業界を問わず、最近見られる傾向として、仕事の短納期化、低価格化というものがあります。これを称して「牛丼化」などと表現する向きもあるようです。



 



先日もある製造業の社長にお話を聞きましたが、やはり下請け泣かせと言われるような取引先企業からの要求は相当に多く、協力要請と称した値下げ要求や、無茶な納期設定なども日常的にあるそう。さらに開発段階の製品なのに相見積だと言われるなど、理不尽としか思えない要求もあり、廃業する会社も増えているのだとか。



 



これを解決する方法があるのかと考えていた中で、この社長のお話の中にもいくつかのヒントがありました。



 



例えば、下請け泣かせのような話の一方で、下請けを大事にしてくれてWin-Winの付き合いができる企業も確実にあり、企業スタンスの差は大きくなってきているそうです。Win-Winの付き合いができる取引先は、自社の都合ばかりを押し付けず、信頼できる協力会社と共存共栄しなければ自社の事業が成り立たないことがわかっています。やはりそういう取引先を選び、優先するということはあるでしょう。



 



またこの会社は、比較的特殊な加工技術をお持ちの会社で、心のどこかに「うちが本当に手を引いたら困るよね」という気持ちがあるそうです。ですから、どんなことでもできるだけの協力はするという姿勢は見せつつも、自社の事情として言うべきことは言い、最低条件に合わない仕事は請けないのだとか。以前、価格交渉で決裂して離れていった大手企業が、新たな取引先とは結局品質面で折り合わず、また戻ってきたことがあったそうです。結局は「安かろう悪かろう」だったということで、仕事には必ず適正価格があり、ある価格以下では何か問題があるということです。



 



 



■「うまい、安い、早い」が今の牛丼の優先順位。では仕事は…?



 



仕事の価値というのは「品質(Quality)」「費用(Cost)」「期間(Delivery)」で評価され、「Q・C・D」というような言い方をします。それぞれは基本的にトレードオフの関係にあり、品質を優先すれば費用や期間がかかり、費用を優先すれば品質や期間は犠牲になるというようなことがあります。



 



これを先の牛丼の話に置き換えると、まさに某チェーン店が言っている「うまい・安い・早い」が、このQ・C・Dにあたります。ちなみにこの順番は時代とともに入れ替わっているそうで、「うまい、早い」→「早い、うまい、安い」→「うまい、早い、安い」→「うまい、安い、早い」となって現在に至ります。それぞれの時代の優先順位を表しているのですね。「うまい」はまさに品質のことで、近年はこれが最も優先順位が高いということですが、この「うまい」という表現は、ほぼ個人の主観によるものです。「安い」と「早い」も、多少の主観は入っていますが、一般的な飲食店であれば、だいたい10分も待てばどんな料理も出てくるでしょうし、値段にもだいたいの基準があります。



 



そうなると、仕事の内容としては品質が最優先されるものの、その捉え方には幅があり、それに見合った価格と納期であれば、仕事の価値としては十分に認められるということです。某ハンバーガーチェーンが業績不振で苦しんでいますが、この理由の一つに、過去の安売り戦略で、自社の商品の価値がその値段程度のものだと、消費者にインプットされてしまったことがあると言われています。自ら商品価値を下げてしまったわけですが、一度下げてしまったものを元に戻すのは、なかなか難しいということです。



 



さて、ここまでの話では、「一定条件以下の仕事はしなければ良い」というきれいごとの結論になってしまいますが、現実はそれほど単純ではありません。仕事の「牛丼化」のような話も、仕事をもらうためにはやむを得ない面があると思います。本当に仕事に困れば、安くても無茶でもやらなければならないことがあるでしょう。



 



しかし、Win-Winのバランスが崩れた関係は長続きしません。お互いがWin-Winを意識し、お互いに努力をしながらその時の適正条件で取引をすることが、たぶんお互いが一番発展できると思います。そのためには、やっぱり私は発注側の意識の問題が大きいと思います。そういう立場の方々にも苦しい事情はあるのでしょうが、どう感じられているのかをうかがう機会があればと思っています。



 



※情報は2016年5月31日現在のものです


情報提供元: citrus
記事名:「 短納期に低価格…「牛丼化」する仕事に苦しむ人々