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F1ドライバーとてしょせん人間である。欲(より具体的にはチャンピオンへの渇望)に目がくらんで理性を失うこともあるのだろう。1989年、アイルトン・セナとアラン・プロストはマクラーレン・ホンダのチームメイトとして2年目のシーズンを過ごしていた。
ふたりの対立、そして拒絶が決定的になったのは、第2戦サンマリノGPの一件だったと伝わる。ポールポジションを獲得したセナが予選2番手のプロストを従えてレースをリードした。4周目、フェラーリのゲルハルト・ベルガーがコンクリートウォールに激突し、炎上。赤旗中断となった。
再スタート後、プロストが勢いよく飛び出してセナの前に出た。しかしセナはすぐに追いついてトップの座を奪い返した。この動きが、セナとプロストの確執を決定的にした。事前にふたりの間でかわした取り決めでは、スタートで先行したドライバーがコースの中ほどにあるヘアピンコーナーに進入する際の優先権を持つというものだった。ところがセナはそのヘアピンでプロストのインを差し、トップの座を奪い返したのだった。約束を破ったわけだ。
■セナもプロストもブツけてきた…
セナとプロストは対立した状態で第15戦日本GP(鈴鹿サーキット)を迎えた。残り2戦でセナが勝てば逆転して2年連続のチャンピオン、それ以外ならプロストが王座を獲得する状況だった。つまり、プロストには失うものがなかった。
ポールポジションを獲得したのはセナ。プロストは2番手だったが、スタートでセナの前に出ると、終盤までプロスト~セナの位置関係は変わらず、53周レースの47周目を迎えた。セナはシケインでインからプロストを追い抜きにかかったが、プロストは譲らず、セナがノーズを入れてきた方にステアリングを切った。その結果、2台のマシンが絡み合うようにして止まった。プロストにしてみれば、セナと共倒れになるなら避ける必要はなかったのだ。「未必の故意」だったかもしれない……。
プロストはそのままマシンから降りたが、セナはコースマーシャルの助けを借りてレースを続行。ピットに入ってノーズ交換を行ったものの、51周目のシケインでトップに立ち、先頭でゴールした。だが、コースに復帰した際にシケイン不通過だったとして失格の裁定が下り、プロストが3度目のタイトルを手にした。
それから1年後、1990年の第15戦日本GPでも、セナとプロストは激突した。両者の立場は前年とは逆で、セナがプロスト(フェラーリドライバーになっていた)をリードして日本GPを迎えていた。そして、決着は1周目の1コーナーでついた。
セナはそれまで何度もそうしてきたように、ポールポジションのグリッド位置をアウト側にするよう要望した。だが、これまた同じように(プロスト贔屓だった?)ルール統括側に拒否され、ポールポジションを獲得したにもかかわらず不利なイン側からスタートすることになった(翌1991年からアウト側になる)。
セナの不安は的中し、スタートで出遅れてしまう。1コーナーに向けて後れを取り戻しつつあったセナは、進入でプロストのインに飛び込んだ。だが、そこにセナの居場所はなく、2台はもつれるようにしてコースの外に飛び出した。派手に砂煙を上げながら。マシンを降りたふたりは視線を交わすことなく、ピットに向かって歩いた。
この後味の悪い激突劇によって、セナは2度目のタイトル獲得を決めた。翌年、セナは「グリッド位置が正しい位置に変更されていたら、あんなことは起きなかった」と人ごとのように発言したが、要するに、わざとぶつけたということである。
■シューマッハはあからさまにインに切り込んだ
それから7年後、1997年の最終戦ヨーロッパGP(ヘレス)では、ミハエル・シューマッハ(フェラーリ)とジャック・ビルヌーブ(ウイリアムズ)がタイトルを懸けてレースに臨んでいた。シューマッハのリードはわずかに1点だった。
69周レースの48周目、トップを走っていたシューマッハにビルヌーブが追いついた。裏のストレートエンドでビルヌーブがインを差した。ここで前に出られてはタイトルを奪われてしまう。「僕も人間。ミスを犯すことはある」と後に語ったシューマッハは、あからさまにステアリングをインに切り込み、ビルヌーブのマシンに体当たりをした(現地で見ていました。モニターで、ですが)。追い抜きを阻止するためである。
だが、弾き飛ばすはずだったビルヌーブはコースに留まり、コースに残るはずだったシューマッハははじき飛ばされてグラベルに深くはまり込んでしまった。ビルヌーブがリタイヤすればシューマッハに3度目のタイトルが転がり込む計算だったが、ビルヌーブは3位で完走を果たし(マクラーレンのハッキネンが初優勝した)、参戦2年目で初めてのタイトルを手にした。
レースが終わって15日後、ルール統括側はシューマッハをドライバーズチャンピオンシップから除外した。ミスではなく故意だった(未必であっても悪質)と判断したのである。故意なら論外だが、ミスだろうと未必の故意だろうと、チャンピオンを争うドライバー同士が激突すると、後味が悪くなるのは間違いない。