出典:TBS『下町ロケット』HP


10月14日に始まったドラマ『下町ロケット』(TBS系)の新シリーズでは、農業機械のトランスミッションが取り上げられている。第1話では、佃製作所がトランスミッションに使うバルブシステムの開発に取り組んだ。「バルブシステムって何?」と疑問に思う前に、「トランスミッションって何?」って疑問に思う人もいるようだ(ウチの配偶者のように)。





トランスミッションとは変速機のことである。「速度を変える機械」のことだ。ガソリンであれディーゼルであれ、エンジンは低い回転数では充分な力を発生しないので、力が欲しいときには回転数を上げてやる必要がある。例えば、発進時だ。





変速機付きの自転車を思い浮かべるとわかりやすい。5段変速の自転車があったとする。発進時は5速(後輪側に付いているギヤのもっとも小さいギヤを選択)で走るよりも1速(もっとも大きいギヤ)のほうが走りやすい。そのかわり、足の回転は早くなる。スピードに乗ってからも1速のままだと足の回転が早いばかりでなかなか前に進まないから、速度の上昇にともなって2速→3速→4速→5速と変速していくと、スムーズに走れる。



 



スーパーフォーミュラ(2015年)のトランスミッション




クルマも同じだ。要求される力と速度に応じて変速比を切り替え、スムーズに走れるようにするのがトランスミッションの役割だ。そもそもエンジンが低い回転数で充分に大きな力を発生しないのが問題で、モーターで走る電気自動車は変速しないのが一般的だ。





ひとくちにトランスミッションといっても、乗用車用のトランスミッションにはいくつかのタイプがある。マニュアルトランスミッション(MT)、オートマチックトランスミッション(AT)、CVT(無段変速機)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などである。『下町ロケット』の天才エンジニア、島津裕(イモトアヤコ)がプレゼンでスクリーンに映した図面を見て、「ベルト式CVTじゃね?」と感づいたらツウである。



 



 



■80年代はF1ドライバーもマニュアルでシフトチェンジ





MT、AT、CVT、DCTでは変速のメカニズムが異なる。乗用車用はおいておくことにして(そもそも農業機械のトランスミッションについて説明しないし)、モータースポーツのトランスミッションはどうかというと、構造は乗用車用のMTに近い。変速段ごとにサイズの異なるギヤ(歯車)がシャフトに串刺しになった状態で並んでいる。それも対になって並んでいる。エンジンからの動力を伝える側のシャフト+ギヤと、その動力をタイヤ側に伝えるシャフト+ギヤだ。





MTのMは前述したようにマニュアルのMで手動の意味である。変速操作はドライバーが行う。これを自動化したAMT(オートメーテッド・マニュアル・トランスミッション)というトランスミッションがあるが、世界的に見ても少数派だ。MTを進化・発展させて自動変速機にしたのがDCTである。





モータースポーツの上位カテゴリーが搭載するトランスミッションは、セミオートマチックだ。発進はペダル(足を使う)もしくはステアリングホイールの裏側に取り付けられたパドル(手を使う)によるクラッチ操作によって行う。変速する際はクラッチ操作をする必要はなく、パドルを操作する。アップシフト(1速→2速など)する際は右側のパドル、ダウンシフト(6速→5速など)の際は左側のパドルを引くといった具合だ。



 



近年のF1はステアリングのパドルでシフト操作する




F1を例に取り上げると、1980年代までは乗用車のMTと同じでマニュアル操作だった。狭いコクピットの端にシフトレバーがあり、重たいステアリングと格闘しながらギヤチェンジを行っていた。当然クラッチ操作も必要だし、シフトダウンする際は右足のつま先でブレーキペダルを踏みながらかかとでアクセルペダルを踏んで回転数を合わせるヒール&トゥというワザが必須だった。





1989年にフェラーリがセミオートマチック式のトランスミッションを導入。シフトレバーに手を伸ばす必要がなく、ステアリング操作に集中できるようになった。コンピューターの制御を取り入れたことでオーバーレブ(例えば、4速に入れるつもりが間違って2速に入れてしまい、エンジンが許容する回転を超えてしまうこと。破壊の原因になる)を防げることから急速に浸透した。





2005年にはBARホンダがアップシフト時のトルク切れをなくしたシームレスシフトトランスミッションを実戦投入。瞬く間に浸透し、2007年にはF1の標準技術になった。変速する際は(機械が自動で)クラッチを切ってギヤの掛け替えを行うが、クラッチを切っている間はエンジンの力を路面に伝えることはできない。それではタイムをロスしてしまうので、クラッチを切らずにアップシフトできるメカニズムを考案したのだ。





乗用車は6速なら6速、7速なら7速のトランスミッションがクルマに載っていたら、その状態で渋滞だろうと高速道路だろうと、山道だろうとどんな状況でもこなしてしまう。F1ではかつて、約60種類ものギヤを用意しておき、コースの特性に合わせて専用のセット(6~7速)を組んでレースに臨んでいた。それでは開発コストがかさむので、2010年にギヤの種類を30に制限する規則が導入され、2014年からは年間を通じて8速固定(ギヤ比を変えてはいけない)で走る決まりになっている。

 


情報提供元: citrus
記事名:「 『下町ロケット』で脚光を浴びた「トランスミッション」。何するパーツか知ってる?