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今回は藤田 哲朗さんのブログ『U-Turner日記@富山』からご寄稿いただきました。
職業柄、気になる記事があったので、紹介します。
秋田県(人口約2300人)で唯一の医療機関、村立上小阿仁国保診療所の医師の柳一雄所長(80)が、患者を診察せずに処方箋(せん)の発行を看護師に指示していたことが15日わかった。医師法は無診察での処方箋の発行を禁じている。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/kamikoani-doctor-flu_jp_5c67a6c2e4b033a79942d450
医師法(昭和二十三年法律第二百一号)
第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。(ただし書き略)
上記のとおり、確かに医師法では無診察での処方せんの交付が禁じられており、事実であれば法令違反となる可能性が高い。
一方で、平成9年に当時の厚生省が発出した「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について(平成九年一二月二四日健政発第一〇七五号厚生省健康政策局長通知)」では、
医師法第二〇条等における「診察」とは、問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう。したがって、直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第二〇条等に抵触するものではない。
との解釈が示されており、また、直接の対面診療によらない遠隔診療の適用についても
(三) (一)及び(二)にかかわらず、次に掲げる場合において、患者側の要請に
基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないこと。ア 直接の対面診療を行うことが困難である場合(例えば、離島、へき地の患者の場合など往診又は来診に相当な長時間を要したり、危険を伴うなどの困難があり、遠隔診療によらなければ当面必要な診療を行うことが困難な者に対して行う場合)
イ 直近まで相当期間にわたって診療を継続してきた慢性期疾患の患者など病状が安定している患者に対し、患者の病状急変時等の連絡・対応体制を確保した上で実施することによって患者の療養環境の向上が認められる遠隔診療(例えば別表に掲げるもの)を実施する場合
と例示されているところ。
記事によれば、
柳所長は5日朝、インフルエンザに感染していることが判明し、8日まで受け持ちの医科の休診を決めた。村民には、全戸に設置されているディスプレー機能があるIP電話で周知した。それでも休診を知らずに、診療所へ来る患者が相次いだ。
診療所の看護師から患者の血圧などを電話で聞き取り、慢性疾患などで定期的に薬を処方している患者のために処方箋の発行を指示した
とのことなので、もちろん個別の患者の状態や処方した薬の内容にもよりますが、前記の厚生省健康政策局長通知に照らしても直ちに医師法20条に違反するとは言えないのではないでしょうか。
診療所の運営責任者の小林悦次村長は「大変なご迷惑をかけたことを心から謝罪する」と陳謝した。現在、国や県が関係者から事情を聴いており、「調査に協力し、再発防止を徹底する」とも述べた。
と記事にはあり、開設者(村)は白旗をあげているようです。前述通知に照らし合わせると、上小阿仁村が法令解釈をしっかりした上で「謝罪が必要」と判断したのか、個人的には若干の疑問があります。※1
※1:もちろん上述「遠隔診療」の解釈が妥当かどうかは最終的には行政当局や場合によっては司法が判断するものなので、あくまで私の意見です
本件「過疎地の医療のもろさ」と評する向きもあり、たしかに代診の医師を確保できていればこんな問題にならなかったのは間違いありません。ただ、現実にはそのような対応を村はしてなかったわけですから、医師の責任にして逃げるんじゃなくて、ちゃんと外部の指摘からスタッフを守る努力をするべきだったのではないでしょうか。
本件とは直接の関係はないとは思いますが、上小阿仁村は以前も医師いじめ*1 で診療所の医師が確保できずに話題になっており、いざというときに開設者たる村がスタッフを守ってくれないとなると、なかなか人材を確保し続けるのも難しいのではないかと勝手ながら思った次第です。
*1:「医師いじめの秋田県上小阿仁村に挑む新赴任医がすごい→結局即辞任」2012年11月26日『NAVERまとめ』
https://matome.naver.jp/odai/2134921660679478601
執筆: この記事は藤田 哲朗さんのブログ『U-Turner日記@富山』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年5月28日時点のものです。