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映画『この動画は再⽣できません THE MOVIE』が全国公開中です。
「この動画は再⽣できません」がは2022年に第1シーズン、2023年に第2シーズンがオンエア。番組前半は、ホラーパートとして⼼霊スポットでの⾃撮り映像や youtube の⽣配信等を模したフェイクドキュメンタリー映像。後半は、ホラーDVD シリーズ「本当にあったガチ恐投稿映像」新作の 〆切に追われる編集マンの江尻(加賀翔)とオカルトライター⻤頭(賀屋壮也)の元に視聴者から送られてくるさまざまな動画の裏に ある秘密を解いていくドラマ仕⽴てで進⾏されていく謎解きパートとして、2部構成されていました。
映画『この動画は再⽣できません THE MOVIE』でも、⼈気お笑いコンビのかが屋の⼆⼈が江尻と⻤頭として登場。和⽥雅成、世古⼝凌、平野良、桃⽉なしこ、アキラ100%、福井夏、あべこうじなどが濃いキャラクターを演じます。ドラマに引き続き、監督と脚本を務めた⾕⼝恒平さんに映画制作について、シリーズへのこだわりについて、お話を伺いました。
――本作大変楽しく拝見させていただきました。改めて、このシリーズへの反響をどう感じていらっしゃいますか?
「こういう風に楽しんで欲しいな」と思いながらも、作っている時はそれがどのくらいの方に届くかというのは分からない部分がありました。撮っている時は「みんなビックリするぞ」と思っていてもそんなに反応がないっていうことはよくあることなので、あまり期待しすぎず、観てくださる方のために粛々と面白いものを作ろうというモードで『この動画は再⽣できません』を作っていたので、反響を多くいただけたことがすごく嬉しかったです。
ドラマティックな作品ではありませんが、かが屋の2人のお芝居の素晴らしさとか、投稿映像パートに出てくる人人々の描き方から、色々なドラマを感じ取って感想を書いてくださる方もいますし、2次創作的にイラストを描いて投稿してくださる方もいてありがたかったです。
――こうして映画化されて、私もいちファンとしてすごく嬉しかったですし、映画になってとても面白かったです。
ありがとうございます。こんな風に広がっていくとは思わなかったです。シーズン1を作った時も、最初はもっとシーズン2に引っ張る様な終わり方にしようとしていたのを、シーズン1で終わっても良いから面白いものにしよう、と考えて、撮影直前にあの結末にすることを決めました。続けることをあまり意識しない終わり方にしていたところがあるので、それが続いたことが嬉しかったですね。
――映画という尺の中でどの様に組み立てるかは難しくなかったですか?
プロデューサーの河口芳佳さんと脚本を書いたのですが、このドラマの面白さの根幹は、30分番組の中で事件が起きてそれを解決するまでスピーディーに行っているところにあると思います。1時間ぐらいの尺をかけてもいいようなお話をギュッと30分ドラマにしているところが面白さなのかなと。もちろん、「ちょっと解決がはやすぎる!」とか、「江尻が名探偵すぎる」というツッコミもあると思うのですが、1時間の中でミスリードがあって、二転三転した後に真実に辿り着くというのではなく、結論に一直線で全て解決するというところが魅力の一つだなと。結論を遠回しにして引っ張るという作り方にちょっと疲れている人も楽しめるというか。なので、映画で長尺になることで魅力を損なわないようにする、というのが課題でした。
このタイプの作品で2時間あるとしんどいかなと思ったので、絶対90分にしたいと思っていました。2人のテンポが崩れたなとかそういうことには絶対したくなかったので、観客を置いていくぐらいのスピードで話を進めるということを脚本でも演出でも意識していました。完全オムニバスにするかって話も出たんですけど、「ここが繋がっていくのかな?」と勘繰って観ていくのも面白さでもあると思ったので、一つのストーリーにつなげています。
――江尻さんと鬼頭さんのゆるいやりとりはそのままに、キャラクターがグッと掘り下げられていて素敵でした。
ドラマであまり描けなかった江尻の過去みたいなところにも話を広げようと思っていました。モニターやスマホで観るドラマと違って、映画は暗闇の中でスクリーンに映る人間を見つめるメディアだと思うので、トーンは維持しつつ、どう映画の見せ方にアレンジしていくかを考えました。なので、『容疑者Xの献身』とか、『ミステリと言う勿れ』、劇場版名探偵コナンシリーズといったテレビシリーズから映画になった作品を研究しています。テレビドラマの劇場版というのは初めてでしたし、今挙げた作品群と違って、『この動画は再生できません』はミニマムな作品から、映画版へのジャンプが大きいので、ドラマを観てくださっていた方がどんなものを観たいかなというところも意識しています。
――監督は元々かが屋さんのファンだったのですか?
テレビやYouTubeでネタを拝見していて、すごく好きだなあと思っていました。その2人の空気をそのまま落とし込みたいなと思っていて、ドラマのためにこう演じてもらうというよりも、2人の空気感に当て書きしている感覚でした。俳優の中にお笑い芸人の方がいると空気を擦り合わせていく難しさもあると思うのですが、編集室に2人だけの空間を作ることで独特のグルーヴ感が生まれたと思います。映画版では2人も編集室を飛び出して色々な人と絡んでいきますが、かが屋を起点にキャスティングを考えていって。2人が作った空気の中に入って面白くなる人というか、ぶつからないような方を考えていきました。
――ホラー・恐い描写をどこまで見せるかということも意識されましたか?
先祖帰りというか、思わぬ所に人が写っているとか、見逃していたものが実は映像の中にあったみたいなシンプルな恐怖表現に立ち返えりたいなという考えはありました。脚本執筆時にJホラーの先駆けと言われる『邪眼霊』(1988)を観て、「やっぱりこれが怖いな」と思ったことも影響していると思います。僕は今までそんなにホラーが大好きというタイプではなく、エンタメの色々な要素を持っている、プロットがしっかりしたホラー作品が好きです。ジェームズ・ワン監督の『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021)や、最近観た作品の中では韓国の『スリープ』(2024)という映画がツイストがあるストーリーで好きでした。人間ドラマとかラブストーリーでしたら、作品に身を完全にゆだねて観る方が多いと思うのですが、ホラーやサスペンスは予想しながら観ることが多いですよね。僕もそうなのですが、綺麗に裏切られると嬉しいし、とんでもなく関係ない方向にいったら冷めてしまう。こっちに予測させて裏切るみたいなことが必要で改めて難しいジャンルだなと思いました。
――人を怖がらせるというのは文字にするとシンプルですけれど、本当に難しいことですよね。
劇中で鬼頭さんが手掛けている「ガチ恐」みたいなホラーシリーズを僕も作っていた時期があって、その時にご一緒した特殊造形のスタッフの方が、ギャランティも多いCMの依頼が来てもそれを断って、低予算のホラービデオを選ぶと言っていて、「どうしてですか?」と聞いたんです。その方が言っていたのは、「フェイクドキュメントのホラーはすごくシンプルで、どうすれば観てくれる人がビックリするのか、それをみんなで考えることが一番楽しい」と。それを聞いて、確かにそうだなと思ったんです。ホラー作品は映画館でもテレビでもスマホでも、観ている人との1対1の勝負みたいな要素がすごく強いのかなって思いますね。「こういう題材を扱ったら評価されて賞がもらえそう」とか、「こういう表現をするとダサいと思われる」みたいな思惑が入らない、「どれだけ怖いのか」を考える、シンプルだけど面白いジャンルだなと思います。
――私は個人的にもフェイクドキュメンタリー系のホラーが好きでよく拝見するんですけれど、時々不謹慎との紙一重みたいな作品も多いなと感じていて。『この動画は再生できません』にはそれが無くてエンターテイメントとして楽しめるところが好きです。
