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約半世紀も経てば、当時の難事件も真相究明出来る可能性は高い…。
北欧ノルウェーで、1970年に起こった通称「イスダルの女」と呼ばれる事件。とにかく謎だらけで、真相が明らかにされないまま捜査が打ち切られ迷宮入りとなった。このミステリーは、その後、幾度もマンガや映画の題材となったため、ノルウェーでは知らない人はいないくらい有名だ。
どんな事件だったのか
1970年11月29日、ノルウェー第二の都市ベルゲンに近いイスダレン渓谷で、岩陰に全裸の女性変死体が発見された。強姦殺人かと疑われたが、よく見ると、現場に様々な「?」が多かったという。まず女の指の指紋が全て削り取られ、しかも焼き潰されていた。焚き火の跡があり、所持品のラベルなども焼かれていた。身元も国籍も隠蔽するにしては手が込みすぎていた。
事件発生から2日後、ベルゲン市内の駅でスーツケースが2つ発見される。死体現場に残されていた、割れたグラスの破片から採取できた指紋とスーツケースに付いていた指紋が一致した。
中を開けると、不可解なものがたくさん飛び出してきた。
9つの偽名パスポート
日付と医師名が切られた処方箋
複数のカツラ
多額のドイツマルク
暗号化された日記
~など
目撃証言から、数か国語を話す30代くらいの美女だったという。足取りを追うと、市内のホテルを転々とし、なぜかバルコニー付の部屋に固執して何度も部屋を変えていたという。
彼女の姿を最後に見たのは、地元に住む26歳の青年だった。死体発見の5日前、友人とイスダレン渓谷を歩いていた時、何かに怯えるような険しい顔をした女性とすれ違った。印象に残ったのは、山を歩くには不向きなドレス姿だったこと、更にその女性を追うように黒いコートを着た2人の男が駆け抜けたことだった。
その男性はニュースで事件を知り、もしかしたらあの女性かも?と思って警察へ出向いた。死んだ女性の似顔絵を見せてもうと、とても似ていたので証言すると、警察は彼にこう言った。
「女のことは忘れろ。この事件は迷宮入りだ」
男性はそれ以上、何も言えなかった。と同時に、これは相当ヤバイ事件だと感じたという。
その後、地元警察はこんな検視結果を発表した。「女性は睡眠薬服用後、意識朦朧とした状態で焚き火に突っ込み火傷。煙に巻かれ一酸化炭素中毒による自殺をはかった」
___この説明に納得が行くだろうか?
聞けばこれ以上、女性の身元はおろか家族や仕事のことなどプロフィール的な詳細は一切公になっていないという。マスコミが追いかけそうな事件に思えるが、踏み入ることがタブーというキナ臭い匂いもしてくる。かくしてこの事件は、謎に包まれたまま迷宮入りとなり、通称「イスダルの女」として47年人々の記憶に刻み込まれるのだ。
誰もが疑うだろう、それは国家のスパイ説だ。のちにこんな資料が明らかになる。スーツケースにあった暗号と思われるメモだ。
解読すると、上の「O22 O28 P」は、「October 22―28 Paris(10月22日から28日はパリにいる)」という意味。
「O29PS」は、「October 29 Paris Stavanger (10月29日はパリからスタヴァンゲルに行く)」。
「O30BN5」は 「October 30 Bergen 5 November (10月30日から11月5日まではベルゲンに滞在する)」という意味。
普通に考えて、一般人がこんな暗号文を書き記すわけがない。どこかの国家に関係する使命を受けた者と推測するのが妥当だろう。
それに、警察による自殺の見解は素人目でも疑問だ。女が何らかの理由で自ら存在を消す決断をしたとしよう。しかし、自分の両指の指紋を削いで焼くなんてやれるもんじゃない。というか、指を焼く作業はできても全ての指の腹を自分で削ぎ落とすのは、物理的にもほぼ不可能な作業といえる。更に、指が尋常じゃない痛みの状態で、時間のかかる一酸化炭素中毒で自殺しようと試みるだろうか?
女は何者かに殺害されたあと、指の指紋を削がれて焼かれ、所持品にも手を加えられたに違いない、誰がどう考えても事件だろう。
こんな想像をしてみた。
死んだ女は、欧州A国のスパイで、死ぬ前はドイツにいた。次の任務遂行のためベルゲンへ入って待機、あるいはターゲットを調査していた。しかし存在を知られたB国のスパイに狙われ、イスダレン渓谷へ逃げるも殺されてしまった。女はあくまでも国家のことを考え、人目につかない場所まで逃げたのだ。
ノルウェーの警察は、おおよその身元を掴んだが、女を雇うA国組織から何らかの口利きがあって未解決としてウヤムヤに処理した。ノルウェーには大きな報酬が入った。
______とまぁ、誰しもが考えそうな展開だが、今回の再捜査で事件の真相に近づくに連れ、捜査員が消えたり、当時の国同士のスキャンダルが明らかになったり、そんな黒々とした展開が待ち受けていないとも限らない。血の争いは好まないが、でも、真相は知りたい。