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古舘伊知郎、徳光和夫、倉持隆夫、福澤朗など、数多くの有名実況アナウンサーたちが自らのスタイルでプロレスを言葉で伝えてきました。そして現在、数少ないフリーのプロレス実況アナとして活躍しているのが、清野茂樹さん。今回は、そんな清野さんだからこそ体験できたプロレスの現場やレスラーの姿を楽しく紹介していくエッセイ集『コブラツイストに愛をこめて 実況アナが見たプロレスの不思議な世界』(立東舎刊)について、清野茂樹さんの寄稿をいただきましたので以下にご紹介します。(Rの広報ガール)
文・清野茂樹
新しい著書『コブラツイストに愛をこめて』(立東舎)が発売されました。連載をまとめたものではなく、イチからの書き下ろしなので「書ききった!」という達成感もひとしお。これまで何冊か本を書いてきましたが、実は本作りで文章を書くこと以上に楽しいのが、表紙とタイトルを考えることです。特に“本の顔”とも言える表紙は非常に大事で、僕は執筆中から、獣神サンダー・ライガーさんにクレイアート(粘土細工)でお願いしたいと思っていました。
というのも、ライガーさんの粘土作りの腕前はプロ級。道場の部屋にゴジラやレッドキングなど手作りのガレージキットがずらりと並べられている写真を見たことがありますし、新日本プロレスの選手寮の扉にある、ライガーさんが粘土で作ったライオンマークを見てから、いつかアーティストとして作品を依頼したいと思っていたからです。
しかも、著書のメインターゲットはプロレスファン。これまで僕が書いた本を買ってくれた人たちの中心は、一口に「プロレスファン」と言っても、『1000のプロレスレコードを持つ男』(立東舎)に書かれた昭和の入場テーマ曲のエピソードを読んで喜んでくれる “古参ファン”もいれば、『もえプロ♡』(PARCO出版)の女子会に参加してくれるような “新規ファン”もいます。今回の本の内容はどっちのファンにも突き刺さると思ったので、両方のファンに支持されているライガーさんは適任なのです。
出版社を通じて依頼したところ、ライガーさんからは快諾の返事。その上で「架空のレスラーと実況アナによるコブラツイストのフィギュアでどうでしょう」という提案までしてくれたのです。もちろん、こちらとしては言うことありません。
ライガーさんにお任せしますという返事をしてから約2か月後。出来上がってきた作品のクオリティは、表紙にある通りです。そこで、今回のコブラツイストのフィギュア作りについてライガーさんに振り返ってもらいました。
清野 今回の粘土造形、無理な注文というか……ライガーさんが怪獣とかをお作りになっているのは知ってたんですけど、人間のフィギュア作りっていうのは、これまでにないですよね?
ライガー ないんですよ。だから僕も、今回は挑戦をさせてもらって、すごく勉強になってます。日々、発見もありましたし。工夫とかもいろいろしていて。で、清野さんがコブラツイストをかけている、覆面レスラーに。そういう二体がからむフィギュアっていうのは初めてで。で、人間の体ってどうしても当たれば凹むじゃないですか? でも、粘土は凹まないので、そこをいかに凹んだように見せるかっていう。あとは、スーツの質感ですよね。今、清野さんを目の前で見ていて、「あ、もうちょっと粘土を痩せさせた方が良いかな」「ちょっと粘土の方がゴツすぎるかな」っていうのがありますけど、色んな発見があったので楽しかったです。
清野 怪獣とは、もう全然、質が違いますもんね。
ライガー 特にスーツですよね、布ですから。できるシワとか。だから一応、僕のスーツをヤングライオンの成田(蓮)に着させて、「こういうポーズでやろうと思っているから、ちょっと写真を撮らせて」って、来てもらって写真を撮って。「はい、じゃあ後ろー」って。
清野 それはすごい(笑)。ありがとうございます。
ライガー ただ、あまりリアルに作りすぎるとごちゃごちゃしちゃうので、どっかでやっぱり……スケールが20cmくらいなので、そのスケールに合わせて、省くところは省いて、強調するところは強調しました。
清野 実はずいぶん前に中邑真輔さんから、ライガーさんが作った怪獣の頭をもらったことがあるんですよ。
ライガー 真輔にあげたことあったかな? 持ってったんじゃないの(笑)。あの野郎!
清野 でも、ライガーさんのサインが入ってましたよ。
ライガー 本当ですか? じゃあ、あげたのかな?
清野 その頭がすごく精巧にできていて。あれは、型を作ってそこに流し込んで作るんですか?
