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各業界のDX推進度は、その業界の特性、市場環境、技術の導入しやすさなど、様々な要因によって大きく異なります。
例えば、新規の技術導入が比較的容易なIT業界や金融業界では、デジタル化が急速に進んでいます。これらの業界では既にデジタル技術を活用する文化が根付いており、顧客のニーズもデジタルサービスに対応しているため、DXを推進しやすい環境が整っています。
一方で、建設業や農林水産業などは、物理的な作業が中心であり、古いシステムや慣習が根強く残っているため、どうしてもDXの導入が遅れがちです。
これらの業界では、デジタル技術が実現する利益や効率化が直接的には見えにくいことや、既存の業務プロセスや文化を変革することへの抵抗があるのも原因でしょう。
加えて、これらの業界はしばしば規制の対象となっており、新しい技術を導入する際にはさらなる障壁があるケースも存在します。
デジタル技術を取り入れるための障壁となる要因がそれぞれの業界に存在しており、その結果として、DXの推進度は業界ごとに異なっています。
DX推進を阻む要因が異なるということは、当然ながらその対処法も異なります。業界のDXを阻む要因を理解し、それぞれの業界に合ったDX推進アプローチを採用することが、DXの成功には不可欠なのです。
今回は、DXが遅れている業界と進んでいる業界のそれぞれの特徴について解説します。
まずは、DXが遅れている業界について見ていきましょう。
これらの業界で共通している課題としては、デジタル技術の導入に対する経営層の意識が挙げられます。
これまでデジタル技術の力がなくとも、ビジネスを継続・発展させてきた実績のある経営陣であればあるほど、なかなかDXの重要性を理解し、導入に踏み切れないのは無理のないことです。
しかし、トップ層の意識改革なくして、DX成功は望めません。まずは、デジタル化やDXを「自分事」として捉えられるようになることが、業界・企業のDX推進の第一歩です。
また、専門的なIT人材の不足も、DXの進展を妨げる要因となっています。
デジタル技術に頼らずにビジネスを続けてきた業界である以上、内部に専門家がいないことは当然のことです。つまり、「もともとデジタル技術との接点が薄かった」ために、技術面だけでなく、組織文化や人材育成の点でも課題が山積しているのです。
こうした共通の課題に加えて、業界特有の課題も存在します。
それぞれの業界のDXが遅れている原因について考えます。
建設業界は、DXへの取り組みが特に遅れている業界の1つです。
建設業界では、「2024年問題」への対応の遅れから見てもわかる通り、業界の構造そのものがDXを阻む要因になっています。
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やドローンの活用など、一部には高度なITテクノロジーを導入しているものの、慢性的な人手不足も相まって、ほとんどDXが進んでいないのです。
建設業界の業務は、その多くが実際に建物を建てる段階の肉体労働から成り立っています。
デジタル技術を導入したとしても、物理的な建築の作業を置き換えることは困難であり、わかりやすくデジタル化の効果を実感しにくい業種です。それゆえに、DXを進めようという意識のある経営陣が少ない状況があります。
また、慢性的な人手不足によって業界の人材が高年齢化し続けていることもあって、デジタル技術の活用に抵抗感が生まれやすいということも、建設業界のDXが進まない原因の1つになっています。
建設業界では、長年にわたる業界の慣行とプロセスが確立されています。そのため、これらを変更することに対する抵抗感が根強く残っています。
また、仕事を覚えるためには先輩の仕事を「見て学ぶ」。その上で「働きながら学ぶ」という伝統的な方法に慣れ親しんだ労働者や管理者が少なくありません。現代ビジネスにおける「効率化」とは乖離した伝統が根付いているのです。
そのため、教育システムをはじめ、新しい技術の受け入れが難しいという要素も少なくありません。
建設プロジェクトはそれぞれがいわば「一点もの」の独特なプロジェクトであるため、標準化されたデジタルソリューションの適用が難しいことも特徴の1つです。
人や組織、あるいは地域によってプロジェクトに必要な要件や状況は大きく異なります。そのため、それぞれプロジェクトに合わせた柔軟な対応が求められるのです。
一律のデジタル化が進めにくいという業界の特性と、長年の伝統・監修が相まってDXが進まないという問題が生じています。
アパレル業界もDXが遅れている業界の1つです。
これまでは対面販売がベースであったアパレル業界ですが、コロナ禍を契機にDXへの取り組みがある程度は進みました。しかし、多くの企業があくまでも対面販売の売り上げの減少を補うためにオンライン販売を始めたという段階に留まっています。
