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ポルシェがディーゼルエンジン搭載車種の販売を終了するという発表があった。日本にはポルシェのディーゼル車は正規輸入されていないのでピンとこない人がいるかもしれないが、世界的に見れば大きなニュースだ。
もちろんスポーツカーの「911」にディーゼルが積まれているわけではなく、現行車では「マカン」と「パナメーラ」に搭載されていた。そのエンジンは、こちらも日本導入はしていないがアウディ「Q5」や「Q7」に搭載している3LのV6ディーゼルターボと基本的に同じで、アウディが開発生産した。なので物理的なダメージはさほどないかもしれないけれど、2009年に追加したディーゼル車がたった9年で販売中止になるのだから、当のポルシェも想定外だっただろう。
原因が2015年に発覚したフォルクスワーゲン(VW)グループによるディーゼルエンジン排出ガス不正問題にあったことは容易に想像できる。この問題ではアウディが開発生産するディーゼルエンジンも対象となり、それを積むポルシェにも非難の目が向けられた。
■欧州でのディーゼル車人気は落ち目
しかも彼らが発端となったディーゼルへの逆風は他にも及んでいる。日本のメーカーではトヨタ自動車が3月、欧州市場でのディーゼル車販売を徐々に縮小し、最終的には廃止すると発表した。5月には日産も同様のアナウンスをしている。
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより熱効率が高くCO2排出量が少ない。欧州ブランドはこの点に着目し、環境に優しいエンジンとしてアピールしてきた。しかし有害ガスであるNOx(窒素酸化物)の排出量はガソリンエンジンより多い。これを減らすべく、VWの一件が発覚する前から排出ガス規制が厳しくなっていった。その結果、エンジンの構造が複雑になり価格の上昇につながった。
かつてはディーゼル王国と言われたフランスをはじめ、欧州各国でのディーゼル車の比率は軒並み減少している。燃費の良さから車両価格が多少高くても購入していたユーザーが、ガソリンエンジンの燃費向上もあって乗り換えているようだ。
加えて欧州以外ではディーゼル乗用車はさほど売れていない。世界の人口比率で欧州の占める割合は約1割に過ぎないし、人口が増えているわけではない。つまり今後の需要増加は望みにくい。今後も需要の伸びが期待できる新興国は多くがガソリン車が主役なのである。
■マツダはディーゼルを続けるのか?
こうなると気になるのがマツダだ。マツダは2012年、低圧縮比によって高価なNOx後処理装置を不要とし、しかも軽快に回る画期的なディーゼルエンジンを送り出し、国内ではあっという間にディーゼル車のトップブランドになった。現在も自社開発の乗用車ではロードスターを除く全車にディーゼルの設定をしている。
欧州でもディーゼル離れが進む現在、今後のマツダは大丈夫か?と心配する人もいるだろう。しかしマツダは今回の状況を予期していたかのように、ディーゼルとガソリンのいいとこ取りと言えるエンジンを開発した。昨年の東京モーターショーに展示され、まもなく市販化されるという「スカイアクティブX」だ。
ディーゼルエンジンとガソリンエンジンが大きく違うのは、燃料を燃やす方法だ。ガソリンが空気と燃料の混合気にスパークプラグの火花で着火するのに対し、ディーゼルは混合気を高度に圧縮することで自己着火させる。しかしスカイアクティブXはガソリンを燃料としつつ自己着火を実現しているのだ。
ここで技術的な特徴を紹介するスペースはないので、くわしくは専門記事を見ていただきたいが、多くのメーカーが長年研究しながら実現しなかった「夢のエンジン」をマツダがいち早くモノにできた理由のひとつに、ディーゼルエンジンの低圧縮比、ガソリンエンジンの高圧縮比への挑戦があったのだという。
このスカイアクティブXが相応に受け入れられると、マツダは次世代エンジンの主力をこちらに移す可能性がある。でも多くのブランドがディーゼルから撤退する中でマツダがディーゼルの存続を図れば、それは個性として評価されるだろうし、トヨタ・グループの枠内で展開するという手もあるはず。ジムニー・シエラのディーゼル車が実現すれば、それはそれで素敵なことなのだが。