絵本作家、ジュディス・カーの自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」を『名もなきアフリカの地で』で第75回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したカロリーヌ・リンク監督が映画化した『ヒトラーに盗られたうさぎ』。


舞台は1933年2月のベルリン、9歳のアンナの父・アルトゥアは、新聞やラジオでヒトラーの批判を続ける演劇批評家であり、その姿勢が原因で亡命を余儀なくされる。故郷・ベルリンから、山に囲まれたスイス、そしてパリへ──。アンナは両親と兄・マックスともに、ナチスの動向や父の仕事の都合によって、次々と住居を移していく。言語も習慣も食べ物も人種も大きく変遷する日々において、幾度となく切実な別れを経験し、繊細に揺れながらも、アンナは逞しく成長していく。


差別や貧困といった世界の理不尽さが降りかかりながらも、信念に従って凛と生きる父を中心とした家族4人は深い愛と信頼で結ばれており、いつも温もりのある空気をまとっている。激動の時代の中、父と母は、一貫してフラットでポジティブな言葉を子供たちに投げかけ続ける。それによって、アンナは言葉と絵と創造の力を伸びやかに育み、大人になったのち、世界的な絵本作家と成り得たのだろう。


一家4人の窮屈な亡命生活とそれを取り巻く状況には、コロナ禍における不自由な生活と終わりの見えないじりじりとにじり寄るような圧迫感、さらに、渦中に起きた多くの悲劇がよぎってしまう。しかしそれと同時に、もう世界は元には戻らないのだから、前を向いて生きていくしかないという覚悟も自然と与えてくれる。また何よりも、タフな世界で生き抜くアンナの澄んだ瞳と愛らしさが、強い希望を放っているのだ。


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【書いた人:小松香里】

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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 世界的な絵本作家の自伝的小説を下敷きにした『ヒトラーに盗られたうさぎ』が指し示すもの