アパレル製品は、その商品の特性上、オンライン販売が難しい部分があります。サイズ感や手触りは、実際に試着をしないとわからない部分が多く、また画面では色や質感も伝わりにくいのです。
オンラインでの販売を促進するために、完全返品制度を導入するなど企業ごとに工夫を積み重ねてはいますが、それでも効率の悪さは否めず、オンラインでの服を購入することには少なくないハードルがあります。
この商品の特性は、アパレル業界のオンライン市場への適応を困難にしている大きな要因の1つです。
また、アパレル業界は長年にわたる商習慣や取引様式が残っているため、新しいデジタル技術への移行が難しい業界です。商品の魅力を顧客に直接伝えることで販促を行う対面販売がベースとなっていることは、その最たる例でしょう。
そのため、オンライン販売やデジタルマーケティングのような新しい手法の導入に対する抵抗感が根強く残っており、そこへの知識やスキルが追いついていないという状況を招いています。
デジタル社会において、消費者の行動は多様化し、1店舗が抱えられる在庫だけでは対応がしきれなくなりました。そのため、多くの業界がオンライン販売の拡充をはじめとするデジタル戦略を採用し、多様な消費者のニーズに対応しようとしているのです。
しかし、実店舗での対面販売を主に発展してきたアパレル業界では、こうした消費者の行動パターンの変化に合わせたデジタル戦略が不足しています。
「実際に手に取って、試着してもらわなければならない」という常識が根付いたアパレル業界は、こうした変化に対して常に対応が後手に回ってしまっているのです。
特に、オンラインでの販売戦略やSNSマーケティングの活用が遅れが顕著です。
農林水産業も、DX推進が遅れている業界の1つです。
国や自治体の政策とも関連性が高い農林水産業の場合は、一企業、一個人の努力だけでは変えられない部分も多いため、やる気があっても迅速なDXへの対策を取りづらいことも、農林水産業DXが進まない理由の1つに挙げられます。
DX推進の遅れ以前に、農林水産業は高齢化が顕著であり若い労働力の不足が大きな問題となっています。
ごく一部の先進的な企業・個人を除いて、高齢の農家は新しいデジタル技術への理解や採用が遅れがちです。
今まで続けてきたルーティン作業を変えることなく、デジタル技術を活用した効率化などを考えていない高齢な農林水産業者が多いことはある程度は仕方がないことですが、その意識を変革させていくことなくしては、業界のDXを進めることは困難です。
スマート農業や最新の養殖技術など、新しい技術の導入には高額なコストがかかります。
特に個人や小規模企業の経営にとっては、初期投資の負担が大きく、仮にDX推進に意識が向いたとしても、現実的なコスト問題で技術導入が遅れてしまう部分があります。
業界全体を変革させるためには、政府や自治体のリーダーシップや助成金制度の創設・拡充、業界団体などが小規模経営業者に対してソリューションを提供するなど、抜本的な対策が求められます。
高齢化と密接に関係する点ですが、農林水産業界では、後継者の不足も深刻です。デジタルツールを使いこなせる若い世代のこの分野への関心が低いということは、この分野の発展を妨げている原因の1つです。
さらに、後継者が不足していることで、高齢な経営者が「自分の代で会社を畳もう」と考えていることも少なくありません。
中長期的なビジョンがなく、むしろ段階的な縮小を検討しているような企業の場合は、「今さらデジタル技術を活用するなど、新しい試みをしても意味がない」と考えるのはある意味当然のことです。後継者不足により、未来志向でない企業が増えてしまっていることもDX推進を困難にしています。
教育業界は、コロナ禍を機に大きくDXへと舵を切りました。依然として残る課題への解決策を見出し、実行に移すことで、生徒の学びや教員の教育環境が大きく改善されることが期待されていますが、その取り組みはまだ十分とはいえない状況です。
現代の生徒はデジタルネイティブ世代であり、教員や学校の準備が整いさえすれば、容易にデジタルツールを使った学習ができるでしょう。
教育現場では、デジタル技術を活用した教育の普及が遅れています。特に公立の教育現場では、長く続いてきた伝統的な教育方法を革新しようという動きがほとんどありません。これまでのやり方を大事にしすぎる意識が新しいテクノロジーの導入を妨げてしまうのです。
また、公立学校の場合は学校単位の判断でデジタル技術を活用した教育方針を打ち出すことも難しいため、意欲のある学校があってもなかなかチャレンジをすることができません。結果として、最先端のICTを活用した教育のモデルケースも生まれにくく、そのことが教育現場のデジタル化を遅らせる原因ともなっています。
昨今、教育現場で働く教員の多忙さは社会問題になっているほど深刻です。
デジタル技術をはじめとする新しい技術を習得し、授業に効果的に取り入れていくためにはそれなりの時間と労力が必要ですが、教員の業務負担はそういった時間を作れるような状況にありません。
