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父八の宮に認められず、現在は常陸介(今の茨城県の地方長官)の連れ子として肩身の狭い日々を送る浮舟。娘を不憫に思った母の中将の君は左近少将との縁組をまとめようとしますが、実は財産目当てで結婚を急いでいた彼は、腹黒仲人を介して、実子であるすぐ下の妹娘に乗り換え、日程は変えずに結婚することに。クソ野郎!
中将の君はこの変更を一切知らされないまま、あと数日で結婚式だからと、部屋の飾りつけや女房の衣装に心を砕き、浮舟の髪を洗って準備万端整えます。でも、きれいに支度を整えた浮舟が可愛らしいのを見てもなんだかモヤモヤ。
(あんな少将などと結婚させるには惜しいわ。熱心に求婚してきたから決めた縁談だけど……。もしお父宮に認めていただいていれば、薫の君からお声がかかった時だって、分不相応だと思いつつも受け入れることだってできたはず。
でもねえ、いくらこう思ったところで、世間から見れば浮舟はただの受領の娘。たとえ八の宮さまのご落胤とわかったところで、逆に認知されなかった娘として見下されるだけだもの)。
そこへ夫の常陸介がドカドカとやってきました。
「オラをのけ者にして婿どんを横取りしようなんて浅はかなこったな!あんたのご立派な娘さ、ヨメにしたいっちゅう殿御なんぞおるもんか。
少将どんはオラの娘と結婚したいと言うて来られた。他の家に取られるのもしゃくだべ、同じことならと思ってOKしたっぺ!」
中将の君はあまりのことに絶句。言葉にならず、ただ辛く情けない思いだけが湧き上がり、涙がこぼれそうになったので、そっと浮舟のところへ行きました。
浮舟はたいそう可愛らしい様子で座っています。本当に誰にも負けない、この美しさ、愛らしさよ思うといよいよ悔しく、乳母と2人で愚痴合戦です。
「いやなものは人の心と言うけどね。浮舟を大事にしてくれる人なら、この生命に代えてもと思ってきたのに。父なし子とバカにして、年端も行かない妹の方に乗り換えるなんて、前代未聞だわ。あんな人だとは思わなかった。
でもうちの夫も喜び勇んでこのまま挙式しようと言っているから、お似合いでしょうよ。ああもう、こんなこと見るのも聞くのもウンザリ。私はもうこの件には一切口出ししません。どうにかして、しばらくの間、どこか違うところに行きたいもんだわ」。
浮舟を溺愛している乳母も同調して「あたしのお姫さまを見下すなんて失礼千万ですよ。でも、考えようによっちゃ、これでよかったのかもしれません。
浮舟さまはこんなにおきれいなんですもの。あんな少将ごときには良さがわかるはずもありません。これはきっと、姫さまに大きな幸運がやってくる前触れなんですよ。
宇治でちらっと薫の君を拝見しましたがね。それはそれはご立派で素晴らしいお方で、寿命が伸びるような心地がいたしました。同じことなら、あのように、モノのわかる方にお願いしたいものです」。
「でもねえ、聞いた話だと、あの方は理想がとても高くて、宮家や大臣家の熱心なお申込みをことごとく断って、今やっと帝が可愛がられている女二の宮様とご結婚なさったと言うじゃない。とてもじゃないけど、無理よ。
お母宮の女三の宮さまの所へ女房として出仕させることも考えたけど、愛人扱いというのもねえ……。二条院の中の君さまは、世間からは幸せだと言われているけど、やはり辛いお立場には違いないし……。
やっぱり誠実で信頼できる人でないと、結婚なんて辛いだけよ。八の宮さまはお優しくて素敵な方だったけど、私のことは愛人としてしか見てくださらなかった。そのことがどんなに辛かったか。
今の夫はものの値打ちもわからない男だけど、女性問題では一度も苦しめられたことがないの。私一人を大切にしてくれたからこそ、やってこれたのよね。
時々こんな風に人の気持ちを無視したやり方をするけど、それでもお互いに言いたいことは言い合ってきた。身分の高い方がどんなに優雅でご立派でも、身分の差があれば対等ではありえない。切ないだけよ。
