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婚約者の左近少将の裏切りにより、破談&部屋を追い出される羽目になった浮舟。仕方なく、異母姉にあたる中の君に頼んで、しばらく二条院で居候させてもらうことになりました。
中の君の住む西の棟の北側の一室を借り、浮舟は乳母や女房たち数人と、母の中将の君とともに初めて姉に対面しました。物忌ということにしてあるので、人も来ず安心です。
今まで疎遠だったとはいえ、もともと中将の君は中の君の母(八の宮の正妻)の姪。親族ということもあり、中の君側も他人行儀にせず、親しみを込めた応対をします。
こうして数日が過ぎた頃、こちらへ匂宮がやってきました。噂に聞く当代一の美男子を見ようと、中将の君はこっそり覗き見ます。
ここからは浮舟そっちのけで、お母さんの中将の君視点のウオッチングです。まず、宮の桜の枝を折り取ったような華やかさにうっとり。彼の前に、夫の常陸介よりずっと格上に見える四位、五位の貴族が、皆一斉にひざまずいて控えています。ははーっ!
やがて宮中から帝からのお使いが。それは中将の君にとって継子に当たる、常陸介の先妻の息子でした。でも、ろくに宮のお側にも近寄れない有様。改めてなんというお方かと、目を見張ります。
(やんごとなきお方の恋の遊びに振り回されるのはゴメンだとばかり思っていたけど、このお方ならたとえ年に1度、七夕の逢瀬でも大歓迎だわ! この方のお側近くにいられたら、それだけで幸せ!!)。
宮は若君を抱き上げ、中の君と会話しながらあやします。美男美女夫婦の間に生まれた可愛い赤ちゃんと、まるで一幅の絵のよう。その後、宮は「気分が悪い」といって、集まった人たちをよそにゴロゴロしたり、若君と遊んだり。
すっかり宮に釘付けとなった中将の君は、いちいちその一挙手一投足に感動します。金にあかせてキンキラキンにしていても一般人などたかが知れている。それに同じ宮家とはいえ、零落した八の宮の侘しい暮らしとは雲泥の差です。
そして、シンデレラのように匂宮に見初められた中の君の栄達を見ると嬉しい反面、複雑な想いも。(本当は私だって縁続き。でも私が女房として仕え、愛人としてしか見られなかったがために、こうして身を低くしてお願いするような立場になってしまった。
でも、うちの浮舟だって、立派な方と並んで不釣り合いではないはず。介との間に生まれた娘たちとは月とスッポンなのを思えば、やっぱり理想は高く持たなくちゃ!)。
二条院のきらびやかさに刺激され、中将の君は舞い上がったり落ち込んだり。本人そっちのけで、薫との今後を思い描いて眠れぬ夜を過ごします。あくまでも、浮舟のお母さんの皮算用です。
翌日、匂宮は遅く起き「母上(明石中宮)のお加減がよくないようなので、お見舞いに行こう」。昨日に引き続き、中将の君は宮をチェック。ラフな格好も素敵ですが、きちんとおめかしした姿はまた格別!と、またまた大興奮。
宮は若君が可愛くて、いつまでも遊んでいます。お迎えに参上していた人が待ちぼうけでウロウロする中、何やら見たような顔の男が……。やたら気取っていますが、取り立てて言うところのない、つまらない男です。
「あの人よ。先日、常陸介の婿になった左近少将は。最初は浮舟の君と決めていたのに、実の娘がいいと、年端もゆかぬ下の娘に乗り換えたんですって」「ええ、こちらではそんな噂は聞かないけど、介の近くに勤めている人から聞いたのよ」。
まさかすぐ側で中将の君が聞いているとも知らず、そのものズバリの噂話が始まったのにはドキッ! でも本当に、こうしてみると全くパッとしない。(どうしてこんな男との結婚を考えついたのかしら)と、改めてバカバカしく思います。でも、結婚したのは妹娘の方なので、中将の君にとって彼が義理の息子になったというのは変わらないんですけどね……。
外に出ようとした宮は、若君がハイハイして出てくるのに気がついて部屋に戻り、中の君に「母上の具合がよくなったら帰ってくるよ。良くならないようなら今夜は宿直だな。やれやれ、一晩でも気がかりでたまらないね」と、今一度若君にバイバイをして、ようやく出発。子煩悩な宮のパパぶりです。
宮が華やかな雰囲気を残して行ってしまうと、中将の君は(覗いていただけなのに)なんだか力が抜けて、ぽわ~ん。匂宮でこうなんですから、現役の源氏がいたらもっとすごいことになっていたでしょう。源氏のDNA、恐るべし。
すっかりミーハーおばさんと化した中将の君は、興奮冷めやらぬままに、中の君の前で感想をしゃべり倒します。中の君は(ちょっとお上りさんっぽい)と思いつつ、話題は亡き八の宮、大君のことに移ります。
「親に先立たれるのは仕方ないことと思いますが、姉が早くに亡くなったことは今でも本当に悲しくて……。薫の君が今も変わらず姉への愛情を抱いて下さっているのを見るにつけても、残念でなりません。
もし生きていらしたら、私のような立場にならなかったとは言えませんけど……叶えられなかった仲だからなのか、あの方は不思議なまでにお忘れにならず、亡き父の供養なども心を込めてして下さいます」。
中の君がこう言うと、中将の君は「大君さまの代わりにと、弁の尼からお話を伺った際は恐れ多くて遠慮されましたが……」と、少将にドタキャンされた話などをかいつまんで話し、今はともかく自分の死後が心配で、出家させようかとも考えていると、浮舟の身の上を嘆きます。
「本当にお気の毒なことでしたね。でも、親がいないことで人に侮られるのは私とて同じ、それも世の常なのですわ。私こそ、父宮のご遺志にもそえず、こうして心ならずも生きていますのに、尼になんて……。それに出家してしまうにはもったいないほどのご器量なのに」。
中の君は浮舟を同じ父をもつ姉妹とみなしてこう言いました。思いやりのある発言に、母の心も救われます。内心(八の宮に見捨てられた者)と、もっと見下されるのかと思っていたのです。
すっかり心を許した中将の君の弾丸トークはとまりません。長年の思い出話、そして東北の景勝地のことなどをとうとうと語ります。卑しい感じもなく小ぎれいな人ですが、太り過ぎなところだけが、いかにも田舎婦人の“常陸どの”といった風情でした。なんかわかる気がする。
当の浮舟は、“憎むことができないほどの”愛らしさです。女房たちの手前、恥じらって几帳の影に隠れていますが、みっともないほど引っ込み思案でもない。品よくおっとりしているけど、ぼんやりさんという感じでもなさそう。ハキハキした子ではないけど、空気が読めないタイプではないといったところでしょうか。
そして何か一言、二言受け答えする様子は、やはり大君に不思議なまでによく似ています。(人形(ひとがた)を探している薫の君に早速会わせて差し上げたいわ)と中の君が思った時、「薫の大将の君がお見えです」との声が。グッタイミン!