本当ですか。嬉しいです。そもそも人の死をネタにするジャンルなので不謹慎とは切り離せないものではあるのですが、安易に過激なモチーフに走るのは避けたいと思っていました。それによって脚本の展開が手詰まりになることもあるので、そういうことを気にしない方が良いんだろうなと思いつつ、やっぱりやらない方がいいよなと、葛藤しながら物語を作っています。あとは、自分が白石晃士監督のもとで仕事をしていたことも大きいですね。白石監督の映画の脚本を担当した際に、打ち合わせで何度も「作品内倫理観」という言葉が出たのを覚えています。恐怖と笑いは構造として差別に結びつきやすいものなので、一線を超えない慎重さが必要なのだと思います。 “強い”モチーフを使えばストーリーが組み立てやすい部分もあると思うのですが、このシリーズはかが屋が展開することになるので、お2人の世界に邪悪なものを入れたくないなという気持ちもありました。
――倫理観というか、その感覚をお持ちであり、怖さも演出されているというところが素晴らしいですよね。本作も、友達同士で観終わった後に「あれ気づいた?!」とワイワイしながら感想戦したいなとすごく思いましました。
普段映画を観ない方が観ても楽しめるものを作らないと映画の人口は増えていかないと思うので、映画鑑賞というよりも「映画館で体験できる謎解きイベント」のような感覚で楽しんでいただけたら嬉しいですね。観た人同士でコミュニケーションが生まれるような映画にしたいというのは常々意識しています。また映画を作ることになったら、シネコンでふらっと観てくださった方が「また映画館に来よう」と思える作品を心がけたいです。
――あべこうじさんの熱演も素晴らしかったですね。
吉田恵輔監督(吉の実際の漢字は土に田です)の『机のなかみ』(2007)という初期の作品にあべこうじさんが出ていらっしゃるのですが、そのお芝居が好きだったことと、お一人で舞台に立って漫談をやられている方なので、その話のうまさこそがこの映画に必要だなと思ったんですよね。あべさん演じるカメラマン塚原の過去を、回想シーンなどの映像で重厚に描くよりも、喋りで引きつけちゃう人にお願いしたいなと思いました。ただただ説明的に過去を語るのではなく、自分で作ったストーリーの中で生きている人、という見せ方にしたかったんです。あとは軽い感じのトーンの裏に何かがあるんじゃ?と思える雰囲気ですね。
スティーヴン・ソダーバーグ監督の『グレイズ・アナトミー』(1997)という作品が、スポルティング・グレイというコメディアンの語りの芸を、そのまま撮って映画にしていて、クライマックスの見せ方のヒントになりました。
――本作は劇場版であり、「映画という表現にこだわったことでの悲劇」ということが描かれている恐さと哀しさがありました。
テレビドラマでやっていたものが映画になるということで、「映画」というものをすごく考えました。タイトルについた「THE MOVIE」は『踊る大捜査線』以降、ドラマの映画化作品につく定型句になっていますが、今回は「映画についての映画」であることの宣言として入れています。ドラマ版の時は、心霊ビデオやテレビドラマというものの枠組みを意識して作ったのですが、本作では「映画」そのものが持つ恐ろしさを表現したいなと思いました。劇中映画の時代設定も、僕が映画を浴びるように観ていた時の空気感を意識して作っていて、それらの作品を今見返すとまた違うことを感じたり、色々なことが明らかになったりしているものもあるので。「映画って良いですね」ということだけでは無くて、江尻が最終的に映画監督になるわけですけど、それがあまりハッピーに見えないというか。「夢を叶えた」その先に背負うもの、それが何なのか自分でもまだ掴めていませんが、その余韻は意識して作った所です。
――今日は本当に貴重なお話をありがとうございました!
撮影:オサダコウジ