男女逆転トイレ」を、今後どうするつもりなんだろう? そのままにしておく? それとも、また“元通り”に塗り替える? “色”だけで女子トイレに間違えて入ってしまった男子と女子が鉢合わせしてしまい痴漢沙汰……みたいな騒ぎにでもならないかぎり、このままにしておいてもかまわない気もするが、“元通り”に塗り替えるなら塗り替えるで、それもまた悪くない……気もする。
先日、「バンクシー作品らしき絵」が、たてつづけに日本国内で発見され、東京港区の防湖扉で発見されたネズミの絵は一時公開され、千葉県印西市の公園内にある公衆トイレ外壁で発見された猿人の絵は、同公園を管理する県印旛土木事務所の担当が「一般的な落書きと同様に扱い、鑑定には出さない。時期を見て消すことを検討している」とコメントした。
どっちの対応も間違っちゃあいないと思うが、個人的な好みを申せば……じつは“後者”だったりする。ストリートペインティングとは、そもそもが反社会的行為なのであり、その反逆性こそがアイデンティティの根元となっている。バンクシーは去年、約1億5000万円で落札された自作をシュレッダーにかけて話題を集めたと聞く。“鑑定”されることによって「あなたの絵は1億円以上の価値がありますよ〜」「すごいですね〜」と体制側に認められる、取り込まれてしまった時点で、バンクシーにとってその作品は芸術性を失い、三文の得にもならない無価値な駄作へと変質してしまう(たぶん)。
バンクシーのペインティングしかり、あと九産大の男女逆転トイレもしかり、「作品」自体が芸術なのではなく、それが見つかったら「器物破損」としてその都度に消されてしまう──そんな権力と反権力とのイタチごっこ、そこから生じる刹那的な無常観、すなわち「行為」そのものが芸術なのだ。あくまで“いたずら”として事務的に処理することこそが最大の敬意であり、それ以上の称号を献上したところで、作者側にとっては不本意以外の何物でもない……のではなかろうか。