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現在、農業の分野で「カーボンファーミング」や「カーボンクレジット」という言葉が注目を集めています。今回は、カーボンニュートラル社会研究教育センターの下川哲教授と、一般社団法人脱炭素事業推進協議会の笠原理事長の解説のもと、この「カーボンファーミング」と「カーボンクレジット」がどういったものなのかを紹介していきます。
カーボンファーミングとは、農地土壌の改善などを通して、より多くの大気中の二酸化炭素(CO2)を土壌や作物の中に閉じ込め、大気中のCO2を削減することを目的とした農業のことを言います。この手法をとることで、土壌の健康を改善しつつ地球温暖化の緩和に貢献することが期待されています。
現在、世界の140か国以上でカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みが行われています。世界のCO2をはじめとした温室効果ガス排出量の約18%が農林水産分野から排出されているため、農業分野でのCO2排出量削減への関心が高まっています。
カーボンクレジットとは、企業などが二酸化炭素(CO2)やその他の温室効果ガスを削減・吸収した量を国などが認証することで生み出されるクレジット(信用による価値)のこと。そして、カーボンクレジットを「排出権」として取引できるのが、カーボンクレジット市場です。
この仕組みにより、温室効果ガスの排出削減に取り組んだ企業はその成果を排出権として他の企業に売却することができます。排出削減に取り組んだ企業は金銭的な報酬を得られ、排出量の削減が困難な企業は排出権を購入することで温室効果ガス排出量削減に貢献できるという仕組みです。
世界的に取り組みが行われているカーボンファーミングですが、日本で実践する際には、いくつかの課題が存在します。
カーボンファーミングを中心となって推し進めている欧米諸国の農地は、ほとんどが畑地か草地のため、世界的に実践されているカーボンファーミングは畑地や草地を対象としたものばかりです。
一方、日本では農地の半分以上が水田であり、畑地や草地向けのカーボンファーミングだけでは、日本の農業におけるCO2排出量を十分に削減できない可能性が高いと言えます。
また、畑地や草地でのカーボンファーミングはカーボンクレジットとして認証する仕組みが国際的に開発されているものの、水田でのカーボンファーミングをカーボンクレジットとして認証する仕組みは開発されていません。つまり、水田でカーボンファーミングを実践する経済的メリットは無いため、日本のように水田の割合が高い地域では独自の戦略が求められます。
日本におけるカーボンクレジット制度はJ-クレジット制度とよばれており、政府主導で国内でのCO2排出の削減・吸収量に対してクレジットを発行する独自の制度です。
しかし、日本国内では、カーボンクレジットのためのカーボンファーミングはまだ実践されておらず、国民の関心も低いと言えます。
日本国内におけるカーボンクレジットの取り組みは、その地理的および経済的多様性により、地方ごとの環境、課題に合わせる必要があります。農業が盛んな地域では、有機栽培や土地の持続可能な管理を重視し、カーボンクレジットの活用を通じて農業収益の向上を図る動きがみられ、一方で山岳地帯や人口密度の低い地域では、森林保護や再生がカーボンクレジットの中心となっています。
日本でのカーボンクレジットの導入には様々な課題があります。例えば、農業経営者はカーボンファーミングに投資するための資金が限られていることや、手続きも煩雑です。また、地方自治体は地域の経済や雇用に与える影響も考慮しなければなりません。
一部では、地方自治体がカーボンクレジットの取引によって収益を得ることで地方財政の健全化が期待されていますが、カーボンクレジットの価値が不安定であったり、取引コストが高いといった課題もあります。地方財政へのプラス面だけでなく、リスクや負担についても慎重な検討が求められます。
地方におけるカーボンクレジットの取り組みは、地域の特性や課題に合わせた戦略の構築が不可欠です。地方自治体や関係機関、現場の声を踏まえながら、持続可能な地域社会の構築に向けて取り組みを進めていくことが重要です。
農業の未来と地球温暖化の防止に貢献する「カーボンファーミング」。日本国内ではまだまだ課題も多いようです。これからの国内での動きを見守っていきたいと思います。
<総括>
カーボンニュートラル社会研究教育センター
副所長 下川 哲氏
「カーボンファーミングやカーボンクレジットなどの取り組みは、地球温暖化対策に貢献するだけでなく、農家に新たな収入源を提供し、日本農業の存続にも貢献できるものです。世界中でカーボンニュートラルの取り組みが推進されていますが、日本と欧米では地理的、経済的、文化的な背景の違いから、異なった施策が求められます。また、日本国内に限定しても、地域ごとの特性やニーズの違いに合わせた取り組みが重要となっています。」
一般社団法人脱炭素事業推進協議会
理事長 笠原 曉
「成果を最大化するためには、多様なステークホルダーの協力と理解が不可欠です。政策立案者、企業、農家、そして一般市民が共に持続可能な未来を目指し、取り組みを推進することで、J-クレジット制度はその真の価値を発揮し、世界の環境保全に貢献するでしょう。」
【一般社団法人 脱炭素事業推進協議会】理事長・笠原 曉
1972年・東京生まれ、中小企業基盤整備機構、東京商工会議所をはじめとする日本各地の商工会議所にて、中小企業の国際展開ならびに海外販路開拓分野にて、専門相談員として従事。並行して、アメリカ国内各地の商工会議所にて海外ビジネス相談員として従事。
液体天然腐食酸APEX-10輸入販売権を取得し、農作物のオーガニック化・品質および収量向上による農家の収入増に寄与すべく日本各地で普及活動をしている中で、農地でのカーボンファーミング(二酸化炭素の土中貯留)の可能性に思い至り、実証実験を展開している。
【一般社団法人 脱炭素事業推進協議会】
・法人名 一般社団法人 脱炭素事業推進協議会
・代表者 理事長:笠原 曉
・所在地 〒231-0021 神奈川県横浜市中区日本大通55 弁護士ビル4階
・URL https://cop.or.jp/