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■“暴走”する老人はなぜ増えているのか?
敷地内にゴミを溜めて暮らす老人、保育園の子どもの声に苦情を訴える老人…。このところ、老人が引き起こすさまざまな問題が世間を騒がせています。人々が眉をひそめるような極端な行動に走ってしまう高齢者は、「暴走老人」などと呼ばれていますが、なぜ近年、老人の“暴走”ぶりに世間の注目が集まっているのでしょう?
一つ目の理由として、近年老人の人口が急増し、“暴走”ぶりを目にする機会が増えている現状が考えられます。総務省の統計によると、平成25年の65歳以上の人口は3186万人であり、実に日本人の4人に1人が老人という割合です。また、近年では高齢犯罪者も増加しており、警察庁の統計によると、60歳以上の検挙人数は平成25年までの20年間で約4倍の増加です。
老人が増えれば、それだけ老人の問題も増加します。超高齢化が加速する現代では、老人の“暴走”ぶりを目にする機会は、今後さらに増えていくものと考えられます。
■ステレオタイプなイメージが「暴走老人」を問題化?
二つ目の理由は、「老人は物分かりよく、つつましく生きるべき」という“とらわれ ”が関係していると思われます。老いては子に従い、出すぎず騒がず、心安らかに過ごすような老人のイメージ像は、実態とイコールであると世間の方が勝手に思い込んでいるのです。
したがって、分別のない、私欲に満ちた老人の行動を目にすると、世間は声高に批判したくなるわけです。しかし、老人だって生身の人間です。苛立ちをぶちまけたくなることもあるでしょうし、人から距離を置かれれば意固地にもなるでしょう。
世間の側が思い込みにとらわれたままで、人が抱える個別の感情や思考に関心を向けないことが、老人の行動を過剰に問題化しているのです。
■老人にとってストレスフルな社会の問題
三つ目の理由は、老人にとって生きにくい社会の現状です。そもそも、老いるということは、ストレスとの闘いです。職業人や親としての役割を卒業し、対人関係や健康、若さが日々失われていくという、さまざまな「喪失感」を実感しやすいのが、老人の日常です。
さらに、生活をとりまく技術がめまぐるしく更新される現代では、それまでなじんでいたライフスキルが通用しなくなることにより、老人は生活上のさまざまな不便を感じやすくなるものです。
そうしたなか、小さなストレスや焦燥感は日々蓄積されていき、身近なソーシャルサポートが脆弱化するなかで、やりにくさや孤立感を感じる人も増えていくことでしょう。その結果、“暴走”と揶揄される行動が増えてしまうのも、無理はないように思われます。
このように近年の「暴走老人」の問題には、複数の要因が複雑に絡み合っています。大切なのは、個人の性格などの個人内要因だけの問題と決めつけず、人口構成や社会の変化などの個人外要因との関係を見つめながら、老人をとりまく問題を総合的に考えていくことが必要ではないでしょうか。