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今回は、コロナ禍がもたらした「ニューノーマル時代のヨーグルト選び」に焦点をあて、先日開催されたセミナー『ビフィズス菌×イヌリンの体内(腸内)発酵がもたらす効果~体内(腸内)発酵のメカニズムと免疫への影響』に登壇された、帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科の松井輝明教授と、株式会社メタジェン代表取締役社長CEOであり、慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特任教授の福田真嗣氏のお話しを参考に、ヨーグルト選びの変化とその機能について紐解いていきたいと思います。
写真左)福田真嗣氏 右)松井輝明教授
※ヨーグルト対する意識調査2020年4月/N₌4000名 株式会社プラネット調べより。
免疫力向上を期待され食べられるヨーグルトなどの発酵食品。同じヨーグルトでも、その効果には違いがあるようです。理由は大腸内での体内発酵力にあります。
眼・口腔内・鼻腔・気管支・腸管などの粘膜部位は、身体の外の環境と繋がっていて、栄養素と同時にウィルスや細菌など病原体も侵入しやすく常に感染のリスクにさらされるため、感染が起きないように粘膜免疫系はバリアとして機能しています。
なかでも粘膜バリアで病原体の感染防御を担うのがIgA抗体 (免疫ブログリンA)であり、IgAは全身の粘膜で作用し、抗原特異性抗体(特定の抗原にしか反応しない性質)が広く多様なウィルスに結合することで、細菌やウィルスの侵入を防ぎます。
このIgAをより多く産生するためには、大腸での体内発酵が重要なカギとなります。体内発酵を起こすことで、IgAを増強し免疫力を向上させるスーパー物質、短鎖脂肪酸(SCFA)を生み出すことができるからです。
短鎖脂肪酸は大腸で働く腸内細菌によってつくられます。大腸で産生された短鎖脂肪酸は、血中から全身を巡り、免疫力向上、抗炎症作用、全身のエネルギー源、やせ体質へと導くなど、全身の健康に大きな影響を与えるということがわかってきています。
短鎖脂肪酸は感染予防に重要なIgAを産生する免疫細胞を活性化するほか、感染後の重症化を防ぐのに重要なIgG抗体を産生する細胞にも直接的に作用することがわかっています。また、免疫細胞の一種であるヘルパーT細胞やB細胞にはたらきかけることで間接的にIgAやIgGを増強することにも繋がります。
免疫力が衰えている人の腸内フローラは健常者とくらべ、多様性が低く、短鎖脂肪酸量が低下している状態であることが分かっています。新型コロナウィルス患者は、便から新型コロナウィルスが検出されており、中には下痢を併発する症状も見られるなど腸内フローラの多様性が低下していることから、腸内フローラの状態と新型コロナウィルス感染には関連がある可能性があると考えられています。
この短鎖脂肪酸の増加を促すためには、腸内細菌がエサにする水溶性食物繊維を食べることが好ましいとされています。
水溶性食物繊維は胃や小腸で消化しきれないため、大腸まで届き腸内フローラを育てるエサになることができます。大腸に多く棲むビフィズス菌などの腸内細菌は、水溶性食物繊維を食べ、体内発酵を起こし、産生された短鎖脂肪酸が血中から全身を巡り、全身の粘膜全体でのIgA産生を増強します。
同じく、ヒトの消化酵素では消化しきれない物質として、オリゴ糖やβグルカン、グアーガム、ペクチン、グルコマンナン、レジスタントスターチなどがありますが、水溶性食物繊維のなかでも世界的にポピュラーなのがイヌリンです。
イヌリンはゴボウやタマネギ、にんにく、チコリなどに含まれており、ビフィズス菌などの腸内細菌の増殖を促します。同じ水溶性食物繊維でも体内発酵力すなわち短鎖脂肪酸産生量には差があり、イヌリンは他の食物繊維と比較しても短鎖脂肪酸をつくる量が多いということがわかっています。
大腸には40兆個以上の細菌が棲んでおり、ヒトに良い働きをする有用菌と悪い働きをする有害菌が日々勢力争いをして生息している状態です。ちなみに胃は胃酸の影響が強く100~1000個/gほど、小腸と十二指腸は胆汁の影響が強いために胃と同じく100~1000個/gほどの細菌しか棲んでいません。細菌の数が爆発的に増えるのは回腸(小腸の終わりで大腸の入り口部分)から。酸素を嫌う偏性嫌気性菌のビフィズス菌は大腸に大量に棲んでおり、大腸まで届くイヌリンと出会うことで多くの短鎖脂肪酸を産生することができるわけです。
また、日本人は他国と比べて大腸内のビフィズス菌の割合が高く、日本人の大腸にとってビフィズス菌×イヌリンの発酵は、IgAを産生する短鎖脂肪酸を育むのに適した土壌といえそうです。
今回のセミナーでは、乳酸菌を含む普通のヨーグルトよりも、乳酸菌の他に大腸で働くビフィズス菌とそのエサであるイヌリンを含むヨーグルトの方が、短鎖脂肪酸を多く産生するという試験結果も発表されました。
さらにイヌリンは、免疫力を高めるだけでなく免疫暴走(サイトカインストーム)を制御するという実験報告もあります。インフルエンザウィルスに感染させたマウスの実験で、イヌリン投与群とセルロース入りのエサを投与したコントロール群とを比べたところ、イヌリン投与群はインフルエンザ感染したマウスの生存率を高め、重症度を示す臨床スコアを低減させたそうです。
今回のセミナーでは、大腸内ではたらく有用菌であるビフィズス菌と、イヌリンなどの水溶性食物繊維を積極的に摂ることで、IgA産生を促す短鎖脂肪酸を生むことに一定の効果があると知りました。
腸内環境には個性があり、健康状態や体質によっても摂取効果は異なりますが、感染予防対策のひとつとして、コロナ禍におけるニューノーマル時代のヨーグルト選びは特に大腸を意識することが大切なようです。
ぜひ、ビフィズス菌とイヌリンなどの水溶性食物繊維を意識して摂ることで短鎖脂肪酸を増やし、粘膜バリア機能を向上させ冬を乗り切りたいものですね。