ライガー そうですね。複製する場合は、シリコンのゴムで型を取って、そこにキャストっていうのを流し込んで。で、複製が出来上がる。でも、今回は一点モノなので、抜きにくくなるのも一切考慮しないでどんどんリアルなところはリアルにしていますし。
清野 一点モノと複製では違うんですね。
ライガー この前も、清野さんと実況と解説でやらせていただきましたけど、そのときにチラチラ横を見て、チェックしてたんですよ、顔を。
清野 そうだったんですか(笑)。僕も、あんまり「粘土どうなりました?」って尋ねると、プレッシャーになるかもしれないと思って、何も言わなかったんですけど、これをきっかけにライガーさんのアーティスト活動が広がったりして。
ライガー ないない(笑)。でも本当に気合いを入れて、すごく楽しくやらせてもらいました。
清野 今回みたいに二体が絡むフィギュアはやっぱり難しいですか?
ライガー 粘土は硬いじゃないですか。だからどうしても、グニャッってならない。
清野 粘土の中にはワイヤーみたいな芯を入れるんですか?
ライガー 今回は20cmっていうサイズなので、無垢にしました。全部粘土ですね。本来は、新聞紙を丸めたらアルミ箔で巻いて、そこに粘土を盛っていくんですけど。今回は芯から全部粘土です。
清野 フィギュアを自立させるのが大変そうに感じますけど、どうなんでしょう?
ライガー 立たせるのはそんなに苦ではないかな。今回はコブラツイストなので、足が3本じゃないですか? かけられている方の人と、かけている方の人。1本が宙にあるとしても、3本はある。だから割と立たせるのは楽です。でも、それでも立たないのであれば、真鍮線っていう金属の棒でデコパージュ、木に差し込んで立たせれば何の問題もないですよ。
清野 ライガーさんはお料理も上手ですし、手先が器用なんですね。
ライガー 料理が上手ってよく言われるんですけど、ツイッターにあげてるやつでしょ?あんなのね、もう適当だから!
清野 でも、若手時代のちゃんこも評判が良かったって聞いてますよ。
ライガー まあ、家が貧乏だったので、食に対する意地汚さがすごくあるんですよ(笑)。たくさん食べたい、おいしいものを食べたいだけです(笑)。
実はフィギュアが完成して、表紙の撮影スタジオに運搬中にパーツの一部がポロリと破損するアクシデントが発生し、急遽、フィギュアは道場にUターン、ライガーさんに修理をお願いしたので撮影は1日延期となったのです。撮影するスタッフも手袋を着用して組み立てるほど、慎重に取り扱われました。
今思えば、フィギュアが届いた日、編集者やデザイナー、カメラマンたちの間に「いい本になる!」という確信が生まれたような気がします。こういう、目に見えないムードがモノ作りにはけっこう重要ではないでしょうか。
そして、僕はこの作品を見て『コブラツイストに愛をこめて』というタイトルがひらめいたのです。なんだか語呂がいいし、プロレスに愛をこめて、だと何だか大袈裟だけど、コブラツイストに愛をこめるのは意味不明で、むしろ面白いんじゃないか。コブラツイストという技の持つノスタルジーな響きもいいんじゃないか。一度、この言葉が浮かんでからは、タイトルはこれ以外に考えられませんでした。
思えば、僕が最も影響を受けた実況アナである古舘伊知郎さんが35年前に上梓した『過激でどーもすいません!』(テレビ朝日)の表紙もコブラツイストのイラストでした。これはまったくの偶然ですが、もしかしたら、「コブラツイスト」という言葉には古舘さんのことも含まれているのかもしれません。
『コブラツイストに愛をこめて 実況アナが見たプロレスの不思議な世界』
著者:清野 茂樹
定価:本体1,600円+税
立東舎 発行/リットーミュージック 発売PROFILE
清野 茂樹(きよの しげき)
1973年8月6日、兵庫県神戸市出身。プロレス世界3大メジャー団体を実況する、唯一のアナウンサーとして知られる。広島エフエム放送でアナウンサーを経験後、2006年よりフリーとなる。幼い頃からの夢であったプロレス実況を実現させ、2015年には新日本プロレス、WWE、UFCという世界3大メジャー団体の実況を史上初めて達成。その対象はリング上だけに留まらず、コンサートに出演直前のももいろクローバーZ、世界陸上でウォーミングアップをするウサイン・ボルト、日比谷野外音楽堂のステージに登場する細野晴臣など……何でも実況してしまう“特殊実況”を得意とする。発売記念「コブラツイストに愛をこめたトークイベント大阪編」開催!!
出演:清野茂樹、ミラノコレクションA.T.(元プロレスラー、プロレス解説者)
日時:2018年11月04(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:Loft PlusOne West(大阪府大阪市中央区宗右衛門町2-3 美松ビル3F)
参加費:前売り¥2,300 / 当日¥2,800(飲食代別)
詳しくは https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/101015
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