ミーハーおばさんの中将の君はまたまた興味津々で(ぜひ拝見させていただきましょう。ちらっと見た乳母が絶賛していたけれど、まさか匂宮さまほどでは……)。
やがて大勢の人のざわめきが聞こえ、しばらくして薫がこちらに向かってきました。匂宮の華やかでセクシーな感じとはまた違いますが、優雅で品よく、落ち着いた風情は格別です。
中将の君はドキドキして(自分の姿が見えているわけでもないのに)慌てて前髪をつくろったりして、思わず居住まいを正します。前フリからこの流れ、ほぼ完璧にコントです。
「昨晩、中宮さまのお加減がよろしくなく、お側に宮さまがたも誰もいらっしゃらなかったので、お気の毒で代わりに今まで詰めていました。匂宮さまは今朝も随分遅刻していらっしゃいましたね」。今日も今日とて、薫が夫の留守を見定めてやってきたのはミエミエ。中の君は警戒します。
話題はいつも通り大君のことへ。相変わらずの薫の気持ちの深さに同情する一方、同じ口で言われる自分への恋心は煩わしいばかり。気をそらすため「実はあの、人形の娘が密かにこちらにおりますの」と打ち明けます。
薫は突然のことに動揺。臨機応変さにかける彼は喜ぶというよりむしろまごつき、「さあ、そのお人形が本当に僕の願いを満たしてくれればいいんですが……恋しい人の代わりに、私の気持ちも撫でて流そうか」などとごまかします。
中の君は「人形は撫でたあと川に流してしまうもの、いつまでも側に置いておけないと仰っているようで、私としては不憫ですわ」と反発。確かに、そんな言い方ないでしょ!
しかし薫はあくまでも中の君への愛(という名の執着)を主張。夜も更けて着きたし、中の君は浮舟たちがなんと思うかとそれも心配で、とにかく今日だけは早く帰るよう促します。やっとのことで薫も折れ、彼女によろしく伝えてくれと言い残して帰っていきました。
詳細を知らぬ中将の君は、(理想的なお方)と、薫の去ったあとの芳しい残り香をかいでうっとり。女房たちが薫の特異な体質を「お経の中にも香りが尊いことを褒めている」などというのを聞いても、思わずニンマリです。元はと言えばそういう聖人設定だったんですが、今では完全なこじらせストーカー。
中の君は「薫の君は、一度思われたことは執念深いまでに思い詰めるお方なの。今はご新婚ということもあって、そこは気になるでしょうが、尼にとまで思うのでしたら、同じことと思ってチャレンジしてみては」。
中将の君は「出家もやむなしと考えていましたが、薫の君を拝見して心が変わりました!あんな素晴らしいお方にお仕えできるなら、たとえ下働きでも光栄なことです。
こんなおばさんですらそう思うのですから、若い娘ならましてあの方に憧れることでしょうが、何と言っても身分が低いために、かえって世間の笑いものにされるのでは、とそこだけが気がかりです。
身分の高低に関わらず、女というものは恋愛沙汰で、来世までの苦しみを負うとか申します。そんなことになるのもかわいそうですので、どうか中の君さまのよろしきようにお計らい下さいませ。何卒、お願い申し上げます」。
さすがに来世のことまで頼まれると、中の君も荷が重い。「さあ、今までのことはともかく、先のことは誰にもわかりませんわ」。
そのうちに夜が明け、常陸介が牛車とともに怒りの手紙を届けてきました。「母ちゃんは家をほっぽりだしてどこさ行ったべ!!」。確かに主婦がいつまでも家を明けてもいられず、幼い子どもたちも不安がっているだろうと、中将の君だけが帰宅することに。
今まで母と離れて生活したことのなかった浮舟は、少し心細いのですが、華やかな二条院で、美しく優しい姉の中の君のそばに居られるのを、娘心に嬉しく思うのでした。イケメンウォッチングに熱心なのはお母さんばかりで、当の本人は関心を示していない点がポイントです。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/
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