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経理のDXを推進するうえで必要な能力は「問題解決スキル」です。
問題解決スキルとは、何が問題なのか本質を捉え、原因を適切に深堀りし、解決のための方法を効果的に実行し、効果を検証していく能力のことを指します。
システムの導入がDXと捉えられがちではありますが、業務課題を解決することが目標であって、システムはそのためのツールに過ぎないと考えています。
適用するソリューションも、自社で起きている問題の本質を捉えたうえで、解決にあったシステムを選ぶことが大切です。
他者が導入して成功したシステムだとしても、自社に合うとは限りません。
問題の本質とはずれたシステムを安易に導入したことにより、かえって別の問題が発生してしまう場合があります。
自社にとって効果的なシステムなのか、見定めて判断する能力も必要でしょう。
また、システムごとに強み・弱みが異なりますので、十分に比較検討の上、選択をすることも重要です。
松岡氏は同社の経理本部 本部長に就いてから、経理部門のDX推進に尽力してきたわけですが、その過程で自身の「問題解決スキル」を活かして、大きな成果を残してきました。
では、実際に松岡氏は、どのような戦略で同社のDXを推し進めてきたのでしょう。
具体的な事例とともにお伺いしました。
(松岡氏)
DX推進の成功事例として、10営業日掛かっていた「財務会計の締め」及び「部門別の予算・実績対比まで含めた管理会計の締め」を4営業日まで短縮できたというものがあります。
この時の成功の秘訣は、最初に徹底してガントチャート等で現状を見える化し、どこが締め時間短縮に向けてのボトルネックなのか、滞留原因を明確にしたうえで、1つひとつ問題解決につながるソリューションを適用していくことで問題解決していったことです。
その時はまさに「問題解決スキル」を活かすことができました。
改善に回せるリソースには限りがあります。
よって全ての論点を満遍なく同時に解決していくのは難しく、優先度をつけて問題を解決していくことが重要だと感じています。
スモールスタートを繰り返したことによって小さな成功体験が積み重なり、最終的には月次決算日程の短縮につなげることができました。
システム導入以外にも問題解決をする手段はあります。
例えば、業務を見直して廃止できるものがあれば思い切って廃止してしまうこと。他のプロセスと統合してより効率的に実施するといったことも考えられます。
また、経理人材の配置という観点でBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング/以下:BPO)を導入することも考えられます。
BPOとは、自社で行っていたノンコア業務を外部に任せる方法を指しています。
生産性を大きく阻害するノンコア業務を外部に委託することで、自社の社員はコア業務に専念することができる体制を作りました。
BPOにより生まれたリソースを、コア業務に振り分けることの重要性について、さらに具体的なお話を伺ってみましょう。
(松岡氏)
BPOを導入する以前は個人の立替経費精算を、経理メンバー2名体制で3営業日までに処理していました。
この方法だと、まずは立替経費の処理時間が必要なため、売上の金額的により重要性の高い論点に十分な人員を割り振ることができていませんでした。
そのため、締め作業に多くの時間と労力がかかっていました。
また、BPO導入前は経費精算のルールが曖昧で、属人的な処理や人によって認識のズレがありました。
これは例えば、経費の申請者が決められた期限までに申請を行わなかった場合などにおいて「少し遅れちゃったけど頼むよ」と言われてしまった場合、その人との関係性を鑑みると断りづらいというような状況が発生する状況です。
こうした申請者との気を遣うやり取りは、ただでさえ膨大な単純作業に追われる経理担当者にとって、大きなメンタルの負荷を与えていたのです。
しかし、BPOを導入することにより、同時に今までは担当の頭の中だけにあったチェックポイントが文書化・明文化されました。
それによって、前述の「特例扱い」のようなことは起こり得なくなり、経理担当者の心理的負担と物理的負担の両方が軽減され、生産性の向上に大きな役割を担ってくれました。
このように、システム以外のプロセス改善でも問題を解決できることがあります。あくまで、業務改善が目的であってシステム導入すること自体が目的にならないようにすることが重要です。
最近では、対話型言語モデルであるテキスト生成AIが大きな話題を呼ぶなど、DX推進におけるAIの発達は大きな注目を集めています。
経理業務に関しても、AI-OCR(Artificial Intelligence –Optical Character Recognition:人工知能を活かした光学的文字認識処理)など、AIの発達により「経理業務そのものが必要なくなるのではないか」と一部では言われています。
そうしたテクノロジーの進化により、今後の経理部門はどう変化していくのでしょうか。
松岡氏のお考えをお伺いしてみました。
(松岡氏)
現時点で言えることは、「経理のやり方はテクノロジーの変化により大きく形を変えるけれど、人間でないと実施できないことはまだまだ多くある」ということです。
例えば、AI-OCRで請求書の処理をしたとします。
請求書に記載されている表面的なテキストは読み取れますが、表示されたテキストの内容にどのような意味があるかまでは、正確に認識できません。
例えば、どの部門が負担するのか、どのプロジェクトで使うのかといったことは請求書には書いていませんので、事業理解がないと正確に判断できないのです。
