日本のお笑いの中でも特異とも言える存在のお笑いユニット「かもめんたる」。ストーリー性とギミックが凝らされた、かもめんたるのネタ作りをつとめるのが岩崎う大さん。その才能はキングオブコント2013優勝という形のみならず、数々のコント作品で証明済み。さらには俳優、劇作家、マンガ家としても活躍するという多才ぶりです。

そんな岩崎さんが今回挑んだのは動画配信サービスHuluのオリジナルドラマ『THE LIMIT』の脚本。『THE LIMIT』は“限られた空間・限られた時間・限られた状況”を舞台にした異彩のオリジナルドラマです。4K UHD/HDR映像と5.1chサラウンドによる生々しい緊迫感も見どころです。

1話完結のオムニバス形式で繰り広げられる“半径3メートルの人間ドラマ”、今回岩崎さんが脚本を担当したのは次の2話です。

第3話「ユニットバスの2人」(出演:細田善彦、岩崎う大)
第5話「切れない電話」(出演:泉澤祐希、岩松了、夏子)

“う大ワールド”満載の作品について、お話を伺ってみました。

癖のありすぎるキャラクターたち

―『THE LIMIT』、う大さん担当の3話と5話を拝見させていただきました! めちゃめちゃ面白く観させていただいたのと同時に「出てくる人、全員やばいな」と(笑)。う大さんの持ち味がいかんなく発揮されている印象でした

岩崎う大(以下う大):ありがとうございます!

―『THE LIMIT』でもそうなのですが、う大さんの手がける作品はディティールがきちんと作り込まれていて。「第5話 切れない電話」の方なんかは特に、マンガで言うところの“キャラが動き出している”感じがありありと

う大:あのおじさんのキャラ(岩松了さん演じる喫茶店のマスター)っていうのは、最初のころ僕がやるっていう案もあったんですよ。

あのおじさんの役っていい人でおせっかいな人なんですけど(笑)、「なんでそんながんばってる? てか、そんなにがんばってるっていうことは、なんかこの状況楽しんでるだろう?」っていうような人。

良い人だし、いろいろ仕切りたがるけど「これ、起きてること悲劇だからね?」っていうような中でもリーダーシップを発揮しちゃう人なんですよね。そういうキャラ好きなんです。だからあの役のセリフはほんとにスラスラ出てくるし、行動としても僕の中では操りやすいキャラクターです。

―あのおじさんのキャラクターの濃さはすごいです

う大:そうそう。ただ、僕が演じるにはまだ若すぎるので、もうちょっと年上の人の方がいいなあ、と。僕は(第3話『ユニットバスの2人』の)泥棒の方をやることにしました。

―う大さんの“泥棒”も悪かったですね

ろくでもない人ですからね、あれは。ろくでなし(笑)。

―でも、居酒屋とか行くとこういうおじさんいるわ、っていう。ものすごい既視感。みんな見た事のある人なんですよね

う大:そうですね(笑)。あれだけ正直にモノを言えるっていうことに対して、僕はある種のあこがれも抱くんですよ。正直にモノ言えて、あからさまに嘘つけて、っていうのはすごい。

戦国時代にタイムスリップしたら、僕なんか失敗してすぐ殺されちゃいそうな気がするんですけど、あの人(泥棒)なんか意外と生き残って(笑)。

―めちゃめちゃわかります

う大:ああいう人って多分「こっちの方が性に合ってるわ」くらいな感じで生き延びたりするじゃないですか。ああいった人が持つエネルギー、強さって言うっていうのには、ちょっとあこがれますね。

キャラクターへの共感

―今回“LIMIT”っていうテーマなんですが

う大:“LIMIT”が「閉じ込められた」とかじゃなくて、(登場人物)本人たちがおのずからリミットって感じる事ですよね。「その場から動けない」って本人たちが感じて、自分自身を縛ってそこにいることを選ばせている状態なわけですよね。それはイコール、登場人物に共感がないと成り立たないんですよ。

―共感ありき

う大:それでやっぱり「あ、わかるわ」とか「めんどくさいわこれ、自分にも似たようなことあるわ」って思ってもらわないといけない。

例えば「ユニットバスの二人」みたいな状況は、日常的には無いとしても、面倒くさいおじさんに対応する、みたいなシチュエーションっていうのは、皆さんお仕事してたりしても何かしらあると思うんですよ。あるいは、身内にああいうタイプの人が居る人もいるかもしれないし。また、(第5話みたいな)ああいう“切れない電話”っていうのもあると思うんですよね。