デジタル技術を効果的に活用できれば、教員の業務負担を減らすことにも繋がるのですが、その導入に向けたアクションを起こせるだけの余裕がないのです。
この状態を解決するには、教員の勤務体制を考え直すのと同時に、デジタルツールや新しい教育方法を習得できる研修やサポート体制の整備が求められるでしょう。
続いては、反対にDXが進んでいる4業界を紹介します。これらの業界では、デジタル技術の積極的な導入が、業務プロセスの改善と新たな価値創出の両方に貢献しています。
DXの成功は、顧客のニーズと市場の動向を理解し、それに応じたデジタル戦略の実施によって実現されます。
これらの業界ではなぜDXが進んでいるのか、また主に採用されているDX施策を学ぶことで、自社のDX推進への参考になるはずです。
IT業界でDXが進んでいることは想像の通りでしょう。業界の性質上、新しい技術を取り入れていくことが根付いています。この業界は常に技術革新の最前線にあり、デジタル化はその核心をなす要素です。
IT業界は最新の技術にアクセスしやすい環境にあり、そこで働く人々ももとからDXや最新のITテクノロジーに対する意識が高い傾向があります。
例えば、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AIなどは業界の成長と直結していますので、IT業界に勤める人々はこうした技術に対するスキル習得に熱心です。
また、IT業界は変化に柔軟に対応しやすいビジネスモデルであることも理由の1つです。
金融業界におけるDXの進展は、顧客ニーズの変化や技術革新への対応を反映しています。
デジタル社会を迎え、特にコロナ禍を経由した現代では、消費者はオンラインでの取引を好み、実店舗でも非接触型の決済方法を好む傾向にあります。
それに加えて、金融規制の緩和により、新しいビジネスモデルや革新的なサービスの導入が容易になっています。
さらに、ビッグデータ、AI、ブロックチェーンなどの新しい技術が金融業界に革命をもたらし、新しいサービスや効率化の機会を提供することで、金融業界のDXは発展してきました。
物流業界は、DXにより迅速かつコスト効率の良いサービスの提供が可能になり、顧客満足度の向上にも寄与しています。
インターネットショッピングの普及により、配送の需要は急増しました。この状況に対応するため、物流業界はデジタル技術を駆使して業務の効率化を追求してきたのです。
物流業界は、旧態依然としたシステムに留まっていては対応しきれない現実を突きつけられたことがきっかけで、配送の迅速化とコスト削減のため効率的なオペレーションを実現するためにDXにかじを切ったのです。
医療業界におけるDXは、医療現場における諸課題に対応するために重要な役割を果たしています。
これらの施策は、医療業界において業務の効率化、患者の医療へのアクセス向上、そして最終的には医療の質向上に貢献しています。
少子高齢化の進行に伴い、医療従事者の不足が顕著になっています。そのため、DXによる業務効率化は、医療業界の人手不足を補う重要な手段となっているのです。
デジタル技術を活用した医療プロセスの効率化は、診断から治療までの時間を短縮し、患者に対するサービスの品質向上に寄与しています。
医療における高度な技術の必要性が高まる中、DXは新しい治療法の開発や疾患研究に貢献するため、医療業界におけるDX推進の重要性も飛躍的に高まっています。
AIやビッグデータの活用は、より効果的な治療計画の策定や病気の早期発見に繋がります。電子カルテシステムやオンライン予約システムの導入は、患者と医療提供者間のコミュニケーションを改善し、患者の体験を向上させるでしょう。
DXの推進は、企業や組織の将来的な成長と持続可能性にとって重要ですが、すべての企業が大規模なデジタル変革を一気に実施することは現実的ではありません。
まずは、組織の現状、資源、強みと弱みを正確に理解し、それに基づいてDXの計画を立てることが重要です。
そのうえで、身の丈に合ったステップを踏むことで、無理なく、かつ効果的にDXを推進できるのです。
初期段階では、小規模ながらも明確な成果をもたらすプロジェクトから始めることで、組織内でのDXの理解と支持を得やすくなるでしょう。
小さな成功を積み重ねることで社内全体でDXの意義への理解が深まれば、徐々により大規模なプロジェクトへとステップアップしていくことが可能となります。
DXは一度きりのプロジェクトではなく、継続的なプロセスです。市場の変化や新技術の出現に柔軟に対応し、必要に応じて戦略を調整していかなければなりません。決して、一朝一夕で成功するプロジェクトではないのです。
本記事で紹介した、DXがうまくいかない企業の特徴なども参考にして、ぜひとも段階的なアプローチを踏むことで、現状の身の丈に合ったDXへと取り組んでみてください。
その先にこそ、企業は持続可能な成長を達成することができるのです。
The post DXが遅れている業界と進んでいる業界の境界線|原因と課題を考える first appeared on DXportal.