また、固定資産や投資有価証券の減損判定などにおいては、将来予測から得られた情報をもとに減損判定をする必要があります。
こうした将来予測は数字で計れる定量情報にくわえて、数値に置き換えることが困難な定性情報も多く含まれており、事業知識に基づく判断が必要となります。
また、現在のAI-OCRの性能は完全とは言えず、読み取りや変換のミスはまだまだある状態ですので、最後には人の目でのチェックが必要になります。
近年の会計基準は複雑になっています。
テクノロジーの進化を恐れるのではなく、むしろ任せられる部分はAI等に任せてしまい、人にしか出来ない業務に集中するなど、うまくテクノロジーを活用する思考が必要になるでしょう。
人とテクノロジーの融合、あるいは共存というテーマは、内閣府の提示する「Society5.0」構想などでも明示されていますが、それは経理部門のDXを進める上でも重要なのは間違いないようです。
では、松岡氏が考える人でなければ出来ない業務とは、具体的にはどのようなことを指しているのでしょう。
(松岡氏)
経理は新しいテクノロジーを積極的に活用し、単純な作業から脱却して今後いかに付加価値を生む存在になれるかが大事になると思います。
まず付加価値業務として、費用削減活動が考えられるでしょう。
継続改善により経理プロセスのコスト引き下げを追求するなど、企業全体の費用削減に寄与する提案は、経理部門が行う仕事として意味があります。
そうした積極的な提案をすることで、経営企画といった部門が実施する活動に幅を広げていくこともできるでしょう。
例えば当社はクラウド会計を売っている会社ですが、顧客に近い存在ということもあり、カスタマーサクセス部門、営業・マーケティング部門、広報部門、開発部門といった多くの部門と連携し、経理の枠組みを超えた活動を積極的に行っています。
DX推進前で経理作業に追われていた時期からしたら考えられませんが、今後もDX推進によりこのような付加価値を生めるよう、日々取り組んでいきます。
どれだけAIが進歩したとしても、人にしかできない領域が存在すること。これからも経理部門自体がなくなることはなく、むしろ付加価値を生み出す存在になり得るということは、DXが進んだ先の未来を不安視している経理担当者を勇気づけてくれる言葉ではないでしょうか。
松岡氏自身が同社内部のDX推進で留まることなく、その経験を新たに顧客先企業の経理DXに活かしているということは、まさに経理DXが生み出す「付加価値」を体現してくれていると言えます。
最後に、常にアクティブに動き続け、大きな成果を積み重ねてきた松岡氏に、経理部門がより付加価値を生み出せる部門に生まれ変わるために、必要となる「モノ」について訊ねてみました。
(松岡氏)
より変化が激しくなるこれからの時代を考えた場合、経理は「好奇心」を持ち続ける姿勢が大切だと考えます。
「攻めのDX」「攻めの経理」を実現するためには、好奇心をもって、より主体性のある行動が必要になってくるでしょう。
例えば私は、常々ChatGPTやCopilot(コパイロット)のような対話式AIなど新しい技術を活用して、経理業務を効率化できないかなど、常に新しいアンテナを高く張り、実験的な取り組みを自ら進んでやってみるようにしています。
もちろん、実際は上手くいかないことも多々ありますが(笑)
好奇心に駆られ主体的に行動を続けることで、時代の変化に左右されない真に価値ある経理パーソンになれるのではないのでしょうか。
最前線のDXソリューションを提供する株式会社マネーフォワードの松岡氏をお迎えし、2回にわたり経理のDXに関するお話を伺いました。
同社が提供しているソリューションは、DXを推進させるための、クラウド会計やBPOなど、従来の経理をアップデートするサービスばかりです。
経理DXにおいて業界のトップランナーである同社の、経理部門の責任者と聞くと、「これまでのビジネスの常識には当てはまらない型破りな人物」と想像してしまいます。
もちろん、豊富な経験と知見に裏打ちされた実行力と飽くなき探求心は、同氏がこの分野のエキスパートであることを証明しています。
その一方で、インタビューの中でおっしゃっていた経理DXの推進方法や経理のあり方は、決して奇をてらったものではありませんでした。
それどころか、現場に寄り添い相手目線で物事を考えるなど、DX推進だけでなく仕事を進めるうえで普遍的に重要なことばかりです。
このことは、DX推進は限られた才能のある人にのみできる特別なことではなく、基礎的で地道なことを積み重ねていくことさえできれば、実現し得る現実的な目標だということを示してくれています。
また松岡氏は安易にソリューションサービスに飛びつくのではなく、実際に現場を見たうえで、何が課題で何を解決したいのか、現場のメンバーと対話を続けながら、ボトルネックとなる部分を数年単位で取り組む胆力も必要であるとも説いていました。
これからの時代はテクノロジーがより進化するとともに、経理業務の自動化も必然的に進んで行きます。
その中で経理の存在価値を示すためには、人ならではの「相手への思いやりや相手に寄り添う気持ち」を含めて、AIにはできない価値の提供が大切になるのではないでしょうか。
貴社におかれましても、時代の変化に焦るばかりではなく、まずは身近なところから着実に改善を続け、価値のある経理になれるよう取り組んでみてください。
お金を前へ。人生をもっと前へ。 設立:2012年5月 本社所在地:東京都港区芝浦 事業内容:PFMサービスおよびクラウドサービスの開発・提供 >>株式会社マネーフォワード公式サイト |
The post 【業界インタビュー】経理DXを成功させる秘訣とは|(株)マネーフォワード執行役員松岡氏(後編) first appeared on DXportal.