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文学にはまったく興味がない!と宣言している人の耳にも、否応なしに入ってくる文学賞の名前。賞の発表シーズンには、日本中、世界中のメディアがこぞってニュースに取り上げますので、詳しくは知らなくても「賞の名前は聞いたことがある」という人は多いと思います。ボブ・ディランが2016年のノーベル文学賞を受賞したことは話題になりましたね。
これを獲ったら世界一?「ノーベル文学賞」
日本で一番有名な文学賞「芥川賞」
読み始めたら止まらない「直木賞」
当たり作品の宝庫「ブッカー賞」
写真のように本を読む「ゴンクール賞」
アメリカとは何かを考える「ピュリツァー賞」
チェコの地元賞から世界の賞へ「カフカ賞」
理解するということについて「エルサレム賞」
今回ご紹介する『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』(立東舎刊)は、文学賞の発表シーズンが何倍も楽しくなる1冊です。
『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』の翻訳で知られる都甲幸治さんを中心に、芥川賞作家や翻訳家、書評家たちが集まって、世界の文学賞とその受賞作品について熱く語っていくというもの。
先ほどあげました8つの文学賞が、どんな賞なのか、どんな作品が獲っているのか、どれくらい面白いのかーー。これらの賞から、現代小説の最先端を読み解いていきます。
芥川賞、直木賞、ノーベル文学賞といったメジャーなものから、各国の代表的なものまで。歴史あるものや最近設立されたもの、賞金が1億円を超えるものや1500円くらいのもの。本書は受賞作品の解説にとどまらず、受賞作品の傾向分析や、あっと驚く選考の裏話までもが飛び出し、あなたの知的好奇心を大いに刺激します。
作家・翻訳家・書評家による史上初の世界の文学賞ガイドなので、ズラリとならんだ著者陣のお名前も豪華です。
▼『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』著者
都甲幸治(翻訳家、早稲田大学文学学術院教授)
中村和恵(詩人、比較文学研究者、明治大学教授)
宮下 遼(トルコ文学者、作家、大阪大学言語文化研究科講師)
武田将明(イギリス文学者、東京大学大学院総合文化研究科准教授)
瀧井朝世(ライター)
石井千湖(書評家、ライター)
江南亜美子(書評家、近畿大学、京都造形芸術大学非常勤講師)
藤野可織(芥川賞受賞作家)
桑田光平(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
藤井 光(翻訳家、同志社大学文学部英文学科准教授)
谷崎由依(小説家、翻訳家、近畿大学文芸学部講師)
阿部賢一(東京大学文学部准教授)
阿部公彦(東京大学文学部准教授)
倉本さおり(書評家、ライター)
最後に本書のまえがきを公開します。あなたの知らない文学賞の世界が、ここにある!
執筆:都甲幸治
文学賞って何なんだ? 毎年秋になると僕は思う。ノーベル文学賞発表の頃になると、今年こそ村上春樹が獲るんじゃないか、とメディアが大騒ぎする。あるいは芥川賞だ。一月と七月の年二回、発表されるたびに大々的に記者会見が開かれる。最近では、受賞をきっかけとして又吉直樹が『火花』を二五十万部も売り上げた、なんてニュースもあった。
でもね、そもそも文学って地味なものじゃないですか。書斎で作家がコツコツと書き上げたものを、読者が一人きりで一行ずつ読み進める。言葉の手触りを感じながら、脳内で細かく情景を組み立てていく。その過程で感じた喜びは、そう簡単には言葉にならない、ごく個人的なものだ。そうした実感や書き手への密かな感謝と、メディアが煽り立てる世界規模のスペクタクルとは、僕の中ではなかなかつながってこない。
しかし、である。これだけ世界中で本が大量に書かれている時代に、どの本を読むかのヒントってやっぱり必要ですよね。そしてそれぞれの文学賞は、メディアで話題になる、帯に記される、受賞作が書店の店頭で山積みになる、などの形で確実に機能している。
