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出版業界は特に近年、多くの課題に直面しています。何より大きな課題は市場の縮小です。1996年をピークに紙媒体の出版物の売り上げは減少傾向にあり、特に雑誌の売上が落ち込んでいるため、市場規模が縮小し、出版社や書店の数も減少しているのです。
加えて、労働条件の厳しさ、低賃金や長時間労働も業界の問題点となっています。
さらに、出版物の販売低迷、再販売価格維持制度の弊害、高い返品率が出版業界の課題といわれています。国によって、状況は異なるものの、これらの課題は世界中の出版社が抱えている共通の悩みです。
2023年の出版業界は、これらの課題を克服するためにDXを進めています。
英ロイター研究所の報告によれば、出版社は広告収入の減少に対処するために、デジタル定期購読、メンバーシップ、寄付の継続的な成長に期待しており、8割の出版社が主な収入源としてサブスクリプションやメンバーシップに取り組んでいるとされています。
また、日本の出版市場に目を転じると、特に約8割をコミックの売上が占める電子書籍の市場が、ここ数年は急増しています。
これは、コロナ禍を契機にユーザーのライフスタイルが大きく変わった結果でもあるでしょう。
こうした出版市場の状況は、出版社のみならず書店にとっても重大な問題です。規模の大小に関わらず、紙の書籍の出版と販売に関わるすべての人にかかわる問題です。
今や、デジタル戦略の策定と実施は、どんな規模のビジネスでも避けては通れない喫緊の課題といって良いでしょう。
今後の事業戦略において、DXを進め、新しい収益源を探求することが不可欠であり、それなくして出版業界の持続可能な成長と競争力の維持は果たせないのです。
技術の進歩に伴い、無人書店は出版業界に新しい風をもたらし始めています。
大手出版取次企業であるトーハンと日本出版販売(日販)は、この新しい形式の書店を展開し始めており、物流と販売の効率化、そして新しい購買体験を提供する可能性を模索しています。
日販は、2023年9月下旬に東京メトロ溜池山王駅構内に完全無人書店を出店しました。
この新しい無人書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」は、進化し続けるデジタル社会のビジネスの中にあって、持続可能な新しい書店モデルを目指して設立されています。
一方、トーハンは2023年度中に傘下の書店複数店舗を一部無人化する計画を発表しました。
トーハンでは、既存店舗が抱える人件費の高騰という問題を解決し、書店の新たなビジネスモデル構築につながる可能性を求めての展開です。
この動きは、今後、無人書店が商業施設や文化施設などと連携し、空間デザインを取り入れた新しい購買体験を提供する場となることも視野にいれた計画でもあります。
また、トーハングループは無人書店の実証実験を開始し、小売店向けDXソリューションを提供する企業と協力して、次世代書店の実証実験を開始することも発表されています。
こうした2大出版取次企業の取り組みは、出版業界におけるDXの進むべき道筋を示しており、無人書店が販売と顧客エンゲージメントの新しい形式を提供することで、出版業界における物流と販売の効率化を促進する可能性があるとして、大いに注目を集めているのです。
2023年上半期において、電子出版市場は堅調な成長を見せています。特に電子コミックをはじめとする電子書籍の市場は活況を呈しており、多様なコンテンツと利便性が読者に評価されています。
電子書籍市場の拡大は、読者に多様なコンテンツと利便性を提供するだけでなく、出版業界において新たなビジネス機会をもたらしているといって良いでしょう。
以下、電子書籍市場の拡大に関するいくつかの事象について詳しく解説します。
コミック | 108.7% |
写真集 | 110.2% |
書籍 | 96.9% |
雑誌 | 117.7% |
合計 | 107.4 |
2023年3月における電子書籍の流通額の成長は、前年同月比で107.4%という堅調な成長を見せました。
この成長率は、電子書籍の各カテゴリーにおいて異なる傾向を示しています。コミックは108.7%の成長を示し、写真集は110.2%の成長を示し、一方で、書籍は96.9%というマイナスの成長率にとどまっていることが分かります。
これは、電子書籍市場における各ジャンルの人気や消費者の嗜好の違いを反映しており、特に電子コミックと雑誌が、電子書籍市場で期待されるジャンルだということが見て取れるでしょう。
2023年上半期(1~6月期累計)の紙と電子を合わせた出版市場の規模は、合計で8024億円となりました。これは前年同期比で3.7%の減少を示しています。
しかし、この減少にもかかわらず、電子出版市場は増加傾向を維持しており、このことからも、出版市場ではデジタルフォーマットの受け入れが進んでいることを示しているといって良いでしょう。
つまり、既に時代は紙の出版物が大幅な減少傾向に陥っていることは明らかであり、それを補っているのが電子出版市場の成長なのです。
電子書籍市場の成長の背景には、米Amazon社が販売する「Kindle電子書籍リーダー」に代表されるような、読書端末の技術開拓と高度化が主要な要因となっていると言えるでしょう。
これらの技術進歩は、ユーザーに実際の本を読むのと同じような体験を提供し、利便性とアクセス可能性を向上させているのです。
また、多様なコンテンツの提供やオンライン販売プラットフォームの拡大も、電子書籍市場の成長を支えています。
2023年の電子書籍市場に関するシェア、規模、および収益成長率の統計は、市場の健全な成長と将来的な展望を示していると言って良いでしょう。
世界的な市場調査とコンサルティングを提供する「Mordor Intelligence(モルドール・インテリジェンス)社」が発表した市場分析「電子書籍市場規模・シェア分析-成長動向と予測(2023年~2028年)」では、2028年までの市場予測展望も提供されており、その予測では、電子書籍市場が持続的な成長を遂げ、さらに拡大する可能性を示しています。
これは、市場の成長とともに、出版業界のDXが進行し、新しいビジネスモデルや販売チャンネルの開発が促進されることが期待されている結果といって良いでしょう。
出版業界のDXが進む中で、書店は無人店舗の展開や電子書籍市場の拡大といった新しい販売チャネルや、運営モデルの採用を検討することが重要です。
こうした市場の流れを漠然と眺めているだけでは、デジタル化の波に取り残されてしまう危険性があるでしょう。
これらの変化に対応するため、書店はDXの採用を検討し、新しいテクノロジーを活用して市場での競争力を保ち、変化するユーザーのニーズに対応することが求められます。
さらに、市場の動向を理解し、顧客との良好な関係を築くためのデジタルマーケティングやCRMの活用も重要となるでしょう。
市場の変化に対応し、新しいビジネスモデルを採用することで、紙の本を販売するリアル店舗の書店であったとしても、持続可能な未来を築くことができるはずです。
出版業界のDXは止まらない進行を見せており、無人書店の展開と電子書籍市場の拡大はその明確な証です。
出版業界や書店は、これらの変化に適応し、新しいテクノロジーを採用することで市場での競争力を保持し、顧客の変化するニーズに応える必要があります。
明日を生き抜くためにも、DXの波に乗り遅れることなく、積極的にデジタル化の取り組みを進め、将来に向けた持続可能なビジネスモデルの構築を目指してください。
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