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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』とは、水木しげる先生の生誕100周年記念に制作された、鬼太郎の出生秘話を描いた劇場版アニメです。
2023年11月下旬に公開されるや口コミで人気が広まり、リピーターも続出しています。
第47回日本アカデミー賞では優秀アニメーション作品賞を受賞し、キャラデザの谷田部透湖(やたべとうこ)さんがお祝いイラストを描き下ろしました。
山奥の廃村を訪れた鬼太郎と目玉おやじ。
そこはかつて哭倉村(なぐらむら)と呼ばれ、忌まわしい惨劇が起きた土地でした。
今を遡ること70年前、昭和31年の哭倉村を訪れたサラリーマン・水木は、日本の財政界を牛耳る龍賀一族に取り入り、彼等が独占する製剤Mの秘密を掴もうと企てます。
ところが当主・時貞の遺書の公開後、猟奇的な連続殺人が発生。
消えた妻を探しに来た怪しい男・ゲゲ郎が犯人と疑われ、座敷牢に幽閉されてしまい……!?
長田幻治(おさだげんじ)は哭倉村の村長。
龍賀家三女・庚子(としこ)と所帯を持ち、一人息子の時弥をもうけました。
礼儀正しい口調と柔らかい物腰、誠実な対応で村人の信頼を勝ち得て、龍賀家の冠婚葬祭の場にも立会人の名分で同席。
普段から逞しい男たちを従え、哭倉村の治安を守っています。
……というのは表の顔。
その本性は裏鬼衆の首領にして、龍賀家の悪事に与する呪術の専門家。
裏鬼衆とは妖怪狩りを生業とする修験者組織・鬼道衆を、禁術に手を染めた罪で破門された外法者の集まりです。
村に迷い込んだ人間、ならびに拉致した幽霊族を地下施設に送り、狂骨の養分に捧げて製剤Mを生み出す龍賀家の秘密を知りながら、彼等に命じられるがまま隠蔽工作や目撃者の始末に関与してきました。
都会に駆け落ちした龍賀家次女・丙江(ひのえ)の恋人を抹殺し、村に連れ戻したのも長田です。
早い話、『ひぐらしのなく頃に』の園崎家や『SIREN』の宮田家の位置付け。
哭倉村の暗部を象徴する存在が長田幻治なのでした。
故に龍賀家の狂ったしきたりや哭倉村のおぞましい因習にどっぷり染まり、幽霊族を嫌悪しています。
表向き息子とされている時弥は、時貞と庚子の間にできた子とする説が有力です。
優しくおっとりした物腰と礼儀正しい口調が印象的な青年。
龍賀家に絶対忠誠を誓い、水木の送迎や状況説明など、村長の役目をしっかり果たしています。
龍賀家長女・乙米(おとめ)とは主従関係にあり、彼女の命令にはまず逆らいません。
反面腹黒く狡猾で、よそ者に秘密を明かさない二面性を併せ持ち、製剤Mの真実を知った人間の処分や幽霊族の捕縛などの汚れ仕事をこなしています。
裏鬼衆を率いてゲゲ郎に戦闘を挑んだ際は、人海戦術で包囲網を敷き、敵を追い詰める冷酷さを発揮しました。
長い茶髪を後ろで結わえ、両耳に大きな円盤状のピアス(鏡に見える)を着用。
普段は糸目で瞳が見えず、したたかなキツネのような雰囲気を纏っています。
頭のてっぺんからぴょんと飛び出た、ヤシの木のような2本のアホ毛がチャームポイント。
黒に近い濃紺の和装に純白の足袋を着用。身なりからは神職のような印象も受けます。
表情は微笑が基本ですが、乙米関連で激情を露わにすることも。
開眼時は切れ長の三白眼が鋭い眼光を放ち、意外と(?)悪人顔な事実が判明。
ちなみに神道では鏡がご神体として祀られることが多いので、耳飾りはそれをイメージしたのではないでしょうか。
元鬼道衆の長田は妖怪退治のプロフェッショナル。
神道や陰陽道の奥義に深く通じた呪術のエキスパートで、哭倉村に封じられた狂骨を操ることができます。
咄嗟の機転やリーダーシップに富み、断崖の楼台では裏鬼衆を束ね上げ、臨機応変な采配を振るってゲゲ郎を追い詰めました。
後半では乙米の指示に従い、裏鬼衆の部下と共にゲゲ郎を拘束。
地下施設に連行し、両手足を切り落とそうとしました。
長田と乙米は特別な関係にあります。トークショーにて、監督は「長田が10代、乙米から20代の頃から付き合いがあった」と言及。
2人のモデルは谷崎潤一郎『春琴抄』の春琴と佐助だと明かされました。
『春琴抄』は盲目の主に尽くす下男の話。
長田も主従の一線を引いた上で、乙米を慕っていた可能性が高いです。
夫に言えない生家の罪を共有していた乙米はといえば、長田に精神面で依存していた本音が、最期の言動によく現われていました。
今際の際に乙米の名前を呼んだこと、乙米を殺した沙夜に復讐したことからも、限りなく愛情に近い忠誠心が読み取れますね。
CV石田彰さんが発表された時は、「糸目の石田彰」がXのトレンド入りするなど、SNSがざわざわしたのは記憶に新しいですね。
石田彰さんは策士で腹黒な男性キャラに定評あるベテラン声優。
『スレイヤーズ』のゼロス、『新世紀エヴァンゲリオン』の渚カヲル、『血界戦線』の堕落王フェムト……。
敵か味方かわからない、トリッキーな言動でストーリーを引っかき回すのがお約束でした。
CV発表時点で黒幕説が浮上したのも頷けます。
余談ながら石田彰さんが担当する男性キャラは、「大事な人を守れなかった哀しき悪役」属性を兼ねることが多く、長田の末路を目にした視聴者の大半が「あっ……」となったとか。
本作でも素晴らしい演技を披露しており、感情を殺して主人に仕える声、乙米の身を案じる囁き、沙代に放った呪詛や今際の際の絶叫の使い分けが、視聴者の胸を揺さぶりました。
当主・時貞の死後、龍賀家の面々が一堂に会す座敷にて待機中の長田。
家族揃って正座する光景が微笑ましいですね。座り方や手の置き方にも性格の違いが出ています。
本編では乙米と一緒にいる場面が多く、妻子と絡むシーンがほぼなかったので、貴重な長田家3ショットでした。
泰然と居直る長田に比べ、しょんぼり肩をすぼめた庚子の冴えない表情が気になります。
はたして夫婦円満だったんでしょうか?
本編でも2ショットが多い乙米と長田。
龍賀家3姉妹が応接間に集ったシーンでもちゃっかり乙米の隣をキープし、生真面目な表情で相槌を打っていました。
出会いは長田が10代、乙米が20代の頃だそうですが、年齢差を感じてぐっときます。
乙米の話を聞く際に恭しく身を屈めるところも、身長差・体格差が際立って萌えました。
堂々の第1位は今際の際、最愛の人の名前を呼んで果てるシーン。
狂骨に襲われた乙米に助けを求められるも間に合わず、「乙米様!」と絶叫する必死の形相からは、募りに募った未練と積年の想いが伝わってきました。
以上、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のキャラクター・長田幻治の魅力を解説しました。
魑魅魍魎が跋扈する哭倉村の暗部を担い、ゲゲ郎や水木と敵対する一方、最期まで乙米に尽くした献身は忘れ難い悲哀を帯びていましたよね。
あなたは長田幻治のどんな所が好きですか?ぜひ教えてください!