そういうところで共感できるかなあ、とか考えていました。

「笑ってもいい」誰もが持ち合わせている「変さ」

―『ユニットバスの2人』『切れない電話』どちらの話も登場人物の人間臭さのメーターが振り切れてて、それがちょっとホラーとお笑いの境界線をさまよっているような

う大:そうですね……。なんかそういうのって、特別じゃなくてみんなそうだと思ってるんですよ。調子に乗っちゃって、とか、剥いていったら誰しもそうなっていくんじゃないかなあと。

例えばそれは睡眠不足でそうなる事も有り得るし、アクシデントがあれば自暴自棄にそうなるかもしれない。逆にいいとこ見せようとしてそうなることもあるだろうと。そういうところがなんかこう、人間なのかなあ、って気がしてます。

で、普段素晴らしい人だった場合、そういう人だからこそ、そうなったら面白いというのもある。逆に常にそういう人はそういう人でキャラクターってことで面白くもありますよね。

なんかそういうのを、なんていうのかな……「あの人は変だよね」って笑うじゃなくて、みんなそうで。それが人間の面白いところであると思うんですよ。

それが人間の面白さだととらえるのが良いと思うし、人間は本来、そうなってしまう人を許せるはずなんですよ。それをむしろ、「あ、彼は今、疲れているんだよ」って笑って許してあげる、お互い様そうなるときがある、っていうところでもっと、そう思えることが大事なのかなって思います。

僕もそういう人に対して不寛容になってしまう事もあるけど、でも「笑っていいんだよ」にしてしまっていいと思うんですよ。だから自分もその代わり笑われる、でいい。もっとそういうところを茶化しあって生きたいなって。……僕は実際のリアルな人間関係にそういうところを茶化しあえるような明るい人間ではないんですが(笑)。
そういうことが得意な人がリアルでも、もっとなんかそういうのに寛容的になっていっていいと思いますよ。それは色んな問題に対応してくれるし、持っておけば、自分にとって得な感覚だと、思うんですよね。

―誰でも持ちうるバランスの危うさみたいなものを、3話にせよ、5話にせよ、キャラクターが内包している

う大:そうですね。第3話『ユニットバスの2人』の泥棒がああなってしまったのは、泥棒の人生からしたら無理もないことだし、自分も泥棒と同じ人生歩んでたらそうなってるんだろうとも思うんですね。でも逆に言うと、あれだけ正直に心情を吐露できるっていうのは、彼の愛すべき個性ではないか、と。

―正直すぎて(笑)

う大:そう(笑)正直すぎて動物みたいな感じ。まあ、人間らしいとも言えるけど、本能の赴くままに生きてるという。

―今後もこうした人間のいびつさとか怖さといった、笑いのボーダーみたいなところを目指していかれるんです?

う大:たぶん自分でもあんまり気付かないけど、それはきっと得意なんだろうな、とは思うんですよね。そういうところを求められてるんだったらそれは光栄な事なので、今後もやっていきたいな、と思いますね。

―あんまり意識はしていない?

う大:「ただ面白い」とか「ただ悲しい」とかそういうのが物足りなくなっちゃうんですよね。ただ面白い、ただ悲しい、って現実にはそんなに存在しない状態だと思うので。絶対いろんなものが混じっているっていうのが現実の状態だって。そういうのを再現していきたいなとは思いますね。

―また次の作品、どんなので出会えるか、楽しみにしています

う大:ありがとうございます。

半径3メートルの人間ドラマ『THE LIMIT』

飾らない素の言葉を、並行した目線で語ってくれた岩崎さん。
「変な部分」を愛し、それを「笑っていい」と述べる言葉の裏に、お笑いを通した人間へのやさしさが見え隠れしていました。

Huluオリジナル『THE LIMIT』は2021年3月5日(金)より毎週金曜、新エピソードを独占配信中です。(全6話)

番組概要

【タイトル】Huluオリジナル「THE LIMIT」
【配信】Huluで毎週金曜、新エピソード独占配信中(全6話)
(※通常配信に加え、4K UHD/HDR/5.1chでも配信)
【出演】第1話「ネコと井戸」=伊藤沙莉、堺小春、坂東龍汰
第2話「タクシーの女」=門脇⻨、古川琴音
第3話「ユニットバスの2人」=細田善彦、岩崎う大(かもめんたる)
第4話「ベランダ男」=岡山天音
第5話「切れない電話」=泉澤祐希、岩松了、夏子
第6話「高速夜行バス」=浅香航大、木野花
【脚本】玉田真也、岩崎う大、荻上直子

『THE LIMIT』公式HP
https://www.hulu.jp/static/thelimit/

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 “う大ワールド”全開! Huluオリジナル『THE LIMIT』脚本・かもめんたる岩崎う大さんに聞く「“リミット空間”の人間の本性」