何者かになりたくて東京に出たけれど、10年が経ちなんとなく実家に戻った27歳の“私”と、地元に残りなんとなく生活するも元彼が忘れられない“あたし”を中心に、地方都市に暮らす若者のリアルな心情を描いた『ここは退屈迎えに来て』。山内マリコさんによる同名小説を映画化した、痛く切ない大人の青春ストーリーです。


2012年に発表されると、同じもどかしさを抱える読者達の圧倒的共感を得たこの小説。筆者も当時「こんなに気持ちが分かる小説があるとは!」と衝撃を受けたものです。今回は映画の公開を記念して、原作者の山内マリコさんにインタビューを敢行。映画の感想について、今後描いていきたいテーマについて、お話を伺いました。



――映画大変楽しく拝見しました。ご覧になった率直な感想を教えてください。


山内:こんなにエモい映画久しぶりに観た~と(笑)。橋本愛ちゃんをはじめ若い俳優さん達がみんなすごくよかったです。原作は連作短編集なので、そのままだとオムニバス形式になっちゃうのですが、一本軸の通った群像劇に仕上げてあって、「あ、こういう風にしたんだ!」と新鮮でした。でも話の根幹はブレてないので、違和感はなかったです。


――私は、山内さんの原作の大ファンなので最初は映画どうなるんだろうって、一観客としてちょっと不安があったんです。でも、本の持っている空気感とかがそのまま表現されていて。


山内:原作を読んでくださってる方にそう言ってもらえると嬉しいです。小説では特定の地名を出していないのですが、書くときにイメージしていたのはあくまで出身地の富山でした。今回地元でロケしてもらえたことで、言葉では書ききれない光の具合とか、まったりした空気感まで拾われていて、作品の世界観がコンプリートした感じがありました。


――キャスティングが本当に素晴らしいですよね。


山内:同じ年代の女の子がたくさん出ているけど、それぞれのキャラクターに女優さんの個性がしっくりマッチしてますよね。オーディションで選ばれた子たちも、すごくいい演技をしてくれてます。片山友希ちゃんや木崎絹子ちゃんなど、私もこの映画ではじめて観る女優さんだったのですが、逸材ぞろいだなぁと思いました。そしてなんと言っても橋本愛ちゃんが。


――“私”ってすごく難しい役柄だと感じたのですが、橋本愛さん素晴らしかったです。


山内:ですよね! この映画のプロモーションで橋本愛ちゃんとよく会ったのですが、私もすっかりファンです(笑)。実際に会うと手を合わせたくなるような、後光が差してる美人なのですが、あの美貌のおかげで映画を映画たらしめてくれてるなぁと、つくづく思いました。橋本愛ちゃんの存在が、映画の格をぐっと上げてくれてます。


青春ストーリーでありながら、青春真っ只中ではなくて、自分の青春にケリをつけるという話なので、どうしてもクサくなりがちなセリフがあって。でも橋本愛ちゃんが言うと、ちゃんと自分の中に落とし込んで、納得してから出てきた言葉になってるから、聞けるんです。セリフ回しにすごく技がある女優さんですね。


――また、高校時代は誰からも憧れている人気者であり、現在は普通のアラサーになったという椎名を演じた、成田凌さんの絶妙さもすごいなと。


山内:決定した配役を教えてもらったとき、一番たぎったのは成田くんのキャスティングですね。ここが正解じゃないと話に説得力がなくなってしまうので、本当に要なんだけど、成田くんならバッチリだと思いました。学年でいちばんかっこいい男子の結晶体みたいな人じゃないか!と。同じクラスにいたら、100%好きになってる(笑)。


――この作品のキャラクター達って「ああ~いるいる!」とうなってしまうほど、すごく絶妙に描写されていて。そこがお話の魅力の一つだと思うのですが、モデルはいらっしゃるんですか?


山内:女子キャラクターは、全員ちょっとずつ自分、みたいな感じかなぁ。とくに1話目の主人公(映画で橋本愛さん演じる「私」)は自分の状況にすごく寄せて書いています。あと、家庭教師とのエピソードはわりと実体験です。私も、一人暮らししている大学生の家庭教師に教わっていて、彼女がきっかけで県外に進学しようと決めたので。椎名は、今まで私が好きになった男の子達の集合体。空虚なイケメンという感じで。


――ああっ、すごく分かります。本で読んだ椎名感が最高に表現されていたので興奮しました。山内さんは撮影現場には行かれましたか?


山内:行きました。実は、学生たちがプールでワイワイ水かけ合ってるシーンにエキストラ出演してます。制服姿の高校生にまざって、一人だけ丸っとした体型の黄色のポロシャルを着た先生が……私です(笑)。


――なんと、そうだったのですね!


