昨年韓国で公開され、公開初日から6日間連続で観客動員数第1位を記録し、人々の話題をさらった映画『憑依』が大ヒット上映中です。

主演を演じたのは、『ベイビー・ブローカー』『新感染半島 ファイナル・ステージ』で知られる俳優カン・ドンウォン。同名タイ トルの人気ウェブトゥーン原作のホラーを見事に映像化したのは、『別れる決心』、『パラサイト 半地下の家族』などで助監督として経験を積んだキム・ソンシク監督。数々の傑作を世に送り出してきたパク・チャヌク監督も「一味違っていた」と 未体験の恐怖を絶賛!古くから人間の体を転々としながら霊力を狩る悪鬼が、人間を器(うつわ)に次々と憑依して襲い来る、いつどこで誰に憑依するか分からない、予測不能な韓国発の<新感覚>憑依ホラーエンターテイメントとなっています。

本作をご覧になった感想や、作中に登場する呪物について、呪物コレクターの田中俊行さんにお話を伺いました! 田中さんの貴重なコレクションから、ご自身の憑依体験(!)まで必読です。

▲田中さんのご自宅にお邪魔して、実際の呪物などを見せていただきながらお話を伺いました。

――本作をご覧になっていかがでしたか?

めっちゃ面白かったです。僕は俳優さんに詳しくないのですが、『新感染半島 ファイナル・ステージ』に出ているカン・ドンウォンさんが主演で、「あ!」となりました。こういうホラーって難しいと思うんですよ。怖いところをきっちり怖く作って、アクションもあって。下手すると冷めてしまう作品もある中で、これはホラーとアクションと笑いのバランスがとても良くて。韓国映画ってすごいなと思いました。あと音楽が良かったです!ホラー映画って不協和音みたいな怖いやつを流しがちですけれど、本作はそういうことに頼っていなく演出が好きでした。監督が『パラサイト 半地下の家族』で助監督をされていたということですが、まさにあのお金持ちの家が出てきますよね。

――監督もおっしゃっているのですが、オマージュだそうです。

インチキ祈祷師という設定も良くて、イカサマの除霊が失敗しても、「お宅に変なものを置きすぎているんじゃないですか?」と話をそらしたり、心理学的なテクニックもあって。リアルな世界を描いているなと思いました。僕も取材していく中で、祈祷師や霊媒師の人に会う事もあるのですが、胡散臭い人もいます。でも、中には『何故それが分かるのか』という様な本物の方もいます。 胡散臭い中に本物が居る。絶妙なバランス。それがこの映画にもありますね。
僕はチョン博士の助手インベの方に共感するというか、彼の視点で映画を観ている感覚でした。一緒にインチキ商売やっていたのに、急に片方がマジだったという。あの驚きはすごく伝わってきて、嘘やと思っていた世界が本当だったという描写が良かったです。霊的な感受性が強い人だったらユギョン視点になるのかもしれないですけれどね。

――この映画でも、視える人と視えない人がバディとなっていますが、田中さんは霊感が無いということで、霊感がある方と一緒に出かけたりもするのですか?

ありますね。海外で儀式に参加している時は、周りは視える人ばかりで「来た来た」っていうけど、僕には分からなくて。でもね、空気が変わる感覚はあるし、肌では感じるんですよ。空気が張り詰める感じ。
10年ぐらい前だと思うんですけど、視える人と視えない人のバディの霊媒師に会ったことありますよ。娘が視えて、お母さんが視えない。バッタリ駅で会った友達が「100匹くらいの悪い狐に憑かれていると言われたから、今から祓ってもらうんだ」というので、面白そうだからついていったんです。その子が祓ってもらっている間、ついでに僕も見てもらったら「悪い狐が10万匹憑いています」って言われて。「集まりすぎて真っ黒の海苔みたいになっています」と(笑)。

――笑ってはいけないことなのかもしれませんが笑ってしまいました(笑)。

いえいえ、いいんですよ。笑ってください。10万匹ってどっかの都市やんって思いましたけどね。あと、僕がこの映画で好きだなと思ったのが、仙女様が出てくるシーンです。降ろす男の人が何も分かってないけど、仕方なくやっている感じ。韓国の霊能者って、女性は「ムーダン」と呼んで、男性は「パクソ」と呼ばれるんですね。確か、ムーダンとパクソになるきっかけというのは、いきなり神様に選ばれるはずなんです。普通に生活していたのに、神様に選ばれてそこから霊能者の道に進む。なので、ちょっとイヤイヤやっていたり、「しゃーないな」っていう態度が出ていたりするのかなと。監督はどうか分からないですけれど僕はそう見ていて、その忠実な描写がすごく良かったです。僕も韓国の呪物は2つ持っているのですが、一つはそういった儀式の時に使うもののようです。

――太鼓など儀式のシーンは大迫力でしたね。

実際には見たこと無いですし本を読んだ限りの知識ですが、太鼓は場を清める時に使うんですよね。儀式を行う前に太鼓を鳴らして場を清めたり、悪霊を追い払って聖なる場所にするという。お札もキーアイテムになっていましたが、デザインも良くて。

――伝統的に使われているお札を美術さんが研究して、この映画オリジナルのデザインにしています。剣なども実在しているものをアレンジして作っているとのことです。

ただの剣ではなくて、鎖に変化するという所が良いですよね。“縛る”というのは呪術の基本というか、紐で巻く、結ぶ、縛るということはよくあるので、だから鎖なんだなと。それがアクションシーンとしても迫力満点になっていました。カン・ドンウォンさんすごいですよね。

――カン・ドンウォンさんはスタイルが良すぎてスタントマンを探すことに苦労するので、ご自身でアクションシーンもやられています。本作の呪物コレクターとしての注目ポイントは?

