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どうもどうも、特殊犯罪アナリストの丸野裕行です!
まだまだ豊かになったとはいえない日本の景気。
貧乏人でもいい車に乗りたい! そんな願いをお持ちの方も多いのではないのでしょうか?
でも、万年貧困層の生活に、車に費やす金などあるわけがない……。
そんなときには、様々な事情を抱えた所有者が名義もそのままで売り出し、マーケットに出回る“事件モノ車”を買うという手があるそうです。普通の人間なら、馴染みが薄いかと思いますが、“事件モノ車”とは、格安で他人名義の高級車を乗りまわせるという代物。
当然ながら、マトモとは言えない流通経路を通ってきた胡散臭い車両だが、裏の世界で生きるヤクザや半グレなどにはおなじみらしいんですね。では、こんな脛にキズのある高級車を“ド”が付く素人が買えばどうなるのか。
今回お話を聞いたのは、派遣社員として地元の精密機器メーカーで工員として働く鈴井さん(仮名、32歳)。
彼が持ち掛けられたのは、高年式のメルセデスベンツE55(新車価格1,500万円!)が150万で手に入るというお話。一般人では決して乗ることのできない超高級車を目の前に有頂天になっていた彼が遭遇した出来事とは……。
告白者/鈴井隆太(仮名) 32才 滋賀県 無職
※証言を元に再構成しています
職業は派遣社員、万年彼女なしのオレ。せめて車でもあれば、状況は変わるだろうが、派遣社員では自動車ローンさえ組めない。ド田舎の実家暮らしで駐車場代いらずとはいえ、現金で購入できるのは軽自動車か古いポンコツの国産車くらいだろう。
昔から車好きで、外車のカタログを眺めてはタメ息をつくばかり。そんなオレの下に、大学時代の悪友・太田から連絡があったのは、昨年10月のことだ。
「お前、3年オチのAMGのEクラス買わへんか?」
「はぁ? そんな金あるわけないやろ。ワシャ派遣社員やぞ!」
「150万でどや?」
「えっ!!」
そんなはずがあるわけない。とてつもない胡散臭さを感じつつも、話を聞くのはタダ。オレの足は自然と太田と待ち合わせたガストへ向いていた。
店内の席には、ダブルのスーツをパリッと着込んだ太田。あ、怪しい。
「今、貿易関係の会社やってるんや。それで、いきなり出物があってな。金融流れの事件モノなんやけど…」
金融流れ? 事件モノ? 初耳や。詳しく、事件モノ車の安さの秘密や売られるプロセスを訊いた。
まず、物件は以下のようにつくる。
1.ローン中、金に困った所有者が売りに出した車両
2.金策に困窮した企業などが計画倒産前に高級車を手形で購入して取り込み詐欺した車両
3.盗難車を作り直して流し、金融流れに見せかけられた車両 など
これを見るだけでもヤバそうだが、完全に犯罪と言える利点もある。
他人名義だから税金払わなくていいし、違反してもレッカー移動さえされていなければお咎めなし。事故っても車を捨てて逃げればいい(指紋をつけない限り)。
ただしその手の車はローンが全額近く残っている場合が多いので、本来差し押さえられる車両。税金の領収書を手に入れることもできないので、車検を受けることも、下取りして次の車を買い換えることなどできない。
オレに売りつけようとしてる名古屋ナンバーのベンツは、ガストのガレージに存在感バッチリのフォルムで駐車されていた。ピカピカに光った大きなボディ、磨きぬかれたホイル。カ、カッコぇぇやん!!
このベンツは、盗難車ではなく(ナンバープレートが本物、リヤナンバーの封印が変造されていない、車検証に記載されている車台番号が車体のものと一致しているなど)、ローン中に持ち主が売りに出した金融流れ物件だそうだ。
次の日までに150万用意することを条件に売ってくれるという。1年で75万円、2年限定とはチト高い気もするが、あんなクルマに乗れるチャンス、一生めぐり合えないかもしれない。
カーキチ魂を刺激されたオレは、貯金50万と親に頼み込んで借用した100万を太田の前に叩きつけた。これで、オレのもんや!!
それから、1年11ヶ月のほぼ満タン車検が残った超VIPカーを手に入れたオレの生活は180度変わった。
走っていても他の車が道を譲ってス~イスイ、ガレージの見える店に入ればサービスがいい、同級生と会っても羨望の眼差し、女を街角でナンパすればヒョイヒョイ付いてくる。まさにミラクル、ベンツマジックである。
ベンツに乗りはじめて3ヶ月。夜の街が自分の庭におもえてきた頃、ミナミにあるなじみの高級車専用パーキングに愛車を止めると、背後から肩を叩かれた。振り向けば、Vシネマに登場してきそうなそっちの筋丸出しの男が……。
「オドレか、熊谷いうんは?」
「いや、ボクは鈴井…」
言い終えるかどうかの瞬間、腹にレンガのように硬いパンチが食い込んだ。
ゴホッ!! ちょっとぉ~、意味わからん!!
そのまま、ベンツの後部座席に押し込められ、猛スピードでどこかへむかって走り出す。な、なに?!
「ええ、そうですわ!! 熊谷の柄、押さえました!! ミナミでボケが取り込んだベンツ乗りまわしてるトコ、見つけたんですわ!! 若いの呼んどってください!!」
バリトンボイスで、ケータイにむかって話すコワモテ男。え!! オレは熊谷じゃない!! 人違いですから!!
瞬く間に、どこかの廃ビルの地下へ連れ込まれ、続々と到着する血気盛んな若いヤクザ風の男たち。キャバクラの看板が犇く元ラウンジらしき店内でオレは裸にされ、ロープで吊し上げられた。
「熊谷!! オドレの命じゃ足らんくらい、寸借して本部裏切ってからに!! ことは動いてしもとるぞ!! ブチ殺したる!!」
「ち、違いますって!! 僕は鈴井ですよ~!!」
「往生際の悪いやっちゃ!! オヤジが来る前に切り刻んだる!!」
台の上に用意されるノコギリやノミ、中華包丁、そしてなぜか大量の強力マジックリン。た、助けてぇ~!!
「おい、こいつの足持っとけ!! 親指切りとって逃げられへんようにするんや!!」
■
意識が遠のきそうになる中、上の階から「ご苦労様です!!」という声が聞こえる。
やる気満々の若い衆の元へやってきたのは、犬の絵柄が入ったジャージを着た初老の男。
「三浦、ようやったな!! 熊谷押さえたら、オジキにも鼻高いわ!! アレ、こいつ違うぞ?!」
「(一同)ええぇ~?!」
親指を失う寸前で九死に一生を得たオレは、事のすべてを話し、口外しないように念を押されて解放された。もちろん、クルマは没収。
しかし今回のことが起こらずに、そのままあのベンツに乗り続けていたとしたら、運転している人間を確認せずに、拳銃で撃たれていたかもしれないと聞いた。
しかし、ベンツの前の所有者・熊谷が起こした命をとられるほどの事件について聞くのはさすがに怖い。ことの詳細は不明だ。
破格で高級車に乗れるというウマイ話。ド素人が飛びつくにはリスクがありすぎる。“事件モノ”の車の話を1度でも聞いたことのあるアナタ、絶対に乗ってはいけない。
※写真はイメージです
(C)写真AC
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