すべてが身分次第なのよね。そう思うと悲しいけれど、なんとかしてこの子を世間の笑いものにしないようにしてあげましょう」。
中将の君と同様、受領の娘という身分で宮仕えした作者の実感がこもるセリフです。常陸介は分からず屋なところがありますが、浮気症ではなかった。そして何でも言い合える関係だからこそ長続きしてきた、というのも説得力があります。
打ち沈む妻をよそに、常陸介は「急なこったから結婚式はこのままこの部屋でやっぺな。調度品も新調してあるみてえだから丁度いい。女房たちも借りるっぺ」と、中将の君がせっかくきれいに整えた部屋に、屏風やら飾り棚やらをゴテゴテと並べたてます。やっぱりモノがいっぱいでないと落ち着かないらしい。
おかげで浮舟は隅っこに追いやられてしまい、中将の君もそちらにつききり。介は手伝おうとしない妻に嫌味を言いつつ、我が娘を丁寧に着飾って準備万端です。
わざわざ連れ子の婿を横取りしなくても、と思いますが、介は例の腹黒仲人に吹き込まれた言葉を信じ込んでいるし、少将は少将で、介が派手に用意していると聞いて「これほどの待遇なら申し分ないや」と、ためらいなく通婚をスタート。あーあ。
常陸介は、三日夜の結婚成立の日に、お婿さんをとにかく立派におもてなししたいのですが、何をどうやれば立派になるのかがわからない。風流ごとには無縁なので、料理をめいっぱい用意して大盤振る舞いし、引き出物として東国産の目の荒い絹をゴロゴロ転がして御簾の下から投げ出します。ダイナミック!
しかし、少将の家来にはこの気前の良さが大ウケ。少将自身も「やっぱこれで良かった。理想の結婚だよ」と大喜びです。従者の人にとっては、笛やお琴の高尚な佇まいより、大盤振る舞いのごちそうとか、絹などの方が余程ありがたかったでしょうね~。リアル。
中将の君は(まったくこんな事は言語道断、浮舟にろくな後見人がいないからって馬鹿にして!)。でもあまりに非協力的だと、ひがんでいるように思われるし、こちらも自分が産んだ娘のこと、まったく関知しないというわけにもいきません。仕方なく、夫のやることには口出しせず、成り行きを見守ります。
でもここで困った問題が浮上。新婚夫婦に奪われた浮舟の居場所がないのです。屋敷自体は広いのですが、先妻の娘のお婿さんだとか、まだ独身で家にいる男の子たちだとかが大勢いるので、浮舟が使える部屋がない。かといって、廊下の端の女房が使うような部屋で暮らさせるのも哀れなため、中の君に手紙を出しました。
「特別な事以外でこちらからお便りするのは憚られ、ご無沙汰しておりましたが、どうにも慎まねばならぬ事情がございまして。つきましては、少しの間で結構ですので、そちらに人目につかず匿っていただけましたら誠に誠に嬉しゅうございます。
非力な私では娘を十分に守ってやることも出来ず、情けのうございますが、このように世知辛い世の中、中の君さまだけが頼りです」。
中の君は異母妹をかわいそうに思いますが、亡き父が「認めない」と言った手前、自分が親しくしていいものかどうか迷います。でも、ここで頼みを断って、ますます彼女が惨めな立場に立たされるようなことがあれば、それはそれでいたたまれないだろうし……。
「何かよほどの事情がおありなのでしょうね。どうか邪険になさいますな。ご身分違いの兄弟姉妹がいる、というのも世間にはよくあることですから」。同じく中将の君から嘆願書を受け取っていた、ベテラン女房の大輔の君がこう助け舟を出し、中の君は浮舟を受け入れることを決めました。
かくして女房数人と乳母、そして母の中将の君とともに、こっそりと二条院の人目につかない部屋に迎えられた浮舟。(長年お会いしたいと思っていたお姉さまに会えるんだわ。かえって破談になって、よかった)。彼女はそう思っていました。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
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