山内:最初は、差し入れを持ってロケ見学に行くだけのつもりだったのが、廣木監督から「出てよ」と言われて。たしか長嶋有さんが飲み会で言ってたんです。「作家は自分の作品が映画化されたら、エキストラ参加した方がいい」と。なぜかというと、原作者って機嫌を損ねないよう丁重に扱われすぎちゃうから。丁重すぎてある意味、腫れ物みたいに…。でも、エキストラ出演して一緒に撮影の苦労を味わえば、チームの一員にまぜてもらえるって。なので、今回私も一緒にみなさんに混ざらせもらおう! ダサいジャージも着ましょう!と、飛び込みました(笑)。気をつけて観ないと分からないと思うので、そこは安心しています。あんまり目立つとノイズになるから…。


――一度拝見しただけでは気付かなかったので、ぜひもう一度観て山内さんを見つけたいです!(笑) 山内さんは富山ご出身でこのお話を書かれていますが、私は長野出身なので地方都市の描写にすごく共感する部分が多かったんです。当時はどの様なお気持ちで小説執筆に取り組んだのですか?


山内:地方都市を書こうと思ったきっかけは、街の変化ですね。私が10代だった1990年代は、中心市街地や商店街が若者の遊び場だった、ギリギリ最後の時代。2000年前後に大店法の改正もあり、どんどん郊外にショッピングモールやチェーン店ができるようになって、人の流れが変わっていきました。年に何度か帰省すると、目に見えて街なかから人が減り、店がなくなっていって。そういう景色を見ると、「これでいいのか? みんな、なんとも思ってないの?」と疑問を持つようになりました。


原作小説を出した2012年の時点では、自分にとってリアルな地方都市ってあんまり描かれてなかったんですよね。田舎イコール『天然コケッコー』(くらもちふさこ著・1994年)みたいな、のどかなイメージがあるけれど、私が生まれ育った場所は、田舎は田舎でも、自然なんかなくて、車がビュンビュン走って、みんなすごく消費社会的な生活を送ってる。そういう中で育った自分を、どう捉えていいか掴みかねていて。


――わあ、分かります! 超都会か素敵な田舎かどっちかのお話ばかりでしたよね。私もだからこそこの『ここは退屈迎えに来て』に救われたのだと思います。


山内:ありがとうございます! 日本の大部分は似たような地方都市なわけだし、そういう場所にいる若者にもドラマはあるんだってことを、まず書きたかった。自分を投影できる作品があるのとないのでは、全然違うと思うんです。映画の感想で意外だったのは、東京出身の人が、上京物語にあこがれていたり、地元をいいなと思ったというコメント。地方に対してもやもやしてる人に、自分たちにも語るべき物語があるんだ、自分たちが持ってる物語も素敵なんだと、ちょっとでも思えてもらえたらうれしいです。


――山内さんはこの作品で地方都市で暮らす若者の気持ちを消化された部分があると思うのですが、今後取り組んでいきたいテーマや、執筆していきたい事はありますか?


山内:世の中に蔓延している、男性が決めてしまった女性の価値観を、フィクションで変えたいと思っています。小説や映画に描かれてる女性像って、多くが男性作者の創作なんですよね。女性はこうあるべき、こう感じるべき、こう生きるべき、みたいなことも、フィクションからの影響はすごく大きい。私も若い時、男性向けのカルチャーを浴びるように摂取したせいで、男の価値観でものを見てしまっていました。女性が女性の感性で、女性の価値観で書いたフィクションを、ちょっとでも増やしたいと。そういう思いがあるので、おのずとテーマも決まってきます。


――なるほど、フィクションやエンターテイメントで楽しむことで、どんどん皆の価値観が変わっていくと。


山内:ペンは剣よりも強しと言いますが、物語って実はすごい力があって。『シンデレラ』のストーリーは、ある種イデオロギー化してますよね。これからは新しい『シンデレラ』を作っていくべきではないのかと。女性の生き方や考え方をアップデートしていくのが、現代の女性の作り手に与えられた使命なのではないかしら、と考えているんです。今はそのモチベーションで生きています。


――今日大変楽しいお話をどうもありがとうございました!




『ここは退屈迎えに来て』大ヒット上映中

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(C)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会


―― 表現する人、つくる人応援メディア 『ガジェット通信(GetNews)』
情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 『ここは退屈迎えに来て』原作・山内マリコインタビュー「地方でモヤモヤしてる人に自分たちの物語も素敵なんだと思ってもらいたい」