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伝説のジャズシンガー、ビリー・ホリデイとFBIの対決を描いた映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』が、現在大ヒット上映仲です。
20年度の錚々たる映画賞に輝き、ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞、アカデミー賞主演女優賞ノミネートも果たした本作。地上にひとつしかないと称えられた歌声で肌の色や身分の違いを超えて当時の人々を魅了し、没後60年以上経っても、その強烈なカリスマ性が現代のアーティスト達に影響を与え続けているビリー・ホリデイ。
そんな彼女の短くも壮絶な人生をFBIとの対決に焦点を当てて描くのは、『大統領の執事の涙』のリー・ダニエルズ監督。長編二作目の『プレシャス』でアカデミー賞2部門受賞4部門ノミネートを果たし、社会派の深淵なテーマをエンターテイメントに昇華する手腕が称えられています。リー・ダニエルズ監督にオンラインインタビューを敢行。お話を伺いました。
――本作はエンターテイメントとして楽しみながらも、ビリー・ホリデイにまつわる、信じがたい歴史について学ぶことが出来ますね。私も素晴らしい音楽や映像を楽しみながら、驚かされてばかりでした。
それは最高の賛辞です。ありがとうございます。まさにそれが僕の意図でした。ビリー・ホリデーに関する素晴らしいドキュメンタリーが、この作品の前後にリリースされたんですが、僕はこの映画を作る前にそれを観て、出演者たちの話に衝撃を受けました。圧倒されたんです。信じられないような話ですよね。まさか、あれが真実だなんて。僕の知る限り、本作には事実と違うことは何も出てきません。唯一フィクションなのが、ジミー・フレッチャーの母親のくだりで、なぜかというと彼女について情報を見つけることができなかったからでした。
だったらということで、当時のエレガントな黒人女性として描くことにしました。あの時代の黒人女性は生活に困窮しているように描かれることが多いので、裕福な黒人女性を見せたかった。また、息子に対して何をしたのか、政府にいいように使われることがどんなに間違ったことなのかを諭すような聡明さを持たせようと考えました。
――改めて、本作を作ろうと思ったきっかけを教えていただけますでしょうか?
新しい映画を作り始める時、いつも「これだ」という理由が特にあるわけではありません。今回は、無意識のうちにニュースや人々との会話を通して、自分の心の中に何かが起きていると感じて、それがビリー・ホリデイの物語とつながりました。もともと、ダイアナ・ロスが主演した『ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実』(1972)に感銘を受けたことが、映画製作者になるきっかけになったところがあります。あの映画は、初めてハーレムで暮らす美しいアフリカ系アメリカ人の生活をリアルに描きました。僕にとって大切な映画ですから、今回、自分が監督をしてビリーの物語を作ったことには、運命的なものも感じます。
――素敵なご縁を感じますね。政府やFBIが一人のシンガーを力でねじ伏せようとしていたことに、本当に衝撃を受けました。
本当ですよね。原作と脚本を読んだときに、ビリーが本当にしたことを知って圧倒されました。彼女は、黒人に対するリンチを目撃したから『奇妙な果実』を歌いたいと思っただけなのに、政府は彼女を追跡し、無理やり薬物を隠し持たせて捕えようとしたり、おとしめようとしたわけです。このことは学校でも教えられていません。なので、それを知ったときに、「この物語を作らなければ、伝えなければならない」と思いました。政府やメディアが真実を知らせないということは、残念ながらいまだに続いていて、今改めて、この物語を伝えることは重要だと思いました。
――凄まじく勇気のある、カッコいい女性だと感じました。
誰もそんなことをすることができなかった時代に、政府に立ち向かったこの女性を想った時に彼女はヒーローだと感じました。キング牧師やマルコムXよりも前に、アメリカの公民権運動の先駆けだったんです。
この題材に惹かれたのは、私たちが今、危機に直面しているからです。アメリカはかなり混乱していることは明らかで、もうそれを隠すことすらできません。私たちは分断され、ひとつではない。そして、それは醜いことです。だから、『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』は私たちが今置かれている時代を物語っています。日本の観客の皆さんにも、この様な素晴らしい女性が存在したことを知っていただきたい。今こそ声を上げようと呼びかけているのです。
(C)2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.