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有名な黒部ダムよりももっともっと上流、黒部源流域に薬師沢小屋という宿泊施設があります。
その薬師沢小屋に毎年スタッフとして参加している、やまとけいこさんの著書『黒部源流山小屋暮らし』をご紹介しましょう。
もっとも、やまとさんは薬師沢小屋に通年住んでいるわけではありません。6月から5ヶ月半だけ、東京からこの黒部の山奥へ足を運びます。それを既に12シーズンこなしているそうです。
そんなやまとさんの著書には、自然豊かな山小屋の賑やかな毎日が描かれています。
黒部源流域は夏季になると、大勢の登山客でごった返します。
この「ごった返す」というのは決してオーバーな表現ではなく、ハイシーズンには1日で100人近い登山客が薬師沢小屋にやって来るそうです。お客さんの食事を用意するだけでも一苦労、というよりは戦いそのもの。それに加え、お客さんが使った布団も毎日70組ほど(!)畳み直さなければなりません。本書を読むだけでも腰が痛くなりそうです。
ですが言い換えると、薬師沢小屋の毎日は以外と賑やかで活発ということ。山奥の小屋だから、大自然の中でのどかな生活を送っているのだろう……というのは都会に住む者の偏見かもしれません。
最後の三十分は、まさに戦争だ。「何か手伝うことある?」なんて常連さんがフラッと入ってこようものなら、「これ盛って!」「そっち運んで!」と、思わずお客様であることを忘れて指図してしまう。(引用:『黒部源流山小屋暮らし』より)
標高1920mの山荘で、こんなドタバタ劇が展開されるとは驚きです。
山の生活は、動物との戦いでもあります。
ネズミやテン、果てはクマまで出没することもあります。これらの動物を放っておくことはできません。小屋の食料を食い荒らされてしまうからです。特にネズミとの戦いは、それに負ければ死活問題になってしまいます。
やがて被害は食料以外のものにも出始めた。タッパーを齧る、ゴム製品を齧る、段ボールを齧って穴を開け、中の食料を齧る。そして開封していない漬物を何袋もダメにされたとき、とうとう私の堪忍袋の緒は、ブチッと音を立てて切れた。(引用:『黒部源流山小屋暮らし』より)
何しろ、ここは黒部源流域。近くにスーパーマーケットなどあるはずもなく、補給はヘリコプターに頼っている状態です。ネズミに食料をあげる余裕などありません。
ですが、山小屋にやって来るのはそんな厄介者だけとは限りません。日本固有種の齧歯類であるヤマネが出現することもあります。
これもまた、東京では経験できない「山の中の日常」と言えます。
この本は大自然の中の生活を極端に美化したり、ひたすら「自然は素晴らしい!」と絶賛する内容ではありません。
むしろ先述のネズミのように、山奥だからこその苦労もしっかり書いています。ですが、それと同時に「苦労した先の充実感」をやまとさんはしっかり得ています。だからこそ、毎年この薬師沢小屋を訪れるのでしょう。
「自然の中にいる」ということは、それだけ人力で何でもやらなければならないということ。ちなみに薬師沢小屋には電波が届かないためインターネットが使えないそうです。これだけでも現代人は「とんでもなく不便な場所」と考えてしまいがちですが、やまとさんは完全オフライン環境の薬師沢小屋についてこう書いています。
電波がないことによって、ネットやメール、電話の呼び出し音からは解放される。スマホは音楽を聴いて、写真を撮って、目覚ましをかけるだけの道具になる。それもこの山小屋という閉鎖空間では、たいして不便を感じない。生活そのものが不便さのなかにあるから、それが当たり前になるだけだ。(引用:『黒部源流山小屋暮らし』より)
ベストセラー!!『黒部源流山小屋暮らし』
(山と溪谷社)著者:やまとけいこ
販売価格:本体1,300円+税
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(執筆者: 「山と溪谷社」の中の人) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか