お気づきの方も多いかと存じますが、ビジネスシーンでよく使われる「今度飲みに行きましょう」には、あらゆる種類の大人の美徳が凝縮されています。このフレーズを正しく美しく使いこなせるようになったとき、あなたはまた一段、大人の階段を上った喜びをかみしめることができるでしょう。



 



ところが最近、各方面から「今度飲みに行きましょう」に対する非難の声が上がっています。はあちゅうさんが書いたコラム〈「今度飲みに行きましょう」とかいうやつは全員バカか暇人。〉はネット上で大きな反響を巻き起こしたし、マイナビウーマンが行なったこの調査では、「今度飲みに行きましょう」が見事1位に輝いています。



 



あなたが一番「社交辞令だなぁ」だと感じるフレーズは?「1位 今度飲みに行きましょう」



 



ちなみに、2位は「機会があれば~」、3位は「前向きに検討します」、4位は「お世話になっております」でした。以下「仕事ができますね」「参考にさせていただきます」「若く見えますね」「きれいですね」「一度ごあいさつに伺います」といったフレーズが並んでいます。いやあ、どれも便利で素敵なフレーズばかりじゃありませんか。



 



そもそもこの調査は「社交辞令=よくないもの」という前提で行なわれています。しかし言うまでもなく、社交辞令は薄い人間関係を円滑に保つ潤滑油であり、大人に欠かせないツールに他なりません。「社交辞令=大人のたしなみ」という前提であらためて調査結果を見ると、「大人として大切にしたいフレーズ」のランキングでもあると言えそうです。



 



そんな大切で偉大な「今度飲みに行きましょう」に敬意を表しつつ、真価をさらに発揮してもらうための正しく美しい使い方を考えてみましょう。仕事で知り合った同性とさらに仲良くなりたい場合も、仕事や仕事以外で知り合った異性とあわよくば交際に発展させたい場合も、おおむね同じことが言えるかと存じます。



 



 



■本気で飲みに行く話をまとめたいときは使ってはいけない



 



大人の世界の暗黙の了解として、「今度飲みに行きましょう」というフレーズは、具体的に飲みに行く話を前に進めるためではなく、多くの場合「あなたにはけっして敵意は持っていません。むしろ親近感を抱いています。実際に飲みに行く関係になるにはまだまだ時間がかかるでしょうけど、いつかそういう機会があればいいなとは思っています」というニュアンスを伝えるために使われます。



 



まれに「立場が上の俺がやさしい言葉をかけてやっているんだから、ありがたく思え」「そこまで謝るなら、今回の不手際は水に流してやる」など別のニュアンスを伝えるために使われる場面もありますが、話がややこしくなるのでそっちは省略します。



 



ただ、いくらお愛想のつもりでも、絶対いっしょに飲みに行きたくない相手に使うのは危険。いかにも形だけで言っている気配が相手にも伝わり、思いっきりぞんざいに「ええ、機会があったら」とか返されて、苦手意識や「こいつやっぱり嫌い」という感情がお互いに増幅してしまうかもしれません。社交辞令にも限度や限界があります。



 



 



■言われた側は「本気で行きたい度」によってリアクションを変える



 



今すぐ具体的に飲む話を進めるつもりはないにせよ、言う側としては「もし実際に飲むことになったら、それもまたよし」ぐらいの覚悟を持って発したいところ。試しにこう言ってみることによって、相手が自分にどのぐらい親近感を抱いているかを測れるという効能もあります。それだけに、言われた側は「気持ちが正しく伝わるちょうどいい具合のリアクション」をする必要があります。



 



相手ともっと仲良くなりたいという気持ちが本当にあるなら、遠慮する必要はありません。まずは、満面の笑顔で「いいですねー、ぜひ行きましょう!」と返して、さらに「いつごろの時期がお時間ありそうですか」とか「いつもどのあたりで飲まれているんですか」といった具体的な質問をすることで、「本気で行きたい度」の高さが伝わります。ただ、そこで具体的な約束をしようとするのは早計。あくまで気持ちの表明だけに止めるのが大人のマナーであり、飲みに行っても話が弾まないなどの事故を防ぐ大人の用心深さです。



 



逆に、そう言ってくれた気持ちは嬉しいし、こちらも仕事相手としては仲良くしたいと思っているけど、いっしょに飲みに行きたいほどでもない場合は、そういうニュアンスをきちんと伝えたいところ。軽い微笑み程度の表情で微妙に視線をそらしつつ「いいですねー、行きましょう」と返します。いくら行きたくなくても「いやあ、お気持ちだけで」などと明確に拒絶する言葉を使う必要はありません。「いいですねー」の言い方で真意をにじませ、相手の「いいですねー」に込められた真意を正しく読みとるのが、大人の技量です。



 



 



■「本当に」「マジで」「社交辞令ではなく」を付けて一歩踏み込む



 



世の中でやり取りされている「今度飲みに行きましょう」の95%以上(石原調べ)は、実際に飲みに行く話にはなりません。しかし、お互いの気持ちが一致し、お互いがそのニュアンスを正確に表現できたときには、実際に飲みに行くという幸福な展開に発展します。時々、いろんな行き違いで話が勢いよく進んでしまい、機が熟していないのに飲みに行くことになるケースもありますが、それもまた運命だと大らかに受け止めましょう。



 



しかるべき段階を踏んで、親密になりたい相手と楽しい関係が生まれる幸福な展開に持っていくには、同じ相手に対して二度目三度目に「今度飲みに行きましょう」をぶつけるときの言い方が肝心です。代わり映えのしないテンションでぶつけているうちは、いちおうの好意を表現している域を出ないし、相手も代わり映えのしない反応しかできません。



 



一歩踏み込みたいときは、あえて過剰に前のめり感をにじませつつ、



 



「いや本当に、よかったら今度飲みに行きましょう」



 



「社交辞令ではなく、マジで今度飲みに行きましょう」



 



といった表現で「けっこう本気で誘おうとしている」という意思を伝えましょう。



 



それに対して相手が乗り気なリアクションをした場合は、さらに踏み込めばよし。「そうですね、ぜひ」ぐらいの相変わらず曖昧なリアクションだったら、いったん引き下がりましょう。こっちが思い切って踏み込んだとしても、相手にその気がなければさらりとかわす余地が十分にあるところも、「今度飲みに行きましょう」の素晴らしさです。



 



そうやって相手の出方を探りながら、徐々に気持ちをすり合わせて、やがて具体的な約束に発展していく――。やっと実現した飲みの席で口にするお酒は、さぞおいしいに違いありません。まさに大人にしか味わえない、大人の喜びがつまった至福の一杯です。



 



たしかに「今度飲みに行きましょう」というフレーズには面倒な一面もありますが、それを乗り越えて、果敢に使いこなすのが大人の心意気。これからも積極的に繰り出して、うわべだけの人間関係を無難に築いたり、たまに密接な人間関係を切り開いたりしていただければ幸いです。ああ、大人って本当にいいものですね。そういうことをじっくり語り合いたいという方がもしいらっしゃったら、今度飲みに行きましょう。



 



※情報は2016年3月24日現在のものです


情報提供元: citrus
記事名:「 「今度飲みに行きましょう」の正しく美しい使い方