指が出てきますが、指の呪物というのは実際にあるものだし、ユギョンの目が狙われていましたが、実際に目の呪物も見たことがあります。液体に入っていました。映画を観ていて、コレクターとしては使い終わった呪物全部欲しいなあって思いましたね。

――韓国の霊能者について書かれた本もお持ちなのですね。

古い民俗学資料なのですが、表紙の写真もカメラマンが撮影したものではなくて、記者が取材した時に撮ったもので、これは儀式の最中なのかな?すごく興味深いですね。僕は実際に韓国の儀式を見たことはありませんが、日本の民間信仰と近い考え方もあるというか、地域それぞれのやり方があって面白いですね。東南アジアには今でも“呪医”という存在がいて、体調が悪くなったらまず呪医のところに行って、病気かスピリチュアル的な問題か判断するんです。これは病気だねとなったら病院行ってくださいとなるし、これは誰かにやられているなとなったら、その場でお祓いをしてくれる。韓国でも田舎の方にはあるかもしれませんね。

――お祓いまでは分かりませんが、ソウルといった都会でも体調が悪いと占い師に頼ったりすることもあるそうですね。

僕の動画にも韓国の方から「韓国語の字幕をつけてほしい」という声をもらうんですよ。呪術やお祓いというものに関心が高くて身近な存在なんだなと感じます。

――田中さんは、憑依されたご経験がありますか…?

憑依体験あるんですよ。物心ついてから小学3年生くらいまで犬に憑依されていました。あ、毎日じゃないですよ。1年に2回ぐらいやと思います。ものすごく体調が悪くなった時に犬になるんですよ。意識も自我もだんだん失われていって、身体から離れていってしまった時に犬になってしまう。犬は知らん家族の飼い犬で、多分僕に入るつもりじゃなかったんですよ。その混乱も伝わってきていました。犬に全部支配されている時は、分かりやすくいうと、その様子を俯瞰で上から見ている感じでした。憑依されているのと同時にその犬の記憶も入ってきて、自分のことは見られないけれど、結構大きな犬だと思います。男の人がなんか撫でてくれるんですけど、その顔見ても、 太陽の逆光みたいな感じで顔が見えないんですよ。

――憑依されている時は四足歩行になってしまったり…?

そうですね。家族を本気で噛むんですよ。お姉ちゃんが2人いるんですけれど、お姉ちゃんを本気で襲いに行くので本気で怖がっていて、僕の意識も無いので朝起きたら、もう家の中がぐちゃぐちゃで、母親がうなだれていて…。「犬になってた?」って聞いたら「なってた…」って。そこから、精神病に行くか、病院に行くかということになったのですが、母親がちょっと変わっていて昔から色々な霊媒師の方のところに通っていて。僕もよく連れていかれてて、その霊媒師の人のところに行きました。その人は家の近くのおばあちゃんでしたけど、そこでしっかりお祓いしてもらって、それで治らんかったらもう病院行こうって。お祓いしたらすっかり治りました。だから、映画の中の憑依されてグッて入っていく感覚がなんとなく分かるんです。

――映画の感想から、貴重すぎる憑依体験についてまで、今日は本当にお時間をいただきありがとうございました!

『憑依』

【STORY】
霊が全く視えないインチキ祈祷師のチョン博士(カン・ドンウォン)は助手のインベ(イ・ドンフィ)と共に言葉巧みに依頼人を騙し、除霊と称した儀式でお金を儲けていた。ある日、ユギョン(イ・ソム)という若い女性から悪霊に取り憑いた妹(パク・ソイ)を助けて欲しいという依頼を受ける。いつものように偽の除霊を行おうとすると、妹の人間離れした動きと気配からチョン博士の持っていた鈴と七星剣が反応する。実はチョンは伝統ある祈祷師の末裔で、過去に起きた忌まわしい出来事により素性を隠して生きていた。チョンとユギョンはさらわれた妹を取り返す為に悪霊と対峙するが、霊の正体は古くからいる悪鬼で人間を器(うつわ)に次々と憑依して襲い来る。いつどこで誰に憑依するか分からない恐怖のなか、やがてチョン自身にまつわる重大な秘密も明らかとなり…

監督:キム・ソンシク 『パラサイト 半地下の家族』(19)、『別れる決心』(22)助監督
出演:カン・ドンウォン『ベイビー・ブローカー』、ホ・ジュノ『モガディシュ脱出までの14日間』、イ・ソム『キル・ボクスン』、イ・ドンフィ「カジノ」、
キム・ジョンス『キングメーカー 大統領を作った男』、パク・ソイ『ただ悪より救いたまえ』他
2023年/韓国/98分/5.1ch/シネスコ/原題:천박사 퇴마 연구소: 설경의 비밀 /字幕翻訳:福留友子/提供:ツイン、hulu/配給:ツイン
公式サイト:https://hyoui.jp/
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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 「知らない○○が自分の中に…」衝撃の“憑依”体験から映画『憑依』の魅力まで、呪物コレクターの田中俊行さんに色々聞いてみた