というわけで本書では、世界の八つの文学賞を選び、実際に受賞作を読んでみた。文学賞を獲っている作品って本当にすごいんだろうか。実際に読んでみないとわからないものでしょ。具体的には、小説家や書評家、翻訳家など本にまつわる様々な職業の人々に、一つの賞につき一冊ずつ、合計二四冊選んでもらい、全てを読んだ上、鼎談の形で論じてみたのだ。いやあ、これは思っていた以上に大変でした。なにせ本のプロたちが、この一冊、と渾身の力で選んできた作品ばかりだ。読むだけでもまさに小説との格闘で、しかも鼎談の本番となれば、三人が本気でぶつかり合うんだから。
本書を作る過程で、僕の抱いていた思い込みは清々しいほど覆されていった。たとえば、あれほど大騒ぎするんだから、ノーベル文学賞は世界最高峰の作家を選んでいるに決まっている、という思い込みだ。けれども、実際にはヨーロッパ、特に北欧の価値観に合う作品を書いている作家に優先的に与えられている。だから道徳や人間性の向上といった、わりと古典的なテーマを扱う作家に有利で、くだらないけど面白かったり、前衛的過ぎたりする人は獲りにくい。
しかもノーベル文学賞に並ぶ権威を持つ賞も複数ある。ブッカー国際賞はすでに不動の地位を築いているし、エルサレム賞も素晴らしい選考をしている。つまり、ノーベル文学賞はナンバーワンかつオンリーワン、なんかじゃ全然ないのだ。
日本に目を向けてみよう。芥川賞は日本最高の文学賞、みたいに世間では思われているが、その実態は新人賞だ。ということは、必ずしもその年に一番面白い作品が獲っているわけじゃない。むしろ文学業界への入社試験みたいなもので、それを突破したところで、これからがんばっていきますよ、という宣言でしかない。なのにどうして芥川賞受賞作だけは安定して売れているのか。
あるいは芥川賞と直木賞の関係である。実際に読んでみれば、現代日本語以外の言語が混ざってきたりなど、直木賞受賞作にこそ芸術的な仕掛けがあったりする。しかも芥川賞・直木賞ともに、選考委員がほぼ作家だけで占められているのも謎だ。多様な職業を持つ選考委員が毎年入れ替わるブッカー賞を見れば、偉大な文学賞は作家だけで選ぶ必要がない、ということはすぐにわかる。
世界の文学賞は多様だ。共通点は、生きている作家に与えられる、ということぐらいで、作家の生涯の業績に与えられるもの、個別の作品に与えられるもの、複数回受賞可能なもの、などいろいろある。
実際に各受賞作を読んでみると、今まで知らなかった世界文学の様々な顔を見ることができる。カナダや南アフリカの過酷な環境で生き延びる女性たちを描くマンローやクッツェー、日本と同様の西洋崇拝に縛られたトルコの人々の生きざまを語るパムク、島に住む人々の喜びと悲しみを扱うナイポールや目取真俊。ウエルベックの主人公が追い込まれる現代社会の限りない冷たさには戦慄したし、純粋や感動を好む社会が暴力的なものに変わったとき、弱い人々がどれほどの恐怖を味わうかというロスの作品は、起こり得る悪夢として僕に取り憑いた。
二四冊の力作を読んで僕が感じたことは、まだまだ文学で面白いことは日々起こっている、ということだ。何を読めばいいかわからない、現代文学にはどうも疎くて、という人もいるだろう。でもそれは、周囲に文学について熱く語る友人がいないからだと思う。この本を作るのに集まった一四名+編集者一名は、全員が文学を深く愛し、文学と共に考え、文学と一緒に生きてきた。今まで文学にいただいてきた御恩を、ぜひとも読者の皆様にお返ししたい。こうした僕たちの試みが、本書で少しでも実現していたら嬉しい。
『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』(立東舎)
著者:都甲幸治、中村和恵、宮下 遼、武田将明、瀧井朝世、石井千湖、江南亜美子、藤野可織、桑田光平、藤井 光、谷崎由依、阿部賢一、阿部公彦、倉本さおり
カバーイラスト:しきみ
定価:(本体1,600円+税)
発売:2016.9.23
ISBN 9784845628384
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(執筆者: Rの広報ガール)
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情報提供元: ガジェット通信
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