天才作曲家ラヴェルは最高傑作「ボレロ」を憎んでいた──〈極限の音楽〉にして〈不朽の名曲〉その誕生の秘密を明かす、陶酔の音楽映画。パリ・オペラ座で初演されて以来100年近く、時代と国境を越えて愛され続けている不朽の名曲「ボレロ」の誕生秘話を描いた『ボレロ 永遠の旋律』が全国公開中です。

『ココ・アヴァン・シャネル』や『夜明けの祈り』などフランスを代表する実力派アンヌ・フォンテーヌ監督が手がけた本作。『黒いスーツを着た男』知られるフランス俳優ラファエル・ペルソナさんに作品の魅力について、撮影時の思い出について、お話を伺いました。

――本作とても楽しく拝見させていただきました。私ももちろん『ボレロ』という曲は知っていたのですが、作曲家のラヴェルさんのことはほとんど知らず、様々な出来事に驚かされました。

確かにこの曲は世界中で有名ですよね。だからこそラヴェルといいう人はその有名な音楽の背後に隠れることが出来たのでは無いかなと思います。音楽の世界に自分を押し出そうということはしなかった。私自身とても好きだなと思う所です。現在のヨーロッパでは、自分を前に出さずに控えめにするという生き方が全く流行っていないですよね。みんな自分を押し出そうとしている。でもラヴェルのことについては分からないことだらけで、伝記にも様々なバージョンがありますが、恋愛など私生活は謎に満ちたままです。

彼は意図的にそうしていたんじゃないかなと僕は思うんですよね。自分の感情を全て、作品を通して自分を表現していた。 だからといって作品の中に悲しみを盛り込んで自分の心情を明かすようなこともしませんでした。

彼はたくさんの曲を発表していますが、『ボレロ』に関しては制作期間がとても短かったんですね。それゆえに彼自身全てをコントロールすることが出来なかった。だからこそより“素”の部分を感じる楽曲になっているのだと思います。

――ブラッシュアップする時間が無かった部分、むきだしの彼らしい曲であるということですね。

おっしゃる通りです。『ボレロ』は3ヶ月で制作しなければならなかったわけですが、他の曲では11年の時間を費やしているものもあります。いつもの彼は時間をじっくりかけて作り上げるのに、『ボレロ』に関しては本当に短い時間で作り上げなければならず、自分の中から湧き出るものがあったんじゃないかなと思うんですね。『ボレロ』にはしつこいくらいに繰り返しのフレーズが出てきますが、それが何度も何度も重なることで最後になって爆発するような、破裂するようなパワーがあります。一見簡単なリピートかなと思うかもしれませんけども、内なる感情が爆発する素晴らしいパワーのある楽曲だと思います。

――先ほど、「ラヴェルは自分のパーソナリティを隠すことが出来た」と表現してくださいましたが、俳優という仕事も自我を消して挑まないといけない部分がありますよね。

おっしゃる通りです。フランス映画に出ている俳優の中の、言ってみれば“一派”の中には、役柄よりも個性を全面に出す人もいます。でも僕は、どちらかというと英語圏の俳優の主義に似ていて、自分よりも役柄を前に出そうと思って演じています。なので、ラヴェルという人物を演じていて共鳴する部分も多かったです。私自身も役を演じる時は、自身は隠れながら何かを探し求めていて、そのスタイルが気に入っています。私自身は自分の本性を知られていない、見知らぬ人であり続けたいのです。

――素晴らしいお考えです。髪型や衣装が役柄を作ってくれるということもあると思いますが、本作ではより大きい役割を持っていそうですね。

ラヴェルは身なり、立ち振る舞い、タバコを吸う時の姿、ヘアスタイルとか様々なこおtに本当に気を遣っていた人なんですね。本作の撮影で使ったのが、パリから45分くら離れた郊外にある彼が本当に住んでいた家なのですが、洗面所が本当に綺麗に整頓されていて、自分の身繕いをする時に細心の注意をはらっていたんだなということがよく分かりました。彼は身だしなみをしっかりとすることで自分を隠していた部分もあると思います。私自身も、役者として“側”がその日の自分を作ってくれるということが分かるんです。

――実際に暮らしていた部屋に入って撮影出来たというのは本当に贅沢ですよね…!

監督が粘って粘って、素晴らしい熱意で実現させてくれましたよね。撮影に使用するには条件があって、一度に5人しか入れないなので照明がしっかり出来なかったり、みんなで工夫をしながら対応していました。でもそのことが、この雰囲気を作り出すことが出来たのだと「おもいます。全てが完璧なんだけれど、自宅の中のとても小さな世界で暮らしている彼の魂を感じることが出来ました。一世紀前には彼が弾いていた鍵盤に自分も指を置いて撮影が出来るなんて素晴らしいことでしたね。

――ピアノも自分で弾かれているということで、凄いです…!

ちょうど1年ほど練習する時間がありました。全ての曲で僕が丸々一曲を弾いているわけではないのですが、皆さんがスクリーンでご覧になってる80パーセントぐらい弾いています。せっかく学んだことは失いたくないので、今でも弾き続けています。先ほどご質問いただきましたけれど、役柄に入り込めるかという意味では言えば、ラヴェルの様に演奏をすることで、彼の心理的な、精神的なものを感じ取れるなと実感しました。ラヴェルの曲を演奏することで、彼の感性が手に取るように分かる、そんな感覚でしたね。

――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!余談なのですが、フランス版シティーハンターの『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』にて槇村秀幸を演じられていて、私はあの映画とラファエルさんのお芝居が大好きですので、今日お話を伺えて光栄でした。

ありがとうございます!(笑) 子供の頃によく観ていたアニメでしたので、お声がけいただいて面白そうだなと思ってチャレンジしました。日本の方に好きになってもらえて嬉しいです。

『ボレロ 永遠の旋律』
監督:アンヌ・フォンテーヌ『ココ・アヴァン・シャネル』、『夜明けの祈り』
出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、ヴァンサン・ペレーズ、エマニュエル・ドゥヴォス
121分 フランス カラー シネスコ /5.1ch デジタル 字幕翻訳:松岡葉子
配給:ギャガ
©2023 CINÉ –@ CINÉFRANCE STUDIOS F COMME FILM SND FRANCE 2 CINÉMA
ARTÉMIS PRODUCTIONS
公式HP https://gaga.ne.jp/bolero

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 天才作曲家はあの最高傑作を憎んでいた──『ボレロ 永遠の旋律』主演ラファエルさんインタビュー「ラヴェルの曲を演奏することで、彼の感性が手に取るように分かる」