今年1月に発売された、“新作FCカセット”『8BIT MUSIC POWER』。そのファンブックとして『8BIT MUSIC POWERサウンドブック』が今日から発売開始! 「サウンドブック」というタイトルどおり、サウンドトラックCDが付録していて、CDプレーヤーやPCなどでも熱い8BITサウンドが楽しめる一冊です。


ところでこのサントラ、録音・マスタリングには相当な試行錯誤があったそうな。『8BIT MUSIC POWER』のプロデューサー・RIKIさんに、ファミコンでサントラを作る苦労について語ってもらいましたよ!



▲ファミカセ『8BIT MUSIC POWER』の音源がサウンドブックに!


ファミコンから普通に録音しようと思ったら


当初は、ファミコンの背面にある音声端子から、赤白ケーブルでそのまま録音していたそうだ。「ファミコンから録音する」と言われると、通常は他の方法は思いつかないだろう。しかしそんなとき、当時のファミコンサウンドトラックを収録したベテランエンジニアと知り合い、考え方が変わったという。


当時、ものすごい労力をかけて、最高の音質を追及していたんですね。その話を詳しく教えてもらい、本物に圧倒されたんですよ。ならば自分たちも、できる限りの工夫をしてみようじゃないかと。(RIKI)


「ちょっとノイズが混じるのも、それがファミコン」といった妥協をやめ、実機を使いつつハイクオリティな録音を目指すことにしたというのだ。なお単純にノイズを減らすだけなら、パソコン上でソフトウェア音源を使えば簡単。しかしそれはやりたくなかった。あくまでもファミコン実機の音を求めたのだ。



FCカセットからサントラCDを制作するのは、当初考えていたよりもはるかに難しかったそうだ。


録音用の特製カセットまで作ったが!?


まず考えたのは、「どうやってノイズの発生を抑えるか」だったという。『8BIT MUSIC POWER』は音楽を中心とした作品ながら映像表現も豪華で、ファミコンのパワーを使い切るように作られている。その豪華な映像表現が、ノイズの元になっていたそうなのだ。


画面が動くとノイズが出ちゃう。だから、画面が一切出ない、音だけのカセットを作ってみたんですよ。これならキレイに録れるはず! って。(RIKI)


しかし実際に録音してみると、期待したほどの音質向上には繋がらなかった。というのも、ファミコン実機の音声端子そのものがネックになって、クリアーな録音を難しくしていたのだという。そこで、音声端子を使わずに録音する方法を模索することに。



AV仕様ファミコンの背面AV端子。ファミコンから録音するとなると、ココを使うしか無さそうだが……!?


チップチューン機材で実機から音を取り出す!


最終的に採用したのは、チップチューン(ゲーム機を使って音楽を演奏すること)に使われる特殊な機材だったそうだ。それは、TNSシリーズという特殊カセット。ファミコン実機に挿して、NSF(ファミコン音楽の生データ)を再生する「ファミリーコンピュータ専用NSF再生カートリッジ」だ。


TNSなら実機の音源から、ほとんど劣化していない音声を取り出せます。現代の機械なので、ノイズなども乗りにくいんですよ。TNSの作者にコンタクトを取って、アドバイスを貰ったりもしました。(RIKI)


しかし、それですべて解決とはいかなかったようだ。ファミコン音源の5パートを一緒に鳴らしてしまうと、理想的なバランスに調整することはできない。また、各パートの音声が干渉しあい、音質に影響が出てしまうのだという。そこで、楽曲のデータを5パートに分解して、ひとつずつ録音して、最後にミックスした。


ファミコンには、矩形波が2つ、三角波、ノイズ、DPCMがそれぞれひとつ、全部で5パートあるんです。これを全部一緒に鳴らして録音するより、1つづつ別トラックで収録したほうが、収録後のマスタリングで調整しやすいはず。だから1曲につき5回録音することにしたんです。(RIKI)



RIKIさん所有の、TNSシリーズ。ファミコン本体の音源を使いつつ、クリアな出力が可能だという。


ファミコンのバグまで利用した曲が!?


さらに最後になって、思わぬ罠が待ち構えていた。それは作曲家の一人、Tappyさんの「TIP-TRACK 303」という曲だった。ファミコン音源に深い知識を持つTappyさんは、実機で演奏されることを前提に楽曲を作っており、「各パートが干渉して音が変化するファミコンの特性」まで利用して音楽を奏でていたのだ。


録音してみたら、Tappyさんの曲だけ、なんか雰囲気が違うんです。三角波の音が、ちょっとチープな感じになっちゃったんですよ。それで本人に聞いてみたら、ファミコンのバグまで使う衝撃の事実でした!(RIKI)


「DPCMが鳴ると三角波が小さく変化する」という実機の特性が、音作りのテクニックとして用いられていたのだ。ギリギリのタイミングで、Tappyさんの曲だけDPCMと三角波を一緒に録音しなおしたという。


このサントラ、録音は塩田信之さん(『サマーカーニバル’92 烈火』などで知られるゲーム音楽家。『8BIT MUSIC POWER』にも参加)にお願いしました。マスタリングは、何と下田祐さん(『ロロナのアトリエ』などを手掛けたゲーム音楽家)にやっていただいたんです。お2人には本当に感謝しきれません。RIKIのコダワリに付き合って、最高のサントラを作り上げていただきました。(RIKI)


ゲーム機から音を録音するという作業の裏に、これほどのドラマが秘められていたとは……。ファミコン実機にこだわりつつ、普通にプレイするよりもいい音。そんなファミコン愛の結晶なのだろう。



苦労の果てに作り上げたサントラCD。ムック『8BIT MUSIC POWERサウンドブック』に付属している。



8BIT MUSIC POWERサウンドブック (三才ムックvol.878)

新作ファミカセ開発裏話! ゲーム音楽界のレジェンド・慶野由利子&国本剛章が明かす『8BIT MUSIC POWER』でやった冒険とは?



情報提供元: ミトク
記事名:「 ファミコンから最高のピコピコ音を録った! 『8BIT MUSIC POWER』サウンドブック制作裏話を聞く