サブスクリプションという言葉をご存知だろうか。予約購読、予約金という意味を持ち、近年では、商品を買うのではなく、利用権を借りて利用した期間に応じて料金を支払う方式のことを指す。





音楽業界においては世界ナンバーワンシェアを誇るSpotifyはじめAmazon Music Unlimited、レコチョクBest、LINE MUSIC、Apple Musicなど数多くの業者が提供している音楽の定額聴き放題サービスを指す。そしてこのサブスクリプションこそが今後、リスナーの音楽聴取方法の主流になってゆくと言われている。





 



■サブスクリプションって誰が得するの?



音楽のオンライン化がはじまって久しい。iTunesなど、家に居ながらどんな曲でも1曲250円程度でダウンロードできるという仕組みはCDありきだった音楽業界を根底から変えていった。





わざわざCD店に足を運び、シングルだと1000円、アルバムだと3000円のお金を費やしていたリスナーからすると便利なことこの上ない変化だったと思う。それがさらにサブスクリプションだと月額1000円程度で済む。わざわざ1曲1曲ダウンロードせずとも数千万曲のプレイリストから聴きたい曲をスムーズに選択することができる。リスナーは毎月1000円払っていれば音楽漬けの毎日を送ることができるわけだ。





2017年、アメリカ音楽市場はサブスクリプションの普及が要因となり2年連続で10%以上の成長をとげ、2008年以来となる85億ドルの売上をたたき出した。サブスクリプションの売上はなんと全体の約2/3。ダウンロード形式のサービスはすっかり廃れ、今後の音楽業界はサブスクリプションによってのみ浮上してゆくらしい。





しかし……僕はシンガーソングライターであり、音楽レーベルの経営にも携わっているのだが、その立場からするとサブスクリプションにはほとんど魅力を感じていない。なんて言ったって、サブスクリプションだと一回再生当たりレコード会社に入る売上はたったの1円程度なのだ。





「薄利多売でがんばれよ」と思う方もあるかもしれないが、そんなコンテンツを持っているレーベルはほんの一握りだし、アーティストにしたってみんながB'zやミスチル、安室奈美恵のように数万、数十万のファンを抱えているわけではない。名前があり、それなりの生活が出来ているアーティストでも固定ファンは数百~数千という人がほとんどだ。





CDであれば3000円のアルバムを500枚売れば150万円。内容によるが、レコーディングやCDプレスの費用、流通経費を差引いてもなんとか利益を出せる形態だった。150万円の売上をサブスクリプションで稼ごうとしたら……ほとんど無理ゲーじゃないか。



うちのレーベルでもいちおうサブスクリプションへの配信をしているが、それは「サブスクリプションでしか音楽を聴かない層がいるから」という消極的な理由。時代の流れには逆らえまへんな……ということでやっているが、売上のほとんどは未だにCDやダウンロードによるものだ。日本においては、少なくともあと10年は「アーティストの力とはちゃんとモノを買ってくれるお客さんを持っているか否か」だという考えが通用すると思っている。

 



 



■アーティストには不都合でしかない?





そして音楽愛好家としても憂慮がある。これはサブスクリプションの台頭以前からおこっていたことだが、レコードやCDの進化の過程で培われてきたシングル、アルバムとしてのコンセプト性や現物商品ゆえの資料性が、音楽のオンライン化の中で失われてしまうのではないかということ。





アルバムであれば10曲を順番に聴き、その中で緩急の妙やストーリー、メッセージ性を感じることができる作品こそが最上の部類だと思うが、それは否応なしに順番に聴かざるを得ないというレコード、CDの不便さが助けになっていたと思う。リスナーが主体的に選曲し、好きな曲しか聴かないという傾向になると、アーティストはシングルベスト盤のような作品しか作れない。





また、レコードやCDであればどんなにマイナーな作品でも現物が後世に残るので再評価の機会があったり、音楽史を知る上での参考資料になりうるが、サブスクリプションは業者が配信をとりやめてしまったらそこで消え去る。中古レコード店で山のようなレコード、CDを一枚ずつ手に取って過去の音楽に思いを馳せた僕のような経験を、未来のリスナーはすることができなくなるわけだ。サブスクリプションの普及は音楽史の断絶につながりはしないだろうか。



さんざんサブスクリプションをこきおろしたが、もちろん良いところがまったくないわけではない。リスナーにとっては便利だと思うし、アーティスト側にとっても有益になりうる要素は大いにある。



 



オンライン配信はほとんど初期費用がかからないので、1000枚10万円前後のCDプレス費用を支払えないような貧しいアマチュアミュージシャンが世に出るための方法としてはいいかもしれない。

 



また、現在多くのアーティストが新曲リリースにあわせてYouTubeでPVをタダ見せせざるを得なくなったり、ユーザーが楽曲を違法アップロードする問題があるが、これもサブスクリプションのサービス内容が充実すれば改善されてゆくかもしれない。



今後さらに普及してゆくであろう音楽のサブスクリプション。まだまだ運営サイドには課題があるし、利用するリスナーやアーティストも意識も高く持たなければいけないと思うが、この音楽聴取方法が音楽を愛する人々にとってより良い結果につながるよう願うばかりだ。


情報提供元: citrus
記事名:「 Spotify、Apple Music…「サブスクリプション」音楽サービスのアーティスト側の収益は想像以上に低かった