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鬼才・園子温監督が名優ニコラス・ケイジとタッグを組み、念願だったハリウッドデビューを果たした監督作、『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が公開中です。マカロニウェスタン、チャンバラ、SFとジャンルを横断する世界観が炸裂する本作は、今年の12月に60歳を迎えるとは思えないほど園監督のエネルギーに満ちた作品であり、園監督自身も「始まり」と言い切る渾身の一作です。本作のこと、監督自身のこと、さまざまうかがいました。
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■これが幕開け ニコラスとツーショット撮って、想い出作りじゃねえよっていう(笑)
●本作でハリウッド映画監督デビューとなりましたが、まず夢が叶った気分はいかがでしょうか?
ハリウッドはすべての映画のいただきにあるので、聞けばグッとくる言葉ではありますが、それについてはどこで感じようかずっと考えていたんですよね。こういうチラシを見ていると感じちゃいそうなんだけど実は止めているところがあって、「まだ早い!」と止めていたら、どこでジワッとしていいかわからなくなっちゃったんですよ(笑)。
なおかつ今はコロナ時代。今月からアメリカで公開もしますが、劇場行って自分のポスター観たらかなりジワッときそうだけど、それもないから。あまりハリウッドデビューした感じはないんです。
●なぜブレーキをかけていたのですか?
撮影は本当に大変で困難を極めていましたし、普通にヤワな気持ちだったら二度とハリウッドの映画を作りたくないと思うくらいに大変だったんですよ。ニコラス・ケイジもみんないい人なんですけど、自分の中でいろいろあったんだと思います。
●それでもハリウッド作品を撮ったことは、いい変化にはなりましたか?
なりましたよ。ただ、ハリウッドで一度は映画撮ってみたいという気持ちで映画を撮ってはいないんです。想い出作りであれば今頃「やっとだぜ!」とジワジワ来ていたかもしれない。でもこれが始まりなんです。ハリウッドで映画を作ることはこれから当たり前になると自分に言い聞かせているから、ただの幕開けなんですね。ニコラスとツーショット撮って、想い出作りじゃねえよっていう(笑)。
■ニコラス・ケイジを知らない人がいないというか、南極のペンギンでさえ知っている(笑)
●主演のニコラス・ケイジさんとの出会い、共同作業はいかがでしたか?
僕にとってはニコラス・ケイジとの出会いは大きかったですね。彼が気に入ってくれた『アンチポルノ』(16)を作っておいてよかったです(笑)。中国では僕の映画で一番人気があるのは『アンチポルノ』だと聞いたことがあります。今回出ているソフィア・ブテラも『アンチポルノ』が好きだそうです。
●『アンチポルノ』効果絶大ですね(笑)。
ギャスパー・ノエ監督が『CLIMAX クライマックス』(18)という映画の撮影時に、園子温の映画には絶対出ろと、彼女に説教したらしいんですよね(笑)。そのせいか台本を読まずにOKしたんですよ。そういう意味でも『アンチポルノ』を撮っていてよかったです(笑)。
ニコラスと出会っていなければどうなったかなと思うのですが、ここまで面白くはならなかったかもしれないですね。理解とシンパシーがあったので、彼失くして今はないなと。この映画もなかっただろうくらいの気持ちですね。
●どういう人となりの方なのですか?
彼は働いていることが好きらしくて、いつも撮影現場にいたいみたいです。だから今年もたくさん作品に出ていますよ。よくLINEで語り合うんです。また違う映画出ているとか。スキあらば働くような人ですね。俳優界の三池崇史です、彼は(笑)。働いてばっかりいる。去年は4本くらい出ています。日本だとマニアックなイメージの売り方もありますが、アメリカでは人気俳優ですからね。
●特異な俳優さんですよね。
そうですけど、全世界的にニコラス・ケイジを知らない人がいないというか、南極のペンギンでさえ知っているだろうと(笑)。それくらい有名だし、日本でも誰でも知っているくらいの知名度ですよね。そういうマニアックではない人が協力してくれたこともよかったなと思います。
●ほかにあこがれの人はいますか?
アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、たくさんいますよ。ただ、自分のあこがれの人と撮っちゃいかんと思っています。「オレ、デ・ニーロの映画撮ったんだよ!」みたいな(笑)、勲章をぶら下げる気もないし、「デ・ニーロの映画撮ったんですか!」みたいな褒められ方はしたくないじゃないですか。だったら無名の人を使って評価されたい。
●虎の威を借りる狐と言いますか、ネームドロップみたいなものは恥ずかしいですよね。
『ジョーズ』(75)でスピルバーグがブレイクしましたけど、最初は会社からスターを使えと言われたそうですが、だいたい断っているんですよ。映画の不安感を出すためには無名な俳優のほうがいいと。そこに勲章をぶら下げた大俳優を使ったら、サメくらいなんだよとなりそうじゃないですか。これは大事なことなんです。
◼️今後の人生が退屈しなくてよかった
●12月で60歳を迎え、監督作の『自殺サークル』公開から20年が経ちました。
あれが商業映画デビューで2001年なんです。今年でちょうど20年で、また元に戻った感じですよね。また(ハリウッドで)監督デビューしたので、これがまた始まりであると思っています。今回は撮影が本当に大変だったので、新人って大変なんだなと(笑)。
●新しいことへの挑戦にはエネルギーが要りますよね。
そうなんですよ。年齢を考えたら僕はもう退職する年なのに、そこから始まるという(笑)。なのでラッキーだと思います。そろそろ余生を、という年齢なのに始まってしまうわけで、また22歳くらいの気持ちにならなくちゃいけないのかと、大変だなという思いと、今後の人生が退屈しなくてよかったなという両方の感情がありますね。どちらかと言うと、退屈しないでよかったなと思います(笑)。
●それが主な目的ではないですよね(笑)。
ハリウッドは長年行きたかったんですよ。僕の計画では40歳前半でハリウッドへ行く予定でしたが、それがこの歳になっただけなので、老後を活性化させるためにとか、そんな理由じゃないわけです。それはそれで贅沢すぎますけどね(笑)。
●これを機に拠点が変わることは?
いえ。しばらくは何もないですよ。僕はロサンゼルスという街には何の興味もないんです。映画を撮ることに興味があるだけで、あそこに住みたいとはまったく思わない。だから拠点は東京で、撮影の時だけアメリカへ行く感じになると思います。でも、もしかして忙しくなったら引っ越すかもしれないし、それはわかりません。
●次回作のテーマは決まっていますか?
2作目、3作目の準備には入っていますし、少しずつ動いているところです。
多くの人は園子温、アメリカに行って一回試し打ちしてるなと思っているかもしれないけれど、全然そういうつもりはなくて、これからが始まりなんだと。
おもちゃ箱をひっくり返したよう、という例えじゃないけれど、僕はこの作品で映像の遊園地を作ろうとしたので、意味を探したりストーリーの展開を追うよりも、子どものように観覧車に乗ったり、回転木馬で楽しんでくれという感じなんですよね。深刻なテーマも特にはないです。なので、家族でも楽しめる映画になっていると思います(笑)。
■ストーリー
映画の舞台は架空の未来都市サムライタウン。悪名高き銀行強盗のヒーロー(ニコラス・ケイジ)はある日、街を牛耳る悪徳支配者ガバナー(ビル・モーズリー)のもとから逃げ出した女バーニス(ソフィア・ブテラ)を連れ戻すよう命令を受ける。いったんはその命令を拒んだものの、制限時間を超えると爆発するスーツを無理やり装着され、ゴーストランドまでバーニスを追う羽目に。決められた時間内にサムライタウンに戻らねば自身の命が危ない。 ヒーローは無事時間内にバーニスを連れ戻すことが出来るのか…?
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』
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公開中
(執筆